第5話 解決方法を模索する
ルイヴィスさんが優しいから、また甘えてしまう。でも、私にも何かできることがあるかもしれない。
「まずは、邪神を倒しましょう!」
「ベルネーゼ、その話はとりあえず置いておいてくれないか。そういう話じゃないんだ」
そういう話だったはずなのに、ルイヴィスさんが大きなため息をついて私を抱きかかえて膝の上に座らせる。いつだったか、昔もこうやって膝の上に乗せてくれたな……。
* * *
「ルイ兄、まって!」
ヨタヨタとした足取りで、ルイヴィスさんとお兄ちゃんを追いかけていた記憶。あの頃は、お兄ちゃんもルイヴィスさんも、もう学園に入っていて私よりだいぶ大人だった。
ちょうど今の私の一、二歳上くらい。
「ベル、ほらもう少しだ!」
そうやって腕を大きく広げて私を待ってくれる。お兄ちゃんは、そんな私たちのやりとりを見ながら、一人で本を捲っていた。
幼い妹の相手に疲れていたのかもしれない。ルイヴィスさんに押し付けていただけだったのかな。
ルイヴィスさんのところに辿り着けば、いつも大きな腕で私を抱き上げて、膝の上に座らせてくれた。そんな記憶を辿れば、小さい頃のありがちな約束を交わしたことを思い出す。
「ルイ兄と将来結婚するー!」
「ベルがお嫁さんになってくれるなら、きちんと稼げる職業に付かなくちゃな」
「ルイ兄は、何になるの?」
「何になろうかな、何がいい?」
その時パッと思いついたのは、転んだ時に助けてくれた騎士団の人だった。だから、適当に、答えたのだ。
「騎士団?」
「じゃあ、騎士団長になったら、プロポーズしてもいいか?」
「うん、ルイ兄と結婚するー!」
お兄ちゃんは私たちのやりとりに、フッと鼻で笑ってからまた本を捲っていた。冗談だと思っていたのか、現実にはならない子供の戯言だと思っていたのかはわからないけど。
* * *
思い出した小さい頃の記憶に赤面しながら、ルイヴィスさんの近い顔を盗み見る。あの頃の面影をほんのりと残したまま、立派な大人になってしまった。
「ベルネーゼの言葉を思い出して、頑張ってここまできたんだ。あんな子供の言葉を本気にするだなんて、気持ち悪いよな」
「気持ち悪くなんてないです!」
そんなに前から私を思っていてくれた事実が嬉しくもあり、恥ずかしい。
「でも、ベルネーゼは俺のことを男としては見れないんだろう?」
ルイヴィスさんの言葉にどきりとする。お兄ちゃんだと思っていた。あの頃は確かに、かっこいい優しいお兄ちゃんが好きで、結婚という意味もわからずに言葉にしていた。
自分が言った言葉の責任は取らなければと思うのに、恋としてルイヴィスさんが好きかは……わからない。
恋、がわからない。
「でも、ルイヴィスさんを好きになれるようになります!」
「そういうことじゃないんだ。ベルに伝えたら、そう答えるとは思った」
はぁっと吐いたため息が耳にかかってくすぐったい。身を捩れば、ふっふっとルイヴィスさんが笑い出す。
「まぁ、婚約を受けてくれただけどいいとするよ。ちゃんと、意識させるから」
ちゅっという音がしたかと思えば、おでこにキスをされる。どう反応していいかわからなくて、ただひたすら瞬きを繰り返す。心臓がおかしくなったみたいに脈打つ。
「だから、死なないでくれ」
「でも、そしたら、邪神が……」
「それは、調べるよ。エミリオたちにも助けを求めよう。二人で考えても答えは出ない」
ルイヴィスさんの提案に頷く。死なないで済む方法が見つかるならそれでいいかもしれない。
「次までには調べてみるから、危ないことはしないこと。一人でまたあの店に行こうとしないこと、いいな?」
「えっと」
「約束してくれないなら、帰せないな」
私の腰に回っていたルイヴィスさん腕がぎゅっと力強く締まる。こくんこくんと必死に頷けば、ルイヴィスさんは満足げに笑った。
「破ったら、どうしようかな……花嫁修行と称して、もう俺の家に住んでもらおうか。そしたら勝手なこともできないし」
ルイヴィスさんの言葉に、心臓がぎゅっと縮こまる。笑ってるのに瞳の奥が笑ってない。私が勝手にお店に出かけて行ったこと、本当はまだ怒ってるんだ……。
「約束だからね、ベル」
いつのまにか懐かしい呼び方になってるルイヴィスさんの口調に、ほんのりと嬉しさを感じてしまった。
* * *
あれ以来、ルイヴィスさんは誰がいても構わずに、私を膝に乗せるようになった。私も躊躇いがなくなり、ルイヴィスさんの膝の上で教科書を捲っている。
「あー! また団長とベルネーゼがいちゃついてる!」
執務室に入ってきたエミリオがため息混じりに、茶化していく。持ってきた紙の束をドンっと私たちの目の前に叩きつけるように置く。
「俺だって可愛い彼女とイチャイチャしながら仕事したい……」
「イチャイチャじゃない。勝手に死ぬとかベルが言うから拘束だ」
「って言いながら顔がニヤけてますけど! っていうかベルネーゼ狙いだった団員の士気がめちゃくちゃ下がってますけど?」
「もともと俺の婚約者だとわかっていた、だろう?」
「それはそうだけど」
私が聞いていい内容かわからずに、教科書を膝の上に置いたままそっと両耳を手で挟む。聞いてませんよアピールをすれば、エミリオさんがお腹を抱えて笑い出した。
「こんなに天然なのに、死ぬ死ぬ言い出すのはよっぽどっすよねぇ。で、俺たちが集めた情報です。ベルネーゼも見て大丈夫だから耳の手を外しなよ」
両耳を塞いでも、かすかに聞こえてるから意味はなかったのだけど。手を外して、両膝に置く。机の上の紙に目を移せば、邪神の話や、あの女の子のことがイラスト付きで描かれていた。
「あの話はベルネーゼにはしたんですか?」
「してない」
「えーそっからしましょうよ。話が早くなる」
「関係ないから黙っておけ」
二人のやりとりにハテナを頭に浮かべながらも、深追いはしない。機密事項もたくさんある。私が知ってはいけないこともきっとたくさんあるはずだ。
「で、ルイとベルネーゼが一番知りたそうなのはこれ」
エミリオさんが一枚だけ拾い上げて私たちの目前に突き出す。そこに描かれていたのは、黒い大きな竜。横に書かれた文字は邪神と書かれている。
「邪神の姿……?」
「冒険者ギルドに、古い記録に残ってた話だからどこまで信用できるかは置いておいて。一番史実的に書かれていて、他のよりは信用できそうなのはこれ。んでこっちは、完全におとぎ話の世界のやつ」
もう一枚摘み上げたのは、童話のまとめ書きのようだ。イラストが随分とデフォルメされて可愛らしい竜が描かれている。
「竜の姿をしてるのは確実ってこと?」
「他の資料も大体共通してたから、信用できそうだけど。それ以外はまちまちの情報なんだよなぁ。本当におとぎ話の域を出ない」
エミリオさんが、唇を噛み締めて悔しそうな顔をしている。ルイヴィスさんが紙の束をペラペラと捲りながら、んーとか、ふむとか相槌を打っている。横で覗き込んでも私にはよくわからない。
一番信用できそうとエミリオさんが言っていた紙を受け取って中身を詳しく確認していく。邪神を倒した時のことが事細かに記載されている。真実がどうかは一旦端に避けておくけど。
対策武器として、マナタイトの大剣とパールの盾を使ったという記述。すぐにピンっときたのは、この国の王様が、祭事などで身につけて現れる国宝だった。本物を身に付けてるかはわからないけど。
勇者と呼ばれるものと聖女と呼ばれるものが二人で倒したことが書かれているけど……勇者も聖女もそういう職業なのか、英雄としてそう呼ばれていたのかはわからない。
ファンタジー世界でお決まりの職業ではあるけど。この世界にはそういう仕組みはなかったはず。
答えが見つかったかと思ったのに、答えには程遠そうで少しため息が漏れてしまう。
「まだ、時間はある。特にいつまでなんてないだろ」
「でも、あの子が何してくるかわからないですよ」
答えてから、ハッとする。あの子は、王子様と一緒にそれを倒してラブラブになると言っていた。つまり、王子様とあの子が聖女……? そうじゃなくても、あの子は答えを知っている。
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