第006話 【キラキラした男前……あだ名は『キラ』でいいよね?】

 入学式――長いような短いような挨拶を聞かされただけ――も、恙無く終わり……いや、家に帰ってからは結構バタバタしてたんだけどね?

 だってほら、連日買い食いとか外食で過ごせるほど金銭的な余裕はないじゃないですか?

 だからATMで少しお金を下ろしてから近所のスーパーで調理道具や食材、米やら卵やら調味料やらを購入することに。


 これも数年ぶりのことだったので、キャッシュカードの暗証番号が何番だったのか思い出せず、ちょっと挙動不審になっちゃったんだけど……。

 小学校の頃好きだったA子ちゃんの誕生日だったはず……あれ?違うの?じゃあ中学校の時好きだったB子ちゃんの誕生日……行けた!

 そこそこオロオロしてる俺、警備の人に特殊詐欺の出し子だとか思われてないよね?


 そして自炊するって言ってもキャンプめしレベルの料理スキルしかないからなぁ。

 てことで、昼飯にふりかけおにぎりと卵焼き、焼いたウインナーにインスタント味噌汁を食べたらその懐かしい味に再び鼻の奥がツンときて……。

 昨日は外食だったから我慢したけど――記憶に薄っすらと残る、母さんが作ってくれたおにぎりやだし巻き、味噌汁の味を思い出して――涙が出た。



 そんなちょっとノスタルジックな思い出に浸った翌日は教科書の受け取りやクラスでの自己紹介。

 てか、入学直ぐなので名字のあいうえお順に並んでいるであろう生徒の自己紹介、トップバッターはなんと昨日のあの娘。

 彼女の名前は『明石(あかし)静(しずか)』。凛としたその立ち姿、そして鈴の音のような耳触りの良いその声……。


 でも騙されてはいけない。優しく微笑む彼女のその美しい姿はただの擬態。

 だって俺の方に顔が向いたときだけ『スン』とした表情になったもん!

 いや、逆に考えるんだ。俺だけに冷たい彼女、つまり静たんにとって自分はスペシャルな存在なのだと!


 ……完全に勘違いストーカーの前向き過ぎる思考である。

 その美貌に、間違いなくこのクラスで一番注目されるのは彼女であろうと確信した俺だが……そんな彼女よりもさらに目立つ存在が控えていた。

 まぁそいつは男子だから何の興味もないんだけどね?


 てか名前を名乗っただけなのに、奴の背後にキラキラ光る白い薔薇の花が見えたのは一体なんだったんだろうか?

 キラキラ男に集団で黄色い悲鳴を上げる女子生徒と、キラキラ男に集団で舌打ちするイライラ男子。

 俺?俺はもちろん無表情で存在感を消してるよ?だって舌打ちした男子を奇声をあげた女子が睨みつけてるもの。


 てか男の目から見ても、ものすげぇオットコ前だなあいつ。きっと奴もすげぇいい匂いがするはず。当然ながら嗅ぎたくはないけどな!

 その他にも数名キャラの立った生徒がいたけど特に関わり合うことも無いと思うのでスルー。俺?もちろん無難に名前を名乗っただけ。

 ダンジョンに入れるようになりさえすれば学校には通わなくなると思うしさ。変に他人と関わりをもっちゃうとその時に寂しくなるからね?

 

 自己紹介の日に続いて三日目は集団での身体検査。

 異世界帰りの勇者と言えどもレベル1に戻された状態では特に注目されるような力を発揮するようなこともなく。

 ……そもそも異世界でも注目されるような力は無かった?お前それ、事実陳列罪だからな!?

 てか一人、ゴリラみたいなフィジカルをした男子生徒がいたんだけど……とても暑苦しかったので、朝の挨拶すらしたくないと思いました。


 入学早々三日続けて半日授業……いや、授業なんて何もしてないから半日……何だろう?

 そんなお客様扱いも終わり、明日からはいよいよ普通授業――まぁそれは普通科と商業科の話なんだけどね?

 では迷宮科はどうなのかと言えば、早くもダンジョン・カードを入手するために近くのダンジョンまで校外学習に向かうのである!

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