第3話 父母を知る人。
関谷さんは、俺と萩生紅葉の来訪を心から喜んでくれた。
関谷さんの所はまだ子供が大学生で、今は遠方に単身で住んでいるので、夫婦しかいないのは父から聞いていた。なので土産はフルーツ沢山のロールケーキにした。
「わ!ありがとう匠くん!匠くんのお土産だからいいよね!」と喜んだ関谷さんに、奥さんが「もう、匠くんに感謝をしてね」と言いながらお茶を持ってきてくれて、「この人、お医者様から甘い物を控えるように言われて、我慢してるから嬉しくて堪らないの」と言って笑う。
笑顔の奥さんを見て、ウチで笑顔を見れるのはどんな時かを考えてしまう。
恐らく母が垂れ流しているテレビの中で、何か面白い事をやっていて母がそれを見て笑い、たまたま父も同席していて笑う。
たまたま一緒に笑うだけで、母が父に笑いかける事なんてない。
その事で顔が暗くなりかけるが、関谷さん達に心配させたくないので、普段通りの顔を心がける。
早速ロールケーキをひと口食べて、染み渡る甘さに喜んだ関谷さんは、萩生紅葉を見て「秋山さん…楓さんによく似てる。よく来てくれたね」と言った後は、涙目になると「まこっさんもあきやんも逝ってしまうなんて悲しいなぁ」と漏らす。
「でも2人で並ぶ姿なんて、まこっさんとあきやんそのままだ。僕は自分が若返った気がしてしまうよ」
そう言った関谷さんが目を瞑って懐かしんだ後は、照れくさそうに「昔の僕はこれでも痩せていたんだよ!」と言って笑う。
萩生紅葉は「あの、母と坂上真さんの事を教えてくれませんか?聞いてみたいんです」と話しかけると、関谷さんは「馴れ初めは聞いたかな?」と聞いてきたので、俺は頷いて「雑用ばかりの父を見かねて、楓さんが声をかけたと聞きました」と返すと、「ふふふ」と笑った関谷さんは「懐かしい。でも中々2人の仲は進展しなかったんだ。あきやんは溌剌としていて、まこっさんは穏やかだったからね。僕はあきやんに、まこっさんと仲良くなりたいの?って聞いたらそうだって言うから応援したら、火がついたまこっさんの方が真剣になっちゃって大変だったんだ」と話し始めた。
関谷さんの話の通りなら、父を見かねて助けた萩生…当時なら秋山楓さんは、それ以来父のことが気になってしまって、目で追う回数が増えていて、関谷さんが応援する事になる。
そして秋山楓さんを意識した父は燃え上がり、熱心にアプローチをしていた。
「熱しにくいのに、燃え上がると止まらなくなって、冷めなくなるのがまこっさんさ。料理にしても、僕との本集めにしても、最初は興味ないのに燃えたら止まらなくなった」
「でもまあ遅いのが難点さ。あの時だってあきやんはモテたから、待たせ過ぎて危ない所だったんだよ」
「危ない所?」
「あきやんが、もう待てないって言い出したのを僕が思い止まらせたんだ。それでも飲み会に行こうとしたあきやんを見て、まこっさんは慌てて追いかけて…、あんまり言うと2人に怒られるかな?まあ続きはまたきてくれた時にするよ」
関谷さんの言葉に、奥さんは「ケーキ目当て?」と呆れ顔で言い、関谷さんは「違うよ!また会いにきて欲しいじゃないか!」と言いながらも、「でもケーキは嬉しいよ」と言っていた。
俺達は長居し過ぎたと謝って関谷家を後にする。
「夕飯は外にしますか?」
「いや、連休は混むから何か作らない?」
「カレーが食べたいです」
「了解。確かに1人でカレーは一度作ると続くからね」
俺達は買い物を済ませて萩生紅葉の家に着くと2人でカレーを作る。
父もこんな感じで秋山楓と料理を楽しんだのだろうか?
俺が思った時、萩生紅葉は「母さんも、こんな感じで真さんと料理を楽しんだのかな?父さんは料理をしない人だったから、つまらなかっただろうな」と言って微笑む。
「紅葉さんのお父さんの事はわからないけど、俺も今、父さんは楓さんと楽しんだのかなって思っていたよ」
「じゃあ楽しかったですね。私と母さんは似ていて、真さんと匠さんは似ているそうです。私は今楽しいです」
俺は微笑み返して「俺も楽しいよ」と言った。
カレーはとても良くできた。
普通のカレーなのにとても美味しい。
だがそれは普通ではなかった。
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