第018話 【半分は……俺が相手になってやる】

 転職のスクロールが気になって気になって仕方がないけど、週末まではじっと我慢しなければいけない週明け月曜日の昼休み。

 なんだろう、昔の恋愛ゲーム並みに昼休みにイベントが集中するんだけど……。

 おそらくは上級生、襟章を見る限りは二年生であろう人相の悪い男が三人クラスに乱入してきた。


 知らない顔出し?まぁ何の関係もないだろうと興味を失い、視線を外した俺とトオル。

 なのに、いつの間にか何かフラグが立っていたらしく席まで歩いてきた三人組が、


「久堂、ちょっと一緒に来てもらえるかな?」


 などと言い出す始末。てか俺たちこれから昼飯なんですけど?

 仕方無さそうに、俺と向かい合って座っていたトオルがため息をつきながら席から立ち上がり、それにワンテンポ遅れて立ち上がろうとする俺に、


「……心配しなくてもいいよ、すぐに戻るから先に食べてて」


 と、一言だけ告げる。


「何だよ?飲み物くらい自由に買いに行かせろよ」


 学校の自販機って某乳業の紙パック飲料が多いのはなぁぜな……?自分で言いそうになってイラッとした。

 凄まじく煽り力高いよな、なぁぜなぁぜ。ポイントは不思議そうな顔をしながら小首を傾げる所。

 まぁそんなことはどうでもいいとして、俺がやってきたのは体育館近くの自動販売機――を通り越して体育館の裏。

 ひっそりと運動部の部室などが並ぶ一画だな。


「君は飲み物を買いに出たんじゃないのかな?」


「あー、残念ながら飲みたいモノがなかったんだよ」


 べ、別にあんたが心配で着いて来たわけじゃないんだからねっ!

 大体俺が一人増えたところで何の戦力にもなりはしないしな!

 まぁいざとなれば右手の封印と眼鏡を外せば……駄目だ、もしもそれを行えばこの学園と世界に甚大な被害を及ぼす!主に俺の黒歴史的な意味で。そもそも眼鏡を掛けてもいないし。


 到着した場所に集まっていたのは、俺とトオルとは別に、先ほどの三人+八人、合計で十一名の人相の悪い男子生徒達。


「てか体育館の裏に生意気そうな下級生を呼び出すとか昭和かよ」


「えっ?君の中での僕って生意気そうな奴だったの!?」


「えっ?そりゃ普通の男子生徒からみたら『女子人気の高いスカしたいけ好かない奴』じゃないか?」


「そ、そうなんだ……」


「まぁ俺はあんまり普通の奴じゃないから、そんな他人様の評価なんて何の参考にもならないんだけどな!」


 だってわざわざ複数人の上級生に呼び出された友人に付いて来ちゃう程度のおバカさんだしさ。

 集まった上級生をゆっくりと睨めつけるように視線を動かす俺。


「半分は……俺が相手になってやる!インドア派だと思って甘く見るなよ?

 これでも脱いだら凄いって言われてるからな!あ、後、道具の類は禁止で!」



……

…………

………………



「……殺せ、いっそ殺してくれ!!」


「ふふっ、い、いや、なかなか……ふふっ、ぶふっ!!」


 プルプルと震える俺とケラケラと笑うトオル。

 ん?喧嘩?

 昭和のヤンキーマンガじゃあるまいし、あんな目立つ呼び出し方しにきた上級生がそんなことするはずないじゃないですか……。


 ならトオルが上級生に呼び出された理由は一体何だったのか?

 そう、それは『部活の勧誘』。

 いや、紛らわしいわ!自分たちの人相の悪さを自覚しろよ!

 てかそれなら呼び出すなんてややこしいことしないで普通に教室に集まれよ!


『だってこんな人数で教室に押しかけたら他の人の迷惑になるじゃん?』


 ……常識人のとてもいい先輩方でした。顔は怖いけどな!


「いや、ほんとマジで、トオルのせいで十五年間生きてきた中で最大級の黒歴史を作っちゃったんだけど?」


「『半分は……俺が相手になってやる!』キリッ」


「やめてください心が死んでしまいます」


 集まってた上級生の皆様、俺の啖呵にキョトンとした顔をした後に大爆笑だったからな?

 うん、まぁ笑ってくれてよかったよ。


「て言うかトオル、上級生が呼びに来た理由……最初から知ってただろ?」


「呼びに来た中に知った顔も居たからね?」


「だったら紛らわしい言い方しないでちゃんと伝えてほしかったんだけどな?」


「ちゃんと『心配しなくてもいい』って言ったじゃないか?」


 確かに言ったよ?言ったけどさ。

 普通はあんな人相の悪い連中に呼び出されたら何かしらの訳アリと思うじゃん!

 『心配しなくていい=巻き込みたくないから付いてくるな』とかそう言う意味だと思うじゃん!

 そう、すべてトオルの日頃の行いとか、そういうのが悪いんだと思います!


「……ユウ」

「……なんだよ」


 いきなり畏まった態度になるのは止めろよ、周りの少し腐ってそうなご婦人方が見てるじゃないか。


「ありがとう」


「まぁ多大に大きなお世話だったけどな?」


「それでも……嬉しかったからさ。この借りはいつか返すから」


「何にも貸した覚えなんてねぇよ。てか、と、とも……知り合いなんだから細かいことは気にすんなよ」


 誰か!この男同士の恥ずかしい空間をどうにかしてくださる方はいらっしゃいませんかっ!


『リーンゴーン』


 ……あ。


「てか昼休み終わるじゃん!弁当くってないじゃん!」


「そう言えばそうだね。まぁ五限が終わってから食べればいいんじゃないかな?

 今日もいつものカレーなの?」


「俺の弁当は匂いが教室中に広がっちゃう特別仕様だから!

 昼休み以外に食うのはテロ行為になるんだよ!

 いや、今日はハヤシライス」


「それ、いつもみたいにレトルトパックを揉んでもストローに肉が詰まるんじゃないかな?

 明日から僕が君の分のお弁当も作ってきてあげようか?」


「それ、出来れば野郎じゃなくて女の子に言って欲しいセリフなんだけどな!」


 廊下を走るトオルの『ふふっ』と言う笑い声を廊下に残し、二人で教室に急いで戻る俺だった。


―・―・―・―・―


何故か既に複数人登場しているヒロインではなく、男と甘い雰囲気を醸し出す主人公……。

ちなみに友人関係以上のBL要素はございませんm(_ _)m

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