第011話 【念願のダンジョン・カードを手に入れた!】

 唖然とした顔でポカンと口を開く某氏。

 剣に突き刺さったスライムは、その体にノイズが走ったかと思うと溶けるように消え失せ、倒した四匹分の小さなダイス型の石――『魔石』と、ガラスの小瓶に入った液体――レアドロップの『スライムローション』が一本地面に転がった。


「いや、転がったモノはいいんだけど……何か浮いてるんだけど?」


 俺の目の前に浮かび、柔らかい光を放ちながらゆっくりと回転するカードのような物。


「もしかして……これがペルソナ……?」


「ちがうわよ!ただのダンジョン・カードよ!

 色々と言いたいことはあるけど、おめでとう……でいいのかしら?」


「じゃあ俺の方はありがとうでいいのかな?

 さて、張り切って次に向かおうか!」


「向かわないわよっ!」


 ノリの悪い某氏であった。まぁあんまりのんびりしてて、そのまま置いて帰られても困るしね? 

 来た時と同じように、ダラダラと雑談しながらの帰り道。

 手に入れたカードの裏表を確認する俺。


「それで、きみのランクはいくつくらいなの?

 初めてのダンジョンでアレだけの動きが出来るんだから、最低でも★3レアくらいありそうだけど」


「何ですかそのランクって?

 一番上の★のマークのことなら一つしか付いてませんけど?」


「嘘っ!?ただのコモンランクなの!?

 じ、じゃあレベルが1スタートじゃなかったとか?」


「レベルですか?普通に1って書いてますけど。

 てか、レベルってスライム何匹くらいで上がるんもんなんですかね?」


「そ、そうよね、外でレベルを上げる方法なんてないもんね。

 そうね、最初のレベルアップは……人によって違うらしいからハッキリした事は言えないんだけど。

 少ない人なら五十匹くらい。多い人で百匹くらいかしら?

 えっと、ホントはこんなこと聞いちゃだけなんだけど……もしかして凄いスキルとかもってたりする?」


「レベルって想像以上に上がりにくいんですね……。

 スキルですか?それってどこに書いてあります?」


「カードの裏面、『体術』とか『剣技』とか『能力上昇』とか書いてない?」


「特に何もありませんね」


「えー……ホントに?」


「別に嘘つく必要もないですしねぇ?良かったら見てみます?

 あ、その代わり某さんも後で見せてくださいね?パンツとか」


「見せないけどね!?」


 手を伸ばした彼女にカードをポンと手渡す。

 先程の俺と同じように表面と裏面をクルクルと確認する某氏。


「本当に★1のレベル1、スキルも何もないわね。

 なら、素であの身のこなしが出来るってことなの……?」


 ぶつぶつと何やら呟く彼女が返してきたカードを受け取る俺。

 ふむ、聞かれなかったから答えなかったけど、こうやって直接見せても確認することができない力なのか……。

 うん?何がかって?ほら、異世界からこっちに送り返される時に『スキルと経験値は持ち越されない』みたいなこと言われたじゃん?


 でも『祝福(ギフト)』に関しては何も言われなかったからさ。ちょこっとだけ期待してたんだけど……。

 そう、カードの表面、名前の下に『祝福・異世界商人』と言うのがあったのだ!!

 てか、某氏が疑問に思ってる『スライムを倒した時の身のこなし』についてはただの慣れである。


 異世界でイッパイ退治したからね?ジェリー・スライム。

 やつらって飛びかかって来る前に小さく『プルンッ』と一度震えるんだよ。

 で、飛びかかってくる距離も、飛びついてくる場所も決まっていて、正面を向いていれば頭の真下、胸の中心部分を狙うんだよね。


 だからタイミングを合わせ、体の真ん中で少しだけ上向きに尖ったものを構えておけば自重で突き刺さって勝手に死んじゃうという……自○願望の激しいレミングスみたいな生物なのだ。

 もちろん盾で弾いてから倒すのも安全を考えれば大正解なんだろうけど、異世界では透明で軽い盾とか無かったからさ。

 何よりもワンクッション挟むから、無駄な時間が掛かるのが頂けないんだよなぁ。


 緊張感など一切ないダンジョンの帰り道。まぁ某氏、中級探索者らしいしね?

 どこから湧いたのか、来る時には見なかった場所でもう一度だけスライムを三匹発見、全部串刺しにする。

 ダンジョンから出た俺のことを出迎えてくれたのは、


「おい、何勝手なことしてんだよお前!」


 劇画タッチの顔をしたクラスメイト。

 自己紹介の時にそのインパクトの有りすぎる濃い顔と、彼の名前から『デビ○マン』ってあだ名を付けたんだけど……もちろん名前自体は覚えていない。

 さすがに『顔が怖いからどっかいって?』とか言えないしなぁ。てか、どうしてこいつキレてんの?


「それで、カードは手に入れられたのかよ?」


「いや、初対面の人間に話し掛ける時はまず挨拶からじゃね?」


「挨拶は自己紹介の時に終わってるだろうがっ!」


 俺の胸ぐらを掴もうとしたデ○ルマンの腕をひねり上げるように取り、地面に押し倒す……某氏。


「彼はわたしの担当してる生徒なの。勝手に喧嘩売るのとか止めてもらえないかな?」


「トゥンク……これが……恋?ありがとう、某氏!」


「きみはきみで他の人の名前をちゃんと覚えなさいよっ!

 あ。あと、わたしみたいなレディに恋をしちゃうのは当然だと思うけど……グループの担当から離れるまでは告白禁止なんだからねっ!」


「いや、恋をしたかもしれないのは俺じゃなくてデビ……某氏が押さえつけてる某とかいうならず者なんだけどね?

 ほら、体を押さえつけられてる痛みに興奮して耳まで真っ赤にしてるじゃん」


「気持ち悪い奴ねっ!?だから私の名前は千歳よっ!」


 慌てて手を離し、デビル○ンから距離をとる彼女。


「チトセ……良い名だ……」


「別にあんたは覚えなくていいのよっ!」


 いや、ダンジョンの前で何のコントを見せられてるんだ俺。

 どうやら俺たちが迷宮に入っていた最後の生徒だったらしく、○ビルマンの後ろから担任が少しだけ心配そうな顔をして話しかけてくる。


「そろそろ学校に戻ろうかと点呼を取ったら、真紅璃くんが見つからなくて『羅臼(らうす)くん』がとっても心配してたのよ?」


「えっ?あれって心配してたんですか!?不器用な赤鬼みたいなヤツですね。

 てか、担当の某氏が思いっきり腕をひねり上げてましたけど……まぁそれで恋を理解したみたいですが」


「ブフッ……もう!クラスメイトを、初めて人の温かい心に触れた怪物みたいな扱いをするのは止めなさい!」


「そこまでは言ってませんけどね?」


 デビルマ○、どうやら不器用だがその心根は良い奴らしい。顔は怖いけど。

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