第013話 【手甲剣(パタ)ってそそられるモノがあるよね?】

 結局他に方法が無いので中庭で大胆な水浴びをすることになった俺。

 もちろんそのまま荷物を取りに行くことなんて出来なかったので、トオルにお願いして教室に置きっぱなしになっていた鞄と体操服を回収して来てもらった。


「そこに立ってていいよ?僕が水を掛けてあげるから」


「おう、助かる!……いや、痛い痛い痛い痛い!

 それ、シャワーホースだよね?どうしてシャワーじゃなくて水圧が上がる方、ストレートに、レーザーみたいに水が出る方に切り替えちゃったんだよ!」


「そうだね、どうしてだろうねぇ……?」


 いや、知らんがな……。

 そんな、秋吉の体内から放出された水分でビッタビタ状態の全身を、上半身裸になって洗い流してる俺とは違い、下半身以外はほぼ無傷だった元凶はと言えば、


「ちょっとまて!お前はどうして一生懸命手揉み洗いしたばっかりの俺のTシャツとジャージを持って行こうとしてる?」


「あんたバカなの?あんたのせいで拭くものと履き替えるものが必要だからに決まってるでしょ?

 ……ああ、もしかしてジャージの代わりに私の脱いだパンツを寄越せとかそういう意味?

 これだからドMの変態は……。しょうがないから後でちゃんと持ってきてあげるわよ!」


「……誰もそんなこと頼んでないんだけどね?」


「君、否定するまでに天使と悪魔の葛藤があったのはどうしてなのかな?」


 だって……少しだけ……いや、そこそこ多大に欲しかったんだもん!

 ここで『お願いします!』と即決で返事出来る勇気が欲しい俺だった。

 てか、せっかく洗った俺のシャツでドコを拭くつもりなんですかね?

 そもそもトイレで着替えるんだよね?それだったら素直にトイレットペーパーで拭けばいいじゃないんですかっ!?


 ……あと、貸したジャージ(下)は洗濯しないで返してもらってもいいですかね?



 なんかもう……週初めに色々と有りすぎて、物凄く久々に感じる今日はダンジョンアタックの日である。

 てかさ、秋吉。

 次の日、朝からジャージを返してきたのはいいんだけどさ。


「借りたジャージは返しとくね。ああ、あの時の私のパンツはそのままあんたにあげるから」


 とか大きな声で言うんじゃないよ!静たんにプレゼント貰った時よりも教室がざわついただろうが!

 むしろ十秒くらい時が止まったかのように教室が無音になったわ!

 あとパンツは借りても貰ってもないから!てか、その場に居たはずのトオルの疑いの視線は一体何なんだよ!



 ……気を取り直して、迷宮である。


「ユウ、お願いがあるんだけど……今日は一緒のグループで潜ってもらえないかな?」


「トオル、とりあえず一度、回りを確認してから発言してもらってもいいかな?」


 朝の秋吉の発言からこっち、教室でも、移動のバスの中でも、静たんとティアラちゃんからガン見されてるからね?

 目を見開いた日本人形とフランス人形みたいな二人が首を『ギギギ……』って動かしながらジッとこっちを見つめ続けてるからね?

 まぁ、冗談はさて置き……いや、この恐怖感は冗談は無いんだけどさ。


 トオルのグループ、先週やらかしちゃってるからなぁ。

 女の子が顔や体にあれだけの怪我をしたらトラウマになって萎縮しちゃうのも……見た感じまったく萎縮も緊張もしてなさそうだけどさ。

 それでも近くに回復役が居れば安心出来るだろうしね?


 ……さて、どうしよう?

 四月なら断る一択だったけど、知り合いの増えた今日このごろだしさ。

 生活費にはそれなりに余裕も出来たし、何より数少ない友人のお誘いだからな。


「んー、そうだな。試しに今日一日だけ様子見……って感じなら?」


「えっ?いいの?」


「いや、どうして自分から誘っておいてその反応なんだよ……。

 まぁ、たまにはグループ活動もしておかないと、担任に評価とか成績とか下げられそうだしな」


 まぁ五月蝿い事を言うような人でも無いんだけどね?

 担任に声掛けと言うか連絡というか『俺、ちゃんと忠告を聞いて、今日はグループ活動してきますよ!』アピールをしてから、いつも通り装備品のレンタルに向かうことに。

 さすがにスライム以外も相手にするとなるといつもの武器、突くだけで振り回したり切り裂いたり出来ない刺突剣(エストック)だと不便だし。


 かと言ってデカい剣なんて使ったことは無い俺。あまつさえ槍とか斧とか弓なんて触ったこともないんだよな……。

 異世界で使ってたのはショートソードとバックラーという、前座の『剣闘士(グラディエーター)』みたいな装備だったからなぁ。

 てことで、ほとんど消去法みたいな感じで選んだのがこちら!


「細身の剣(レイピア)は結構使われている方が居ますけど……手甲剣(パタ)とはまたマニアックな武器を選びましたね……」


「出来ればあまり剣部分の長すぎないモノで、篭手部分の頑丈なものが良いんですけど……ありますかね?」


「ふふっ、もちろんです!」


 右手にレイピア、左手にパタ。獣(狼)が相手ってことだし、噛みつかれると危ないので首も守れる和鎧の兜と面頬を簡略化したような防具も添えて。

 体は……一応革鎧くらいは着けておくか。

 全てを装備した後、集合場所に向かって移動を始めるも、


「うん、いつもと比べるとむっちゃ動きにくい。とりあえず早く脱ぎ捨てたい」


「そもそも剣一本でダンジョンの中をウロウロしてる『いつも』がオカシイだけだからね?

 むしろ普段も最低限度それくらいの防具は着けるほうがいいと思うよ?」


 だって、スライムしか相手にしないのに、全力を出す必要もないしねぇ……。


 久々のグループでの行動、いつもとは違う装備品を出してもらったので皆より少し時間がかかった俺と、俺を待っていてくれたトオルが集合場所に到着する頃にはメンバーの女性陣は既に全員が集まっていた。

 今さらだけど、顔面偏差値の高いパーティだなぁ。


「てことで、前回はかなり危ない経験をすることになってしまったので、今回は安全面を考えてユウに一緒に来てくれるようにお願いしました」


「そもそもスライムしか殴ってない俺が加わったところでどうなのさ?って話なんだけど、足を引っ張るつもりは無い……無いはず……無ければいいな?」


「そこはハッキリと言い切りなさいよ……。

 ま、まぁ、貴方……ユウギリくんが居てくれるだけでも随分と安心できるわ、よろしくお願いするわね?」


「大丈夫……ティアラが守ってあげるから……」


「うー……ううう、ううー……」


「私はグループとしてご一緒するのは初めてだよね!

 安倍夕顔です!スイカの人では無いです!よろしくお願いします!」


 どういう感情なのかは分からないけど隣の人……秋吉が『お前は初期の頃のバイオハ○ードのゾンビか!』って雰囲気で、ゆらゆら揺れてこちらを睨みながら唸ってるのが怖いであります!

 

「何にしてもパーティの連携とか考えるのは二階層に入ってからだと思うから、一階層はちゃちゃっと小走りで抜けちゃうか!

 トオル、隣で次の階層までの道案内よろしく!通りがかりのスライムは全部俺が処理するから」


「何なのさその通り魔的発言は……。

 了解!というか君、その装備でどうやってスライムの対処するのか物凄く気になるんだけど……」


 そういえば初日にダンジョンに潜った時は全員ダウン状態だったから、トオルたちには戦闘行為は見せてなかったんだっけ。

 小走りで駆けながらも、いつも通りギリギリまで近づいてスライムを飛び上がらせ、レイピアで突き刺しながら倒してゆく俺。

 もちろん勿体ないのでドロップアイテムがあれば全部拾いながら!


 そもそも階段の位置が入り口からそれほど離れていないことと、トオルのナビゲーションが有ったこともあり、半時間ほどの移動で二階層の階段まで到着する。


「アレなら確かに、一人で一階層に籠もってても十分に稼げそうだね……。

 何なの?君は軽業師かなにかなの?」


「そんな大層なモンじゃないだろ?

 ボールを扱ってる運動部の部員ならちょっと練習さえすれば誰にでも出来ると思うぞ?」


「いいかしらユウギリくん。

 ボールは……殺意を持って人に飛びかかってきたりしなのよ?」


 えー……。バレーにせよ、サッカーにせよ、野球にせよ、そこそこの殺意を持ってぶち当ててくるヤツいるよね?



【スライムをい○めるんですな】


「ダンジョンの中にスライムがおりますな。

 一番弱い魔物ですな。

 スライム、三メートルくらいまで近づくと『プルンっ』と震えますな。

 尖ったものを目の前に掲げるんですな。

 飛びかかってきて勝手にそれに刺さりますな。

 スライム、死にますな」


「えっとユウ?いきなり何なのかなそれは?」


「もちろんスライムい○めだけど?

 ほら、桂ざ○ば(当時朝○)師匠の『動物い○め』ってネタがあったじゃん?」


「いや、そんな『誰でも知ってるよね?』みたいに言われても、僕にはまったくわからないんだけど……」


―・―・―・―・―


誰がわかんねん……というネタを最後に投げっぱなしにして、読者様を混乱させてゆくスタイル……(笑)


そしてここから少し真面目なダンジョンアタックが始まります!

(真面目にするとは言っていない)

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