第007話 【バスバスバスハツ!】

 てことで本日、木曜日は新入生全員!……じゃなくて、迷宮科の生徒全員で学校から一番近いダンジョンにお出かけ。

 まぁ近いって言っても徒歩だと半時間近く掛かるので、クラスごとにバスに振り分けられて移動するんだけどね?

 一クラスおおよそ三十人、ツーシートになっているバスに、友人同士、新しく知り合った者同士で続々と席にかけてゆく。


 そんな中、俺はと言えば……もちろん知り合いなど居るはずもなく。

 静たん?いや、彼女とは特に知り合いじゃないから!いきなり隣に座りにいったりしたらそれはもう間違いなくストーカーだからね?

 まぁデカいバスに三十人だから席は十分に空いてるからいいんだけどさ。

 べ、別に寂しくなんて無いんだからねっ!まぁそんな冗談はさておき。


「……ぎぼぢわどぅい……」


 乗り物酔い……ものすげぇ乗り物酔い……。だってほら、バスって独特の揺れ方するじゃん?椅子も殆んどリクライニング出来ないしさ。

 異世界での移動、乗り物といえば騎乗か馬車だったんだけど、両方尻が痛くなるから数えるくらいしか乗ってなかったんだよなぁ。耐えろ……俺の三半規管っ!

 バスが停まった瞬間に慌てて駆け下り、トイレ駆け込む俺。


 入学早々クラスメイトの面前でリバースしちまったらあだ名が『ゲ○』に決定しちゃうからな!

 トイレで存分にあれやそれやの大騒ぎをしてバスが停まっていた場所に戻ると、今度は二人組どころか、四人~五人のグループが出来上がっていた。


「真紅璃くん、真っ青な顔をしていきなりバスから飛び降りて物凄いスピードで走っていったけど大丈夫だったの!?」


 唖然とする俺に話しかけてきたのはA組の担任教師である何某。


「はい、ちょっと乗り物酔いしたみたいで。えっと……すいません担任、これは一体どういう状況ですかね?」


「何その新鮮な呼ばれ方……普通は先生とかじゃないかな?

 これはダンジョンに入る時の組を作ってもらっただけなんだけど。

 戻ってきたならあなたも友達の班に入ってもらえるかな?」


「俺、至高で孤高なので」


「えっと、カッコよく言ってるけどそれってボッチってことで良いんだよね?」


「察しのいい担任は大好きです」


「えっ?もしかしていきなりの告白?でも年の差が……。

 えっと、そうね……久堂くん!

 あなたの班にもう一人、入れてもらってもいいかな!?」


「はい!もちろん構いませんよ」


 誰だよ久堂!せやかて久堂!……などと思ってたら、返事をしたのは……ああ、自己紹介の時に目立ってたキラキラの事か!

 この担任、ボッチをさり気なく、すでに組まれた班に押し込むとはなかなかのやり手……いや、ちょっと待て!

 何だよあそこ!?男一人女三人のハーレムパーティじゃねぇかよ!

 そんなところに途中参加させられるとかどんな罰ゲームなんだよ!


「はぁ……これだから担任二十四歳独身は……」


「えっと、先生はどうしていきなり罵倒されてるのかな?」


「チッ、そのそこそこ大きくて柔らかそうな胸に聞いてみればいいんじゃないですか?」


「舌打ちされた上にセクハラ!?

 あとその担任って呼び方止めてもらえるかな?」


「えっと、それは名前で呼べとかそういうことですか?

 ちょっとそこまで仲良くないので無理です」


「先生って呼んで欲しいだけなんだけどね!?

 告白したくせにどうして今になって距離感を出してきたのかな?」


 告白なんてした覚えねぇよ……。

 まぁ他に入る隙のありそうなグループもないし、仕方なしではあるけどキラキラの班に参加させてもらうことに。


「えっと、初めまして、真紅璃といいます。

 担任の空気を読む力が足りないばかりにキラ……久堂くん?の手を煩わせる事になったみたいで申し訳ない」


「ハハッ、昨日自己紹介があったばっかりだからちゃんと覚えてるよ?

 真紅璃夕霧くんだったよね?」


 爽やかな笑顔をこちらに向けて八重歯を輝かせながら右手を差し出してくるキラキラ。

 何なのこいつ?歯に発光ダイオードでも仕込んでるの?ガ○プラのモノアイみたいな奴だな!


「うわぁ……うさんくせぇ……。

 じゃなくて、迷惑かけるかもしれないけど今日はよろしく!」


「君、初対面の相手に随分と辛辣だね?

 でもそういうの、嫌いじゃないよ?」


 背筋がゾワゾワしそうなのでそういう発言は控えてもらえますかね?

 向こうから手を差し出されたので、思わず嫌そうな顔になりそうになるのをグッと我慢してキラキラと握手。

 何が琴線に触ったのか、同じグループの三人の女子の一人が思わずといった感じで吹き出す。


「クッ……フフッ、貴方、ただの変な人じゃなく面白い変な人だったのね?

 私のストーカーなのだから、当然名前は知っているのよね?」


「ちょっとした誤解があるようだけど、俺は変な人でもストーカーでも無いんだ。

 明石さん……だよな?

 もしかしてキラ……久堂くんの彼女さんなのかな?」


「久堂くんとは中学の頃からの知り合いと言うだけよ?

 私が彼と付き合うなんて地軸が傾いてもあり得ないわ。

 そもそも彼、女性に興味のない人だし」


「久堂くん、短い間ですけどお世話になりました」


「明石さん!?

 本人の目の前で風評被害を広げるの止めて貰っていいかな!?」


 果たしてそれは……本当に風評被害なのだろうか?

 無意識に握手した手をズボンで拭いてしまう俺と、それを見て、何故か楽しそうな顔をするキラキラ。

 何なのこいつ?もしかして嫌がられるのが気持ちいいタイプなの?迷惑なタイプのマゾヒストだな……。


 続いて話しかけてきたのは明石と比べれば少し地味目ではあるもののショートカットの雰囲気美少女。


「隣の席だから私の事も知ってると思うけど」


「いえ、知らないです」


「そこは知っておきなさいよ!!」


 だってそこまで興味が無かったんだもん……ちなみに名前は『秋吉(あきよし)英里子(えりす)』と言うらしい。ソースはキラキラ。


「あたしは……『稗子(ひえす)』……よろしく」


「ちっちゃ!?えっ?いかついルックスのヤンキーなのに声ちっちゃ!?」


「や、ヤンキーじゃないし……」


 そして最後の一人は金髪ロングで派手な化粧の女の子。

 見た目ヤンキーなのに人見知りするとかどういうことなんだよ……。

 あとエリスとか、ヒエスとか、混乱しそうになる名前の女子を同じグループで混ぜるの止めろや!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る