第015話 【行ーきはよいよい、帰りは通せんぼー♪(もう一階!)】

 お互いに戦い方を見せ合ったその後も、交代交代での戦闘訓練は続く。

 ……とは言え一日どころか、たかだか数時間でトオルたちの動きが目に見えて良くなった!などということが起こるはずもなく。


「やっぱり貴方の動きはおかしいと思うのよ……。

 牙がある獣、武器を持った魔物を相手にして、どうすればあれだけ後先考えずに踏み込めるの……」


 それはもう『異世界で慣れてるから!』……ってだけではないんだろうなぁ。

 ほら、俺って一時期自暴自棄になってたからさ。

 防御のことなんて一切合切、何も考えずに突っ込んでいって……大怪我をしたわけだな。

 まぁそのおかげ(?)で、こうして今でも物怖じしないで魔物に飛びかかれるんだけどな!


「んー……身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ?」


「ユウギリくん、それを言葉のままに、肉体的に実践することが出来るのはただの○○○○だと思うわよ?」


「静たん酷い……。

 まぁあれだ、別に俺にクソ度胸があるわけじゃなくて、ただ体に染み付いた投げやりの結果だからさ。

 テレビの前のみんなは真似はしないほうがいいのは確かだな」


「言われなくてもしないし出来ないわよっ!

 でも、こうしてみればあんたって男子高校生にしては達観してる部分があるよね?普段は一体どんな生活してんのよ?」


「それ、ティアラも気になる……」


「えー……それほど親しくもない人に私生活を晒すのはちょっと」


「あんた、私にあれだけ恥ずかしい事をしておいてその言いぐさはどうなの!?」


「人聞きの悪い事を言うんじゃない!

 あれは……あれだ、『お前が勝手に恥ずかしくなっただけ』であって俺は何もしていない!」


「なん……だと……ユウくんはティアラ以外にも恥ずかしい事をしたの……?

 先に言っておくけど……エリスは中学の頃から……」


「ティアラちゃんにも恥ずかしい事なんて一切してないからね?

 治療のために足に湿布を貼っただけだからね?

 てか秋吉は中学の頃から何だったのか物凄く気になるんだけど?」


「ティアラ、人の過去をこんなところでほじくり返すのは良くないわよ?

 むしろ私にティアラの色々をほじくらせなさいよ!

 あんたも……私のことが気になるのはわかるけど自重しなさい!」


「ふっ……一つだけ教えておく。

 エリスの中学の時のあだ名は……サイ○レズ」


「なにそのビックリするほど納得できるあだ名。

 てかその一つだけでもうすべてが理解出来たから他の事は聞きたくねぇわ!」


 うん、静たんとトオルからの、体の芯から凍えてしまいそうな冷たい視線を感じるのでティアラちゃんと秋吉、二人のあれやこれやの話はこれ以上広げるべきではないな。

 クラスが違うからか、イマイチ会話に入ってこれなくて安倍さんも寂しそうにしてるしね?



 そんな、心寒くなる雑談を挟みながらも俺たちの探索は続く。

 ほとんど歩いてるだけ、戦闘よりも移動に時間を取られるのでかなり退屈な時間だったんだけどね?

 もちろん二階層のもっと奥まったところまで行けば、もっと強いコボルト(特にネームドモンスターなどではない、あくまでも熟(こな)れた動きをするだけのコボルトだけど)も居るらしいが、チワワがシェパードになるほどの変化が有るわけではないので時間を確認しながら、適当なところでそのまま引き返すことに。

 

「今日はありがとう。君が居るだけで随分と余裕を持って連携の練習が出来たよ。

 一応聞いておくけど、これからもこのまま一緒に……とかどうかな?」


「んー、申し訳ないけど、それはごめんなさいさせてもらってもいいか?

 残念なことに日々の生活が掛かってるからさ。グループで活動してると稼げない」


 こうして大勢でワイワイしながらダンジョンに潜るもの楽しかったんだけどな。

 いかんせんこんな浅い階層で、この人数で分配するとなると、魔石も経験値もまったく稼げないからな。


「高校生なのにその所帯じみた理由はなんなのよ……もしかして、一人暮らしでもしているのかしら?」


「まぁそんなところだ。あまり面白い話でもないから気にしないでくれ」


「ユウくんは一人暮らし……ティアラ覚えた」


「つまりあんたの家を私達の休憩所にしても良いってことね?」


「人の家をラブホ扱いするの止めろや!

 見学してもいいなら貸すことはやぶさかでは無いけれども!

 てか……なんだ、あれ?」


 前方に現れた、いきなりの変化に思わず立ち止まる。


「いきなりどうし……なんなのよ、あれ?」


 俺が先に聞いたんだけどね?

 あまり緊張感無く歩いていた俺の警戒スキルに引っかかった、行く手というか、通路を立ちふさぐ……魔物……なのかな?

 立ちふさぐは違うか、ピッタリと、通路の隙間を埋めつくすように塞いじゃってるんだけど?


「あれって、もしかしてもしかするとぬりかべ!ぬりかべではありませんか!?」


「安倍さんのどんな琴線に触れたのかわからないけどちょっと落ち着いて?

 今まで洋風な魔物しか出会ってないのにここに来て日本妖怪とか……無くはないかもしれないけれども!

 見た目、黃味がかった半透明で真ん中にはコアらしい蠢く物体……ぬりかべって言うか、ただの大きなスライム?」


「まったく、少しは勉強しておきなさいよ……。

 私も写真でしか見たことはないけど、おそらくあれはキューブと呼ばれる魔物ね」


「シズカ……キューブ、イズ……何?」


「何と言われても困るのだけれど……。

 言うなれば大きなスライムかしら?」


 何だよ!やっぱりスライムじゃん!


「正体が何かはとりあえず置いておくとして。

 アレ、どうにかしないと先に進めないよね?」


「確かに、ここからまた戻ってきた道を進んで、枝道を探してたら帰れるのはいつになるかわからないしな。

 ここから静たんにナビしてもらいながら進めば、ワンチャン何かの間違いで正しい道を見つけられるかもしれないけど」


「あ、あの時はたまたま、少しだけ道を間違えただけよっ!

 でも、どうにかすると言ってもあのキューブ、色味から見て間違いなくアシッド・キューブよ?

 下手に斬ったり突いたりしたら、あっという間に骨まで溶かす強酸が吹き出してくるわよ?」


「ナニソレコワイんだけど……あんた、ちょっと槍で突いてみなさいよ」


「絶対に嫌だけどね?てか、アレってスライムと同じなら少しずつ削れっていけばそのうち死ぬのか?」


「僕が読んだ海外のサイトだと、コアを潰さない限りはすぐに再生しちゃうって書いてあったけど……」


 どうやら思ったよりも面倒くさい魔物のようである。


「どうやらあそこから動かないみたいですし、少し下がって救助を待つのはどうでしょうか?

 ここは二階層、それも階段からも数時間の位置ですし、学生が戻ってこないとなれば捜索のために探索者の方が来てくださると思いますけど?」


「確かに、安倍さんの意見は正しい!とは思うんだけどね?

 ……一応確認だけど、攻撃魔法的なスキルを持ってる人って誰かいる?」


 全員でふるふると横に首を振る美少女とトオル。

 約一名、首の動きに合わせてスイカがばるんばるんしてるけど気にしてはいけない。

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