17話 甘やかなご褒美
ルミナが2年生へと進級し、リヴァイの16歳誕生日まであと2ヶ月。
王城内では誕生日に向けて多くの者がばたばたと動き回っている。
そんな中でルミナは一人、王族から許可された者だけが入れる庭園で、髪を風にはばたかせながら物思いにふけっていた。
「ここに来れるのもあと数回でしょうね……」
多くて二回、あればいい方だろうと白いバラの花を撫でる。
「時間はあっという間ね……」
結局あれから、リヴァイが一人のご令嬢を選ぶことはなかったため、王と王妃の中で時期婚約者が選ばれたが公表はまだされていない。
「結局、使えなかったわね」
リヴァイの隣にいるために魔法を使いたいという思いは確かにあるというのになぜ使えないのか。考えてもわかることは無かった。
眩しい空を見上げ、自身が選んだ選択は正しいのだとルミナが言い聞かせているとかさりと足音が聞こえ、振り返る。
「こんなところにいたんですね。ルミナ義姉様」
ふわりと柔らかく微笑んだクリスにルミナも同じように微笑み返す。
「こんにちは、クリス殿下」
「一緒に来ていただきたいところがあるのですがよろしいですか?」
「ええ、大丈夫ですわ」
ルミナは珍しいなと思いながらも、大人しくクリスの後に続いていたが王族居城区が近づくと歩むスピードを落とした。
「クリス殿下? わたくしこの先には……」
「僕が許可してるので大丈夫ですよ、予想の通り私室になりますが僕と二人っきりでは無いのでご安心ください」
そう言われてしまえば、ルミナに拒否権はなかった。
「先にどうぞ」
扉の先へと促す手に従って、ルミナが私室へ入ると扉はパタンと閉められた。
「え!?」
驚き振り返ってもクリスはいなく、ルミナ一人。
慌てて扉へと駆け寄ると扉の向こうからクリスののんびりとした声がルミナの耳に届いた。
「兄上がベッドで眠っているのでそばにいてあげて下さい。部屋はロックの魔法をかけたので2時間は開きません」
「ま、待ってクリス!」
「最近兄上に学園以外であってなかったでしょう?執務が忙しくて兄上はあまり学園に通えてませんでしたし。婚約者同士なので私室で二人っきりでも問題ないですよ。では、兄上のことをよろしくお願いします」
矢継ぎ早に言いたいことを伝え、クリスはリヴァイの私室から離れる。
ルミナに悪い事をしたとは思うが、そろそろ休んでもらわなければ皆が不安になっていたため仕方がないと自身を納得させ、クリスは兄の反応を楽しみにしながら執務へと戻るのであった。
一人置いていかれたルミナは、ダメ元でドアノブに手をかけてみたが扉は開かず、出ることを諦めたルミナはベッドへと近づく。
ベッドの上にはすやすやと寝息を立てながらあどけない表情で寝ているリヴァイがいた。
「寝顔なんていつぶりかしら……」
独り言を言いながらさらさらのプラチナブロンドに触れていると目の下にうっすらとクマをみつけ、顔を歪める。
「無理しすぎだわ」
労るように触れているとリヴァイが身動きをし、ゆっくりと目を開けたため、ルミナはしまったと思いながらおはようと声をかけた。
「……?るみな……?おはよう」
「寝ぼけてるリヴァイは可愛いわね」
「ん、いいゆめ……おいで」
リヴァイが寝ぼけながらぽんぽんと叩かれたのはベッドの上。ルミナはぴしりと固まった。
どうするのが正解!?とぐるぐる悩んでいたルミナだったが、リヴァイに甘えるようにもう一度名前を呼ばれ、呆気なく欠落した。
「し、しつれいします……?」
あまりの動揺に言葉がたどたどしくなってしまったのは仕方がないだろうと誰にするでもない言い訳をしながらころんとリヴァイの横に寝転がる。
数分間、ルミナはそわそわとしていたが、リヴァイが再度寝息をたて始めたため寝顔をじっと観察することにした。
「こんなこと、もう今後はできないわね……」
それ以前に私室に入ることももうないだろうと気づく。
魔法が使えなくなってから悩みに悩んで、リヴァイが王太子となれるよう最善を選んできたというのに、隣にいられないのだという実感が今更ながらにルミナを襲う。
ルミナはこの時初めて、王位継承権を放棄し一緒にいてくれないだろうかと、甘い思考に縋り付きたくなったが慌てて被りを振る。
リヴァイのこれまでの努力と、多くの人の期待をたった一人、自分のために投げ出して欲しいなど言えるわけが無いのだ。
第一王子として産まれただけの期待ではなく、リヴァイの性格や行動をみて、臣下となる者の中に生まれた期待なのだから。
そう何度も言い聞かせても寂しいと感じてしまったルミナは誤魔化すようにリヴァイの胸に擦り寄り、やがてリヴァイの体温の温かさを感じながら微睡んだ。
柔らかく、甘い匂いを幸せに感じながら目を覚ましたリヴァイは自身の腕の中で眠るルミナをみて、これは夢だなと即座に判断した。
現実では一度も見たことがない寝顔をしげしげと眺め、抱き込む。
「いいゆめ……」
夢なのに体温も感触もしっかり感じ取れるなんて最高だと考えながらリヴァイはバターブロンドの髪をなで、満足すると唇をなぞる。
ふにふにとした感触にリヴァイはピタッととまり、おそるおそる自身の手で頬をつねる。
「いたい……え!? どういう状況だ!?」
やっと現実だと判断したリヴァイは声を大きくしてしまい、ルミナがむぅと唸りながら目を開ける。
かちりと動揺しているアクアマリンの瞳とエメラルドの瞳が交差すると、ルミナは舌っ足らずな口調でおはようといいながらふにゃりと笑う。
瞬間、リヴァイの脳内は可愛いと言う文字で埋め尽くされた。だがその間にもすりすりと胸に擦り寄られ、リヴァイの頭はショートした。
「……? リヴァイ大丈夫?」
「ルミナが可愛すぎて大丈夫じゃない」
様子がおかしいとルミナが呼びかけ、リヴァイは大真面目に答えたのだが、ルミナは楽しそうに笑い、リヴァイはやっと冷静さを取り戻した。
「ごめん、何も覚えていないんだ。どうして同じベッドで寝てるの?」
「リヴァイがおいでって言ってくれたのよ。やっぱり嫌?」
「そんな事ないよ!」
嫌というより嬉しいという気持ちしかないのだが、それ以上に理性を保つことで精一杯な状況だ。
リヴァイは元々15歳で閨教育をしてからというもののルミナに触れたい気持ちが強く、タガが外れないようにキスも抱きしめるのも、少しだけで我慢していたのだ。
そんな中でこの状況は幸福でもあり、地獄でもある。
「良かった。じゃあもう少し抱きしめてくれないかしら……? リヴァイが暖かくて安心したの」
「……わかった」
リヴァイは少しルミナを恨みそうになりながらもルミナをもう一度抱き寄せる。
「あ、それとこの部屋、後一時間くらい開かないわ」
「な、なんで?」
「クリス殿下が二時間あかないようにしたって言ってたの」
次から次へと無邪気に爆弾を投げられたリヴァイは
、既に爆発寸前であるのだがルミナの瞳がうろうろと動いてることに気づいた。
「どうかした?」
「……その……」
ルミナは言い淀むと頬を赤くさせ俯いたが、やがて顔をあげ、盛大な爆弾を落とす。
「キスを、しませんか……?」
ルミナの一言で簡単に理性を放り投げたリヴァイは桜色の唇を何度も啄む。
「んっ、リヴァイ……」
キスで瞳をとろんとさせたルミナにリヴァイは艶めかしく微笑む。
「はぁ……ルミナ覚悟してね?もう、限界なんだ」
その後、ルミナがもう無理だと根を上げても、リヴァイはまだ足りないと扉があくまでルミナを味わい尽くすのであった。
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