第016話 【魔法で殴り続ければ相手は死ぬ】

 往時には存在しなかった『アシッド・キューブ(傷口から酸を撒き散らすデカいスライム)』に帰り道を塞がれ、あーだこーだと会議中の俺たち。

 その性質から近接での物理攻撃は悪手らしく、『なら遠距離から魔法スキルで!』と、なりそうなものなのだが(俺以外に)まだ誰も攻撃スキルを持っていないらしい……。

 見た通り飛び道具も持ってないしね?ダンジョン、洞窟だけど石も落ちてないしさ。


 てかさ、これまで特に魔法を使わないと倒せないような敵とは遭遇してなかったからさ、ぶっちゃけ……使ってみたいんだよね、魔法スキル。

 でもほら、前回、治療スキルでやらかしちゃってるじゃん?

 だからこう、また何か言われそうと言いますか、トオルだけじゃなく静たんにまで詰められそうだからなぁ。

 ちょっとうつむき加減で、可愛くチラチラと静たんに視線を向ける俺。


「……さっきからこちらをチラチラと見るその視線は一体何の意思表示なのかしら?

 貴方がそんな顔をしても、少ししか可愛らしく無いわよ?」


「むしろ少しでも可愛い要素があったことにビックリだわ。

 まぁほら、アレじゃん?このままここでジッと待ってるだけって言うのも退屈だし芸が無いと思わないか?」


「つまり先程からの視線は、空き時間を二人で有効活用するために、私とお見合い的な事をしたい……と言うことかしら?」


「全然違うけどね?まぁもう?今更だと思うし?ストレートに言うけどさ」


 俺の返事を聞いて『そうなの、違うのね』と言ったかと思うとプクッと頬を膨らませる静たんと、口元を引き攣らせるトオル。

 あざとい、静たんあざとい。


「ユウ、ちょっと待って!今の時点ですでにろくな話じゃないように思うんだけど……それは僕が聞かなきゃダメな話なのかな?

 アレだったらそのまま一人で墓場まで持っていったほうがいいと思うんだけどな?」


「アレって何だよアレって。

 今回はそんなに変な話じゃないから大丈夫だよ!

 そう、ただ遠距離の攻撃出来るスキルが使えるってだけのことだから!」


「ダンジョンに入りだして数ヶ月で二つもスキルを手に入れてるってだけで十分オカシナ話だって気づいて?

 ……いや、君、どうして視線を反らしてるのかな?ほら、ちゃんと僕の目を見てごらん?

 もしかして、もしかしてだけど……使えるスキル、『二つ』だけじゃないとか言わないよね?」


「まぁその辺は追々と?

 てことで、ちょっとあのスライムに攻撃してみたいんだけど構わないかな?

 もしも倒せたらとっとと帰れるし、失敗したら阿部さんの案を採用してその辺でゴロゴロして待ってればいいだけだし」


「まったく、普通ならかなり追い詰められた状況のハズなのに緊張感のない人ね……」


「ふふっ……それでこそユウくん……」


「誰からも反対意見が出ないみたいだし、賛同されたと言うことでよろしいかな?」


「どうせ反対しても君はやるだろうしねぇ……」


 さて、現状で俺が使える『魔法スキル』は三つだけ。

 そのうち糸を投げつける魔法はどう考えても意味がなさそう(そもそも動いてない相手だからね?)なので、残るのは『魔法の矢』と『火球』の二つだけなんだけど、


「相手はスライム、見た目は巨大なナメクジみたいなものだし……火球で焼き払うのが正解かな?」


「普通に考えるならそうね。でも、これだけ体積の大きな相手だと、表面を少し焦がす程度ですぐに回復されるのでは無いかしら?」


「確かにそうかも?……んー、コアを直接攻撃する方法……回復するまでに火球を連発すれば……そもそも連射出来る魔法じゃなさそうだよな、火球。

 なら魔法の矢なら……でも、威力が弱そうだしなぁ……水面に向かって銃弾を撃ってるみたなモノ……いや、『矢』って言うからには水中銃みたいに刺さるかな?」


「明石さんは状況を受け入れるのが早いね……。

 と言うか、もう既にネットで見たことが有るスキル名が二つ出てきたんだけど?」


「久堂くん……細かい事を気にしてると……ハゲる」


「だってこんなとこで何時間も待つのとか嫌だし……ねぇ?」


「魔法が目の前で見れるチャンスなんて無いと思ってたから嬉しいです!」


「僕以外全員、場に順応しすぎじゃないかな!?」


「……てか魔法スキルってどうやって使えば……ああ、なるほど、発動ワード的なモノを唱えれば良いのか。

 『回れ回れ魔法の矢!』……あれ?特に何も起こらないな……ナニコレ超恥ずかしいんだけど……」


 いきなり『ステイタス・オープン!』って叫んだは良いものの、特に変化が無く、現地人に生暖かい目で見られてた異世界のアイツのことを思い出しちまったじゃねぇかよ!


「自分、このまま蹲って貝になってもいいっすか?」


「いや、起こってるから!上!頭の上で何か動いてる!」


「ん?上?……おお!確かにクルクルしてる!

 ただ大きな声で叫んだだけの男の子は居なかったんだね!

 ……それで、これはどうやって飛ばせば良いんだ?」


「知らないよっ!」


 そこはちゃんとネットで調べておいてくれよ!と思う他力本願な俺。

 なんとなく指でピストルを作って狙いを定め、


「ドーーーーン!!!」


「どうして喪黒○造!?そこは格好良く『BANG!』とかで良いんじゃないかな!?」


「確かに」


 まぁちゃんと狙い通りに飛んでいったし?結果オーライじゃね?


「てか、思ったより奥まで刺さったな、回りも結構抉れたし」


 まぁ十秒ほどで、跡形もなく回復しちゃったんだけどさ。

 でも同じ場所に、連続で何発、何十発と打ち込めばコアまで攻撃を到達させるのはそんなに難しくなさそうなんだけど?


「んー、頭の上で魔法をいっぱい回しておいて、次々と打ち込めば倒せそうじゃない?」


「仮にそんなことが出来ればだけどね?

 と言うか僕が動画で見た『魔法の矢』とは何となく違うんだけど?

 どうして飛んでいく前に君の頭の上で待機してるの?」


「本来はそういうものだったんじゃね?知らんけど」


 んー、魔法力(MP)が目で見えれば、一度にどれくらいの数が撃てるのかがわかるんだけど、そもそもダンジョン・カードには細かい能力値の情報なんて、何一切ッ表示されてないからなぁ……。


「……魔法力を一割残して!魔法の矢を出せるだけ発動!」


「いや、そんな曖昧な呪文で魔法が使えるはずが……いっぱい回ってる!?」


「マジカヨ……スキル、応用効きすぎだろ!?」


「自分でやっておいて驚いてるってどういうことなのよ……」


 どうやら成功したみたいだ。



 で、結果的には……。


「ふっ、どうやら倒せたようだな」


「物凄い力技だったけどね!?」


 五十発ほど魔法の矢を撃ち込むことにより、キューブのコアまで攻撃が届き、無事怪我人もなく退治に成功!

 ……もちろん一度にそれだけの数の魔法の矢を出せるほどのMPは無かったんだけどね?

 なら、一体どうしたのかと言えば、


「それよりも貴方、スキルを重ねがけする時に飲んでいたモノは一体何なのかしら?」


「ん?鉄○飲料だけど?」


「そんな珍妙な名前の飲み物なんてあるはずが無いでしょう!」


「サン○リーと鷲尾○さ子に謝れ!」


 こっそりと下級MP回復ポーションを買って飲んだんだよ……お値段、三本で150魔石ナリ。

 拾った個数を考えると完全に赤字である……。


―・―・―・―・―


鉄骨○料とか維○(ウ○リー)とか飲んだこと無いけど懐かしいよね!(笑)

ちなみにあかむらさき、懐かし飲料としては透明じゃなかった頃のヨーグ○ーナが好きだったなぁ……。

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