第7話 ホームパーティー。

2人で駅向こうにある商業施設まで買い物に向かう。

普段は近所の商店街を使うが、この日は特別感を出したくて駅向こうまで歩く。

同衾の影響か、手を繋いでしまうと照れてしまう。

家から離れているといっても十分に地元だし、誰かに見られる事もあるが気にならなかった。


朝ごはんのお礼がしたいと言うと、萩生紅葉はモジモジしながらも最後には「小さなホットプレートを買って、今晩は焼肉にしませんか?」と聞いてきた。


俺は勘違いしていて、家電売り場でホットプレートを買おうとすると、「ちちち…違います!匠さんはお肉を買ってくれれば」と言われて、「え?ホットプレートを頼まれたんだと思ったよ」と言うと、萩生紅葉は真っ赤な顔で「そんな図々しい真似出来ないですよぉ」と言った。


「しかも大きいのしかない。ウチには大きすぎます」

「仕方ない。ホットプレートは今度一緒に見に行こう」


改めて朝ごはんのお礼を聞くと、「ではホームパーティをしましょう」と言われたので、食品売り場でお刺身やお酒、出来合いのお惣菜を買って帰る。


「高くなりましたよね?」

「気にならないよ」


「でも、いつも食材を買ってもらっていて申し訳ないです」

「それを言えば俺の方だよ、美味しい朝ごはんもだけど、歯ブラシとかありがとう」


顔に「ふふん」と書いてある萩生紅葉が、「いえいえ。歯ブラシとかで言えば、ウチはいつでもOKという意思表示です」と言い、俺はその顔を可愛いと思いながら、「うん。ありがとう」と返して萩生紅葉の家に帰った。


ホームパーティは急がなかった。

2人で笑いながら用意をして、時計も見ずに始める。

スローペースのホームパーティはとても楽しい。

乾杯でお酒を飲んで、同じものを食べて感想を言い合う。

それだけなのにとても楽しくて仕方なかった。


気付くと萩生紅葉は横にいて、涙を浮かべて「嬉しいです。匠さんといられて、いろんな事を知っています」と言っていた。


きっと父なら「それは俺の方だよ。楓がいろんな事を教えてくれている」と言うのだろう。


「俺は母さんに似てしまったのだろう。言葉がうまく出ない。でも父さんならなんと言うかわかるよ。紅葉さんと一緒で、父さんを通せばキチンと言葉が出る。それは俺の方だよ。紅葉さんがいろんな事を教えてくれている」


俺の言葉に萩生紅葉は頷いて、胸に顔を埋めて深呼吸する。

俺は柄にもなく…やったこともないくせに、萩生紅葉の肩に手をやって抱き寄せると、「のんびりしよう」と言って窓の外を見るともう夜になっていた。


2人で片付けをしている時、食べ残しを見て笑ってしまった。

それはピザで、宅配や店で食べるものからしたら、味が薄くてチーズの量も物足りなくて、後に回したらお腹いっぱいになってしまい手が伸びなかった。


俺は食べ残したピザを片付けながら「今度はピザを食べよう」と言う。


「はい。真さんはどうしていたんですか?」

「父さんは生地とピザソースを作っていたよ。具はよくあるハムと玉ねぎとピーマンだったかな」


俺の言葉に萩生紅葉は「美味しそうですね」と言って、萩生楓さんの遺影を見る。


もしかしたら2人で作ったのかもしれない。

俺も萩生紅葉と作れたらなと思いながらも、頭の片隅にいる母の存在が邪魔をして、萩生紅葉に「ピザを作ろう」とは言い出せなかった。


片付けが終わり、残りの食材を明日に持ち越すためにラップを巻いていると、天気予報に無かったゲリラ豪雨が降ってきた。


突然のゲリラ豪雨に肩を落として、「くそぅ。冷たそうだな」と漏らすと、萩生紅葉が「匠さん、下着も買いました。泊まれますよ」と言った。


「雨です。とても帰れません」と続ける萩生紅葉と、朝2人で眠った布団がある寝室を見ると弱い心はすぐに白旗を掲げてきた。


「いいの?」

「私はずっと待っていましたよ?」


それでも「うん」となかなか言わない俺に、萩生紅葉が「明日の朝ごはんはパンにしますか?」と聞いてきた。


「目玉焼き?」

「はい。匠さんはソース派ですか?」


「うん。でも黄身が硬い時は醤油」

「母さんと同じですね。私は硬い時は塩かケチャップです」


俺は、萩生紅葉と食べる目玉焼きとパンの魅力に負けた事にして、「お世話になります」と言うと、萩生紅葉は嬉しそうに「はい!」と言ってくれた。

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