16話 変わりゆく日常
デビュタントの再現をしたあの日、リヴァイは魔法陣の書き換えをしていることがカミラとライルにバレた。
学園ではバレることがないよう通常の魔法陣のみ使用していたのだが、王城だったということもあり気が抜けたのだろうなとルミナは考えていたが、実際には今後のためにリヴァイ自らバラした、というのが正解だ。
勉強熱心なカミラとライルは魔法陣の書き換え方法を教えてもらおうとリヴァイの傍から離れなくなり、次第にルミナが避けようとしなくとも自然と一緒に過ごす時間が減った。
この事にはカロンとミレーヌがほっと息をついた。
入学当初は難航し、頭を抱えさせていたのだから仕方がないだろう。
ルミナによる妃候補の選定も順調だ。
現在での候補者は三人、シリウスの従兄弟でもある同年代のユーク候爵家令嬢ミリアン、2歳年上のドルネット候爵家令嬢ハンナ、そしてウォーカー伯爵家の令嬢カミラである。
家柄、教養、魔力、マナーすべて王妃からのチェックをクリア済みで全員がリヴァイと幼馴染または学友といった人物だ。
カミラに関しては初め、マナーが足りていなかったのだがルミナが指導し、吸収力が早かったためクリアした。
選定した誰かが今後はリヴァイの隣に並ぶのであろうと考えながら、ルミナは庭で楽しそうに話しているリヴァイとカミラ、ライルの三人を二階の窓から眺めていた。
「何を見てるのかと思ったらあの三人か」
すぐ近くで声が聞こえたルミナは後ずさりそうになりながらも後ろを振り返り、声をかけてきた人物の名を口にする。
「オラン殿下……」
「やぁ、ルミナ嬢。ここで見ているだけ?庭には行かないの?」
「特に用事は無いのです」
「そう……あのさルミナ嬢。聞いてもいいかな?君は……」
リヴァイと離れるつもりなのかと声に出そうとしたところでルミナは小さく首を振り微笑む。
「オラン殿下。その話はここでは出来ませんわ。後日ユテータス家へご招待いたしますのでその日でもよろしいでしょうか?」
それは、出かかった質問を肯定しているようなものだった。
オランはどうしてと思いながらも手をぎゅっと握りこみ、分かったと一言告げ、図書館へ行く予定だというルミナと共に歩きだした。
そんな場面を庭から見ていたのはリヴァイだ。
視線を感じると思い、上を見上げればルミナを見つけたのだがルミナと目が合う前にオランが現れた。
リヴァイはなぜ一緒にいるのだと荒ぶる感情を抑えながらカミラとライルに向き合う。
「カミラ、ライル方法はわかったか?」
「分かったけど中々難しいよ……」
「でも!この魔法陣が完成すればルミナ様が魔法使えるってことですよね!」
リヴァイは二人に魔法陣の書き換え方法を教える代わりに、ルミナの極わずかな魔力でも魔法が使える魔法陣の作成協力を二人に持ち掛けたのだ。
「そう、僕も何度か改良してるんだけどまだ使用出来る所まで出来てない。もう時間が無いんだ」
釣書を持ってきた時点で王が婚約者を変えようとしている事は明白となり、リヴァイは周りの人も巻き込むことにしたのだ。
「カミラは魔力を底上げするような薬草とかもし知っていたらそれも教えて欲しい」
「わかりました、探してみます!」
「僕は自身の魔力をルミナに分ける理論を考えている最中なんだ。だからこっちの魔法陣は頼んでもいいかな」
さらりと新しい魔法を作り出すと言い出したリヴァイにカミラとライルは目をぱちくりとさせ、2人で顔を見合わせる。
「この人の思考どうなっているんですか?」
「いや、もう分からない」
二人はひそひそと小声で話したが当然リヴァイにも聞こえているため、リヴァイは楽しげに笑った。
「僕の思考なんて簡単だよ、ルミナの隣にいたいだけだ」
時期王太子になるものがそれでいいのかと言いたくなる発言だが、潔く言いきったリヴァイに二人は拍手を送り、こちらの魔法陣は任せてください!と声を揃えて答えた。
カミラとライルに話を終えたリヴァイは、ルミナを探し始めた。
先程オランと何を話していたのかが気になったからだ。
ルミナが行きそうな場所を巡り歩いてみるがルミナに会うことは出来ず、ユテータス邸へ行こうかと考え始めた時、リヴァイはカロンを見つけた。
「カロン、ルミナを見なかったか」
「ルミナ嬢であればオラン殿下と共に図書館にいましたよ」
「……二人で?」
「ええ、そうです。行き過ぎた嫉妬は醜いだけですので辞めた方がいいですよ?」
苦笑しながら告げられた言葉にリヴァイは冷えた笑顔を張りつけ口を開く。
「オランの初恋がルミナということはカロンも知っているだろう? 行き過ぎてない。僕は認識妨害魔法までかけて、特定の生徒を引き離そうとすることを辞めた方がいいと思うけどな」
「バレていましたか。ですが王妃殿下からの命令です」
「……わかった。こちらも対応を考える」
淡々と答え、背を向けたリヴァイの後ろ姿を見ながらカロンは寂しげに目を伏せた。
「気づいてください、リヴァイ殿下。タイムリミットは貴方が思っているよりも近いんですよ……」
リヴァイは届けられた釣書の中から選ばなければ、婚約者が変わることは無いと考えているが、実際にはそうでは無い。
選ばなければ16歳の誕生日が来た時点で、ルミナが選定した人物の中から王と王妃が選び、王命によって婚約解消と新しい婚約が行われるだけだ。
リヴァイが16歳になるまで後、半年ほど。刻一刻と終わりの時間は近づいている。
オランと二人で図書館にいると聞いたリヴァイは、早足で図書館へと向かった。
扉を開けてすぐにバターブロンド髪を見つけ、喜んだのも束の間。
オランがルミナの髪へ口付けていた。
リヴァイはルミナの名を呼ぼうとしたが図書館ということに気づき、苛立ちを隠すことなく2人に近づく。
「何してるの」
小声でありながらも低く、威圧感がある声にルミナは肩をビクつかせたがリヴァイは気にせずルミナの腕をとり、立ち上がらせる。
「リ、リヴァイ……」
「行こう」
リヴァイは何も声を発さないオランに鋭い視線を向けると、優しくも抵抗を許さない力加減でルミナを図書館から連れ出し、そのまま連れ歩く。
「リヴァイ……?どこへ行くの?」
「サロンだよ」
二人はまだ残っていた生徒たちの視線を一身に集めていたが、リヴァイは気にせずそのまま歩き、王族専用のサロンにたどり着くとルミナをドアへと押し付けた。
普段は澄んだアクアマリンの瞳がほの暗くなっていることに気づいたルミナは息を飲む。
「廊下で、何を話してたの?」
「あ、アリシア様のことを……」
アリシアとはオランの6歳下の妹だ。
アリシア・セレンティア、セレンティア王国の王女である。
「本当?」
ルミナは必死にこくこくと頷く。
実際は違うのだが危機感を感じたルミナは、図書館で話した話題をリヴァイに伝えた。
「さっきのは何?」
「あ、あれはオラン殿下が勝手に……!」
「そう……もう触れさせないで」
リヴァイは先程オランが触れていた部分の髪を触り、上書きするように口付けをする。
その様子を見ながらルミナはあと何回、リヴァイにこうしてもらうことが出来るのだろうと考え、瞳を揺らす。
寂しげな瞳に気づいたリヴァイはルミナをぎゅっと抱きしめ、額に唇をおとし、エメラルドの瞳をのぞき込む。
「ルミナ?僕はずっとルミナの隣にいるからね?」
信じてというリヴァイにルミナは伝えられる言葉を見つけることが出来ず、そっとリヴァイを抱きしめる。
学園ではお互いに距離を置こうというルミナの要望にそって過ごしていたため、二人が学園の中で抱きしめ合うのも、リヴァイがルミナに口付けを落とすのもこの日が初めてとなった。
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