第009話 【隣り合わせのハイとダウナー】

 さて、装備を整える――まぁ相手は異世界でも子供が駆除出来るレベルの魔物、ジェリー・スライムだから武器を借りてくるだけなんだけどね?――ために、ダンジョンの近くに立てられた『コー○ン(ホームセンター)』みたいな建物にテクテクと歩いて向かう……俺とキラキラ。

 何だよ、俺が引き立て役になりそうだから離れて歩けよ!……と、思わないでもないけど、一人ぼっちは寂しいので何も言わない。


「真紅璃くん、改めてよろしくね?

 いや、男が僕だけだったから君が来てくれて助かったよ」


「普通に呼び捨てで構わないぞ?こちらこそよろしく。

 俺も入学早々担任とペアを組まされて、クラスメイトにボッチをさらさないといけないのかと、ちょっとドキドキしたわ」


 キラキラ、気さくに話しかけてくれるのは良いんだけど、その度に八重歯がキラリと光るのがやっぱりちょっとだけウザいです。

 てか、迷宮事務所ってホームセンターっぽい外観とは異なり、内部は普通にお役所っぽいん造りになってるんだな?

 受付で(キラキラが)場所を聞いた後、迷宮探索者の姉さんから説明された装備部まで移動、カウンターの向こうに立つ役所のおじさんに声を掛けて武器を借り受ける俺たち。


 てか、キラキラ、防具とかも借りてるみたいだけど……スライム相手にちょっと大げさではないだろうか?

 ズラッと並んだ試着室……じゃなくて装備室?で、防具を身につけるキラキラを待つ……のも早くしろというプレッシャーを掛けてるみたいなので、先に集合場所まで戻ることに。

 だってほら、友達とかじゃないし?『同じ班に入れてやっただけで馴れ馴れしいなこいつ』とか思われるのも嫌じゃん……。案外被害妄想の激しい俺なのである。


 しかしあれだ、久しぶり……でもないけど、武器を腰に挿してるってだけで、ちょっとだけ気分が引きしまるよな!

 思わず抜いて素振りしそうになるも、ダンジョンの外で抜き身の武器を振り回したりしたら普通に銃刀法……じゃなくて、『迷宮法』で捕まるんだよなぁ。ここはダンジョンの前なので、厳重注意くらいで済むと思うけど。

 することもないので屈伸運動、体を解していると他のメンバーも続々と戻ってきた。うん、キラキラ以外の女性陣も、みんなそこそこの重装備である。


 その盾とか絶対に邪魔だと思うんだけど……。

 グループの全員が集まったのを確認したのか、離れたところで知り合いらしきシーカーと談笑していたジミ……担当の姉さんがこちらに歩いてきた。


「おっ、ちゃんと時間内に全員戻って……えっと、約一名、すごく軽装の子がいるんだけど……」


 すごく軽装の子というのはもちろん俺のことである。だって、色とか形は違うけど、みんなの装備、『重そうな鈍器(メイス)、ポリカーボネートシールド(透明の盾)、革製の防具一式』だからね?

 ちなみに担当のお姉さんも似たりよったりの格好である。

 それに比べて俺の装備はといえば、『刺突剣(エストック)』が、一本だけ。


「きみの装備品は本当にそれだけでいいのかな?

 今回はカードの所得だけが目的のダンジョン探索だから成績には影響しないはずだけど……」


「大丈夫ですよ?むしろどうしてみんなそんな重装備なのかと」


 おそらく親切心で注意してくれている担当の姉さんと、


「貴方、本当に試験勉強をしたのかしら?

 というより本当に試験を受けて合格したのかしら?

 ジェリー・スライム退治の装備品なんて基本の基本だと思うのだけれど?」


「試験は試験だろ?

 それが間違っているとは言わないが、それだけが正解だと思うのは柔軟性に欠ける対応だと思うぞ?」


「それはそうでしょうけれども……少なくともダンジョンに初めて入る人間が言うことではないと思うわよ?」


 こちらも親切で注意してくれていると思いたい静たん。

 キラキラも普通に心配そうな顔してくれてるし、二人、いや、三人ともきっと良い奴なんだろうな。

 残りの二人?特に俺に対して何の興味も持ってないみたいだけど?


 通常の学校なら、もしも生徒が大怪我でもすれば管理者責任を問われるだろうが、ここは『たとえ死んでも自己責任』が原則の迷宮科。

 注意はした、それでも言うことを聞かないのなら好きにしろ。むしろ早めに痛い目に合っておけ!

 ってことでため息一つで迷宮内に先導してくれる担当者の姉さん。


 数名の警備員――銃器を持ってるから警備兵か?ダンジョン入り口の管轄は自衛隊ではなく警察だったと思うけど――が囲む、大きな自動改札に似た入場ゲートに『仮迷宮証』をくぐらせ、緩やかなスロープを進めばそこはもう、


「フフッ、ようこそ、初めてのダンジョンへ!」


 ……うん、何の変哲もないただの洞窟である。

 いや、そうでもないかな?何ていうかこう、外とは気圧的なモノが違うような気もするし。

 もしかしてこれが、地球には存在しないはずの『魔力』なのかな?


 てか、それなりに広い入り口付近なんだけど……顔色の悪いやつ、むしろ死にそうになってる奴が多くね?

 なんか酸いい臭いもするし、おそらく先にダンジョンに入ったと思われる学生がグッタリして、支えられながら外に出て行ってるし。

 もしかして……たかだがスライム退治で精神的に参ってるのだろうか?


「なんか臭いのでとっとと先に進みたいんですけどいいですかね?」


「えっ?……えっと、きみはなんとも無いのかな?」


「いや、ですからその、もらいゲ○しちゃいそうな臭いがしますよね?

 マジキツイんで早く奥に進みたいんですけど」


「いえ、そうじゃなくてさ……。

 もしかしてだけど、きみはダンジョン経験者なのかな?

 既にそれなりの時間を迷宮の中で過ごしたことがあるとか?」


 『異世界で入ったことならあるよ!』って言いたいところだけど、残念ながらスライムが出てくるような甘っちょろい迷宮は異世界には無かったからなぁ。

 無能な俺が、強そうな魔物が跳梁跋扈する危険地帯に入れるはずもなく。


「もちろん今日お姉さんに初めて手ほどきしてもらっただけのチェリーボーイですけど何か?

 というよりさっきから一体何の話なんです?」


「言い方っ!?……まぁ数万人に一人くらいは耐性のある人がいるみたいだからねぇ……ほら、回りのお友達のことを見てごらん?」


「それはアレですかね?一人余ってたからこのグループに参加させてもらってるだけの、友人なんて一人も居ない俺のことをディスってる感じのアレですかね?」


「面倒くさい子だなー……普通は初めてダンジョンに入った人は魔力に当てられて頭の中がグワングワンなっちゃうんだよ!」


 なるほど。言うて俺、異世界帰りだからね?つまりそういうことなんじゃね?いや、どういうことなんだよ……。


「もしかしてバス移動の時にすでに乗り物酔いしたから大丈夫!とかじゃないですか?知らんけど。

 じゃあ、とっととスライム倒しにレッツゴー!」


「乗り物酔いとはまったくの別物だから何の関係もないと思うよ!?

 いや、そうじゃなくて友達っ!空気読んであげてっ!

 金髪の子とか死相が出ちゃってるからっ!」


「彼女はヤンキーなので大丈夫です!知らんけど」


「や、ヤン……じゃ……」


 うん、確かに麻雀で三徹くらいしたヤンキーみたいになってるな……。

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