第002話 【そして舞台は日本へと】
浅い眠りから覚める時のような、意識がすっと戻るような気だるい感覚。
体に軽い浮遊感を覚えた後、目を覚ましたその場所は――十年前に呼び出されたときそのままの見慣れた俺の部屋。
「いや、これ、言うほど見慣れた部屋か?」
だってここ、異世界に旅立つ十年前に引っ越したばかりで、何の思い入れも思い出も無い無機質な賃貸のワンルームマンションだからね?
うん?俺が実家ではなく一人で暮らしてる理由?最初に言ったじゃん……両親がいきなり交通事故で他界したってさ。
両親が亡くなり、一人っ子だった俺が未成年で放心状態になり、役所や保険会社、その他の手続きなど何も出来ないのを良いことに、何処からか集まってきた盆暮れの挨拶すら疎遠な親類縁者に身ぐるみ剥がされ、家も盗られて追い出されたんだよ。
しかしあれだな、こうして精神的に落ち着いてる今だから分かるけど、俺の親戚連中、父方母方問わずゴミみたいな人間しか居なかったんだな。
荷解きもしていないダンボールに囲まれ、部屋に備え付けだったベッドの上――布団も敷いていない、少し硬めのスプリングマットの上で寝返りをうつ俺。
「異世界に放り出された十年前より、無事に地球に帰って来た今の方が未来に対して不安が大きいってどう言うことなんだよ……」
おっと、独り言でもあまり大きい声を出したら隣の住人に壁ドンされるかもしれないから自重しないとな。壁、『獅子の城(レ○パ○ス)』くらい薄そうだし。
さて、繰り返しになるがここに引っ越してきたのは十年前の話、多少うろ覚えではあるが……俺の今の状況。
まずは名前。『真紅璃(まくり)夕霧(ゆうぎり)』。
異世界でも特に偽名は使ってなかった。というか、それほど名乗る機会も無かったんだけどね?
次にこちら、地球での年齢だけど、二十五歳……ではなく、たぶん十五歳。
体は子供、頭脳というか人間性もそれほど成長していない子供のままだから特に問題はないだろう。
向こうに飛ばされたのが中三の春休み……高校入学前の三月末だったはずだから、今もたぶんそのへんだろう。知らんけど。
てか俺……本当に異世界に行ってたんだろうか?
もしかして、走馬灯のように十年分の白日夢を見ていたとか……それはないか、さすがに期間が長すぎるし、記憶がハッキリしすぎてる。
しかし、天涯孤独の身の上とかマジでこれからどうしよう……。
いや、一応『自称親戚(ダニ)』はそれなりにいるんだけどさ。
俺が高校を卒業するまで面倒を見る(見るとは言っていない)と言う名目で両親の保険金の大部分を窃取した父方の祖父母。
通う学校の近くで部屋を借りた方が便利だろうと家を占拠し、俺の荷物を勝手にまとめて追い出しやがった大叔父家族。
形見分けだと両親の身の回りの品だけでなく、俺の部屋の荷物まで盗んでいきやがった有象無象。
うん、とても『頼りになる親戚(ナンキンムシ)』である。
部屋代(火災保険と水道代込み、光熱費含まず)と最低限の生活費、高校の学費は大叔父と父方の祖父母が出すことになっているはずだが……はたして追い剥ぎの言うことがどこまで信用できるのか。
むしろ全部くれてやるから『親切な親戚(ヤブカ)』連中とは、とっとと縁を切ってしまいたいものである。
でも、今の俺ってただの十五歳の子供だからな……ギリギリ銀行口座だけは自分で開設出来る程度の年齢なのである。
保証人すらままならないこの現状では、どうがんばっても時給のやすいバイト以外で働き口なんてあるはずもなく。
せっかく(誰かが)頑張って帰ってきた(いきなり異世界を追い出された)のに!マジ日本、異世界よりも潰しが効かなすぎだろ!
これまでのことを思い出しても、これからのことを考えても、建設的な思考にはまったく至りそうもない俺。
「てか、向こうで晩飯食う前にいきなり転移?転送?されたからむっちゃ腹減ったんだけど……」
時間を確認……しようにも、まだ壁掛け時計すら設置されてないんだよな。
単身者向けの、家具付きの部屋だからそれなりに家具家電は揃ってるんだけどね?
何にしても引っ越して来て間無しに異世界に呼び出されたから、部屋の中は何も片付いていないのだ。
視線を外に向けると宵闇どころか真っ暗な夜。
カーテンもまだ掛かっていない広くもないベランダから見えるのは、何の店かは分からないネオンの明かりだけ。
ため息しか出ないとはまさにこのことか。
起き上がり、部屋に備え付けの小さな冷蔵庫を開けてみるも当然の様に中身は空っぽ。
てか今気づいたんだけど、着ていた服が異世界で買ったそれじゃなく、いつの間にか昔のそれになってるんだけど?
異物感のある、ズボンのポケットをゴソゴソと弄ってみると……スマホと財布を発見した。
てか、俺の状況が一昔前に一部で流行った『脱出ゲーム』みたいになってるんだけど?
玄関の鍵、ちゃんとひらくよね?棚の中にダイヤル式の箱が隠されてたりとかしないよね?変なとこにネジで止められた蓋とかないよね?
狭い部屋の中、あちらこちらと振り向きながら、ドライバーとかペンチとか探し回らされるのは勘弁してもらいたいものである。
まぁそんな分からない人の方が多そうなニッチなゲームの話はどうでもいいとして、時間を見るためにスマホのボタンを押すと……もう二十時前なのか。
財布の中身も確認してみるが入っていたのは三千円ほど。少々どころかとてつもなく心もとない金額ではあるが……久々の日本だからな!
そのまま外に出て、懐かしい景色をキョロキョロと確認しながらも駅前まで移動。
本日は『百舌鳥(モズ)バーガー』でジャンキーな晩飯である!……久しぶりの懐かしい味に鼻の奥がツンとなった。
百舌鳥チーズバーガーとダブル照り焼きは最強!
『百舌鳥といえば照り焼きチキンだろ!』って?いや、照り焼きチキンは……新鮮な感じのバーガー屋で生焼けのモノを食わされたことがあってさ。それがトラウマになってるんだよなぁ。
ちなみに百舌鳥はサイドメニュー系が少々お高いので、飲み物はコンビニで買いました。
―・―・―・―・―
Q:主人公の名字変じゃね?
『真紅璃(まくり)』ってもしかして『槍魔○三助さん』リスペクト?
A;商人、錬金術系の主人公ってことで、
『マーキュリー(メルクリウス)』由来です♪
『生瀬○久さん』は無関係ですm(_ _)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます