第6話 おもしれー女になってしまう
ルイヴィスさんには怒られるだろうけど、答えは待っていても解決しない。ルイヴィスさんが行事のために王宮に出かけた隙を見て、ツバサ亭へと来た。
残念ながらお昼の営業にはあの子がいなくて、他の店員さんに聞いてみたが「学園に通ってるのでお昼はいません」との答えだった。
肩透かしを食らった気分で、街を歩く。明るい街の中は活気あふれていて、出店などもたくさん出ている。色とりどりの石が並んでる屋台だったり、何のお肉かわからないお肉の量り売りだっり。
一人でこう言うところに来たのは、初めてだった。
いつだって、ルイヴィスさんか、お兄ちゃんの後をついてまわっていたから。ルイヴィスさんに似合いそうな、石を削って作られた羽ペンを見つけて立ち止まる。
キレイなオレンジ色をしていて、ルイヴィスさんが好きそうだ。ポケットの中からお財布を取り出せば、後ろからドンっと衝撃を受ける。
小さい男の子が私のお財布をポンっと上に投げ飛ばしながら、逃げていく。
「ま、待って!」
お金はいい。あの中のお金であの子が幸せになるなら。でも、お財布にはルイヴィスさんが買ってくれたキーホルダーが付いている。無くしたなんて言えない。
慌てて追いかけていけば、どんどん狭い路地裏に入り込んでいく。怖くなってきたけど、引き返すわけにもいかない。
後ろから抱き上げられたかと思えば、口元をハンカチで覆われる。声を出す間もなく、大きな麻袋に下ろされてぎゅっと縛られてしまった。
「出して!」
声を荒げれば、くすくすと言う笑い声だけが聞こえる。持ち上げられたかと思えば、すぐに地面に置かれてお尻を打ちつけた。
蓋を開かれて、目があったのは金髪の男の人。
「大丈夫か?」
「ありがとう、ございます?」
助けてくれたのだと安堵すれば、お財布もポンっと投げ返してくれる。私が追いかけていたところから見ていたのだろうか。
「追いかけるくらい大事なものなんだろう? 不用心だな、そんな高級そうなキーホルダーを付けて」
「ありがとうございます。では」
一刻も早くこの場を立ち去らなければ。もし、衛兵なんて来ようものなら、ルイヴィスさんにバレてしまう。私がこっそり街に出かけて、誘拐に遭いかけたことが。
「待ってよ」
右手をぎゅっと握られて、金髪の男の人に止められる。お金を要求されるんだろうか……バクバクとなる心臓を押さえながら振り返れば、なんか嫌な笑顔。
「名前は?」
「そちらこそ」
「ライリー。答えたぞ、名前を教えろ」
つい最近聞いた名前に、口をパクパクとしてしまう。言葉がうまく出ずに、ルイヴィスさんにバレた時の恐怖が脳内を埋め尽くした。
ライリー。王子様と同じ名前を、付ける貴族も、平民も、いない。つまり……この人は、あの女の子が言っていた、王子様。
私が婚約していて、嫉妬に駆られて、邪神を召喚する原因の人。
「お答えできません」
「命の恩人なのに?」
「婚約者がおりますので」
「名前を教えるだけで不義理になるの?」
ライリー様の腕を振り払って、自分の腕をぎゅっと抱き寄せる。
「知らない人に名前を教えてはいけないと習ってますので! では!」
勢いよく走り出せば、後ろから「おもしれー女!」とライリー様が叫ぶのが聞こえる。やってしまった……前世の記憶でいけば、あぁいう類の、自信過剰の俺様男は、おもしれー女に惹かれる。
恋に落ちた仕草でもしておけばよかった。そう思いながらも、多分私にはできないなと思いながら、道をぐるぐる回りながら走って逃げる。
もう一度腕を掴まれたかと思って、振り払おうと力を込める。聞き覚えのある声に、安心で少しだけ涙が出た。
「ベルネーゼ!」
振り返れば、エミリオさんが息を荒げて私の腕を掴んでいて。すごく怒った顔をしている……これは、ルイヴィスさんに報告されちゃう?
「エミリオさん?」
「危ないだろ! 一人であんな路地裏向かって」
「全部見てました……?」
「見てたに決まってんだろう! ルイが一人で出かけたら追いかけろ……って、あ」
どうやらルイヴィスさんにはお見通しだったようで、私がこっそり抜け出すだろうと見張っていたらしい。はぁあああと深いため息と同時にエミリオさんが腕を引いて、騎士団の詰め所に私を連れていく。
抵抗しても逃げ切れる自信もないし、より一層怒られる気がしたから大人しく従う。
私を膝に乗せたルイヴィスさんが、低い声で耳元で囁く。
「で、言い訳は?」
「しません……」
「何しに行ったの」
「あの子なら、邪神を倒す秘密を知ってると思ったから」
誤魔化してこれ以上怒られるのも困る。素直に言葉にすれば、よくできましたと頭を撫でられる。嬉しくなってしまう、私に困惑した。だって、死ぬつもりなのに、ルイヴィスさんに優しくされて喜んで、どんどん私はわがままになっていってしまってる気がする。
「一人で勝手に行動しないって約束したよね?」
言い訳なのはわかっていても、つい言い返してしまう。
「調べてくるまでって約束でした……」
「昨日のあの情報で一回切れたってことか。わかった。じゃあ、この先一生一人で危ないことはしないこと。次したら本当に閉じ込めるよ」
「でも」
「一人じゃなければいいよ。俺が着いていく」
それじゃあ、ルイヴィスさんを危険に晒してしまうかもしれない。軽々しくは頷けなくて、すんっと目線を逸らす。何かいい方法はないだろうか。
あっ……!
「わかりました!」
「やけに、素直だね? 自分が囮になったり、身を盾にして守ればいいとか思ってないよね?」
図星な言葉に、ぎくっと肩が揺れれば、ルイヴィスさんの手がどんどん私の頭から腰へと下がっていく。ぎゅうっと痛いくらい抱き寄せられて、ルイヴィスさんとの距離がなくなっていく。
「なんにもわかってねーな?」
「や、あの、あの」
「俺は、ベルネーゼが好きなんだよ? 好きな子に危険なことさせたいと思う?」
耳元で囁かれて、背中がくすぐったくなって逃げたくなる。体を捩って逃げようとしても、抱きしめられてるからうまく逃げれない。
「俺は、ベルネーゼが好きなの。だから、大人しくしてて」
「無理です、私だけ守られてるなんて無理!」
「はぁ……」
ため息が耳に触れて、ますますくすぐったくなってしまう。譲れなかった。ルイヴィスさんが恋として好きかはわからないけど、傷付いては欲しくない。
私がどうなってもいいから、痛い思いはして欲しくない。
「そんなに俺を不幸にしたいの?」
問いかけられた言葉には、答えられなかった。不幸にしたいんじゃない。幸せにしたくて、やってるのに。私はどうやら空回ってるらしい。
「どこか行く時は絶対報告して。一緒に行くならいいから」
うるうると潤んだ瞳で、犬の耳を垂れさせる。私がこのルイヴィスさんの表情に弱いのをわかっててやってる気がしてきたこの頃!
歯を食いしばって頷けば、満面の笑みになっていく。
「で、次はどこに行こうとしてるの」
「あの女の子に会えれば、倒す方法とか、武器とかわかるかなって」
「そう……ベルネーゼが無茶してる間に、知ったことがあるんだけど聞く? 本当は教えたくないんだけど。俺と絶対一緒に行ってくれるなら、いいよ」
何回も繰り返し頷いて、ルイヴィスさんの目を見つめる。
「もう信用ないからな、ベル」
「ごめんなさいー」
「まぁいいか。学園に資料が保管されているらしいんだ」
どこ情報かは置いておいても、ルイヴィスさんが明確に口にしたと言うことは、信用できる情報なのだろう。ルイヴィスさんがわざわざ私を遠ざけた、学園。そこに、邪神に関係する資料がある……。
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