第019話 【商人は新しい力を手に入れた!……ような気がする】

 相変わらずの週末、授業はもちろんダンジョンアタック。

 さすがにスライム倒して三週目ともなると、ちょっと飽きてきた……かと言えばそうでもない俺がいる。

 だってほら、結果(安定した収入と自身の強化)がコミット(約束)されてるじゃん?


「てことで、いつもより頑張って二日間で魔石を1000個集めました!

 それでは、さっそくですがこれから転職のスクロールを購入したいと思います!」


 帰宅後の家の中でまるで再生数の少ない動画投稿者のようにナレーションを入れる俺。ソロ活動してると独り言が増えちゃうのは気にしてはいけない。

 『異世界商店、開店!』と、いつも通り唱えると開くのはいつものポップアップウインドウ。

 ……うん、あれだ、開いてみたけど……どうしよう?


 昨日まではワクワクしながら『魔法使い♪魔法使い♪』なんて唱えてたんだけど、いざその段になると、


『でもアレだよな、現状で魔法とか覚えても……使い道なくね?』


 と、なっちゃったわけで。だってスライム相手に攻撃魔法とか……いらないじゃん?いや、いらないってこともないけど、オーバーキルじゃん?

 かと言って、『神官』を選ぶのも……ほら、スライム相手に怪我なんてしないしさ。

 そもそもジョブを獲得したからと言って『その職に対応したスキル』が覚えられるって決まったわけでもないし、一度就いたジョブからさらに転職出来るのかどうかも不明だったりするし。


「名前に下級って付いてるから中級とか上級に変えることは出来ると思うんだけど、色んな下級職を回したり出来るのかどうか……。

 まぁここでウダウダしてても仕方ないか」


 てことで二日分の『お賃金(ちん○ん)』ならぬ極小魔石で購入したのは『神官の書』である。

 いや、神官もいらないって言ったじゃん!と、思われるかもしれないけど、ほら、もしも下級職が固定、その後も最初に選んだ職の発展でしかジョブを選べないとしたら……回復職がベストじゃん?

 治療以外にもバッファー(能力強化)としても潰しが効きそうだしさ。

 これからもソロ活動の予定だし、怪我、怖いからね?


「てかこの、目の前に浮かんでる神官の書(巻物……じゃなくてスクロール?)ってどうやって使ったらいいんだろう?」


 手を伸ばしそっと触ってみると……普通に触れられるみたいだ。

 こわごわとではあるがそれを掴み、閉じている封蝋をペリペリと剥がしてスクロールを開いてみると……。


「眩しっ!?こいつ、むっちゃ光るやん!?

 もしもダンジョンの中で使ったらすげぇ悪目立ちしてただろうな……」


 数秒キラキラと光り輝いたかと思うと、そのまま弾けるように消え去る巻物。

 

「……えっと、それだけ?ファンファーレとかコメントとか無し?

 特に身体的な変化とか何も無いんだけど?」


 完全に詐欺にあった気分では有るが……まだ慌てる時間じゃない。

 何故なら今の俺には視覚的に自身の変化を知るすべが有るのだから。

 そうだね、ダンジョン・カードでステイタスの確認だね!


「おお!名前の下に『ジョブ・神官 レベル1』ってのが増えてる!

 てか、俺自身のレベルとジョブのレベルって別物なのか」


 ジョブの追加だけでなく、さらにスキル欄にも『魔法力強化:一割』という表示が追加されてるんだけど……魔法力と言うのがよく分からないので、何が増えたのかすら疑問なんだよな。

 そしてレベル1では回復魔法は入手できなかったという……ジョブレベルが上がれば出るよね?大丈夫だよね?


「いや、上げるって言っても『ジョブレベル』ってどうやって上げれば良いんだろう?

 普通に戦闘するだけで上がっていくものなのかな?」


 結局募るのは疑問ばかり……まぁ明日もダンジョンの日だし、細かいことは明日調べればいいよな!


 ……

 ……

 ……


 てことで結果である。いや、ジェリー・スライムしか相手にしてないんだから細かい戦闘の説明とか挟んでも仕方ないじゃん!

 てことで普通に戦闘、スライムを倒すことでジョブレベルが上った。

 それも一日でレベル『4』まで!


 でも、上がり方が自身のレベルの上がり方とは全然違ったんだよね。詳しく言うなら最初のレベルアップ(1から2に上がるまで)が、自身のレベルアップの時と比べてむっちゃ遅かった。

 それなのに最終的にはレベル4になったからね?

 たぶんだけど、自身のレベルは、


『魔物のランクによって得られる経験値が変動、必要な経験値もレベルにより上昇』


 するのに対して、ジョブレベルは、


『倒した魔物の数でレベルアップ、レベルによる経験値の変動は無し、レベルアップに必要な魔物の数は(おそらく)100匹で固定』


 ではないかと思われる。

 つまりスライム退治だけでどんどんレベルアップが可能ってことだな!もちろんジョブレベルのカンストによる上限は有るだろうけど。

 そして、大切なのは『ジョブレベルアップによるスキルの増加』なのだが……


「ふふっ、とうとう回復魔法を手に入れたぞ!

 ……てかこれ、回復魔法ってことで間違いないんだよね?」


 レベル2の時に『魔法力回復:一割』、レベル3で『手当』、レベル4で『耐久力強化:一割』と、三つのスキルが増えた。

 『魔法力回復』と言うスキルが新しく出たことからどうやら『魔法力=MP』でほぼ決定ではないだろうか?てことは『耐久力』の方はHPかな?

 そしておそらくは回復魔法であろう『手当』の効果なのだが、


『傷口に手を当てる事により手当を行う。患部やその回りをマッサージすることで効率アップ』


 って書いてるんだけど……これ、簡単な傷とか打撲、下手したら筋肉痛くらいにしか使い道無くね?

 少なくとも、ダンジョンの中で自分が怪我した時に何の役にも立ちそうもないことだけは確かだよな……。

 思惑が完全に裏切られてるんだけど……ま、まぁまだジョブレベルも低いからね?


 そしてこの『スキル効果の説明文』、意図的に隠されるかのように、『手当』によるデメリット(時と場合と相手により、凄まじいメリットにもなり得る)効果があることをこの時の俺はまだ知らないのであった……。

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