11話 王となる覚悟
「ルミナと1日デートがしたい」
「……昨日お茶会だったよね?」
書面に目を通しながらリヴァイの言葉を聞いたシリウスは呆れた。現在二人はリヴァイの執務室にて政務中である。
「僕は1日ルミナとデートがしたい!」
二人が恋人になったことは既に多くのものが知っている。というのも恋人となった翌日、リヴァイは登城したルミナをすぐさま抱きしめたから。
顔を真っ赤にさせたルミナと蕩けるような笑顔を見せたリヴァイ。長年の恋心が実ったことを誰もが察した。
「早くキスがしたい…… 」
「欲望を全面に出さないでくれ。ほどほどにしないとマリアさんに怒られるよ?」
「可愛いことしか言ってないだろ?」
真面目な顔をして答えたリヴァイにシリウスは頭を抱えはじめたが、扉をノックするものが現れたため、二人の会話は終了となった。
二人の会話を中断させたのは第二王子、クリスだった。
「来たね、クリス」
「今まで頑なに教えないと言っていた魔法陣の作り方を教えていただけるチャンスですからね。本当に教えていただけるんですか?」
「その前に質問。王になる気はある?」
リヴァイの発言に執務室の空気は急激に重たくなり、シリウスは固まった。
クリスは瞳の中にほんの少し動揺を見せたが平然と答える。
「ありません」
リヴァイがこの質問をしたのは今回が初めてでは無い。一度目はルミナが魔法を使えなくなったと知った直後に問いかけた。
真っ直ぐに告げられた言葉にリヴァイは目を伏せ、ため息を零す。
「わかった。じゃあ決闘しよう」
「は!?」
リヴァイの言葉に反応したのはシリウスだった。
クリスは呆然としながらリヴァイを見る。
「僕が勝ったら王になる覚悟を持ってこれからを過ごして。僕が負けたら魔法陣の作り方を教える」
「……剣での決闘、ということですか?」
クリスは剣術が苦手だ。対してリヴァイは騎士団の副団長に並ぶ実力を持つため、負けが見えている。
「違うよ、魔法で。あ、カロンを呼ぶからそのピアスは外せよ」
「待って、リヴァイ。何を言ってるのか分かってる?クリスはピアスを二つ付けていたってリヴァイより魔力量高いんだよ?」
「もちろんわかってるよ」
口を挟んだシリウスにリヴァイは当然だろうと答える。
「僕に勝つつもりですか……」
魔力量は100年に一人の逸材。才能もあり、魔法の天才と呼ばれるクリスにリヴァイが勝つなど、本来到底無理な話だ。だと言うのにリヴァイは笑顔で答える。
「僕は勝算がない勝負をするような人じゃないよ」
そう言われてしまえばリヴァイのことをよく知る二人は何もいえなかった。
「それに全力のクリスに勝つくらいのことをしないとクリスは王になる覚悟をもたないだろ?」
「僕は兄上に王になって欲しいんです。ルミナ義姉様だってそうなることを望んでいます」
「わかってるよ。だがクリス、君もわかってるだろう?」
不敵に笑うリヴァイにクリスは何を言われているのか察してしまった。
「勝算があるとは言ったが本来僕には勝ち目がないもの。そして僕が負ければクリスはずっと望んでいたことを知れる。さて、どうする?」
問いかける顔は兄としての顔ではなく王子としての顔だ。
「……わかりました。全力で勝たせてもらいます」
リヴァイはクリスの返答に満足気に微笑み、お目付け役としてカロンとシリウスをつれて決闘ができる場所へと向かった。
「この決闘はどちらかが膝をつくか、ギブアップをすれば終了となります。基本私とシリウスがお二人の間に入ることはありませんが命の危機があると判断した際には介入いたします。よろしいですね?」
「あぁ、大丈夫だよ」
「僕も異論はありません」
「それでは!はじめ!」
カロンの声にあわせて先に動いたのはクリスだ。
ただの風魔法でも魔力を多く使用すると、かまいたいのような風へと変化し、鋭い刃へと変わる。
クリスが生み出した風は迷いなくリヴァイへと向かい、リヴァイはうっすらと笑いながら一つの魔法陣で氷の剣を作り出し、風を薙ぎ払った。
クリスは唇をかみ締めたもののすぐに三つの魔法陣を重ね、天井からいくつもの炎の矢を降らす。
魔法にも相性があり、氷と炎であれば炎の方が強いからだ。
だがリヴァイの動きは早かった。
クリスが展開した魔法陣を瞬時に解析し、頭上へ水の膜を張る。
炎の矢は水の膜によってじゅっと音を立てながら消えていった。
初めから容赦のない魔法のぶつかりあいに、シリウスは思わずすごいなと呟き、カロンが言葉を拾う。
「そうですね……始めるまでクリス殿下と魔法で決闘すると聞いた時はなぜ、リヴァイ殿下が勝算があると言ったのか分かりませんでしたが、今わかりました」
「リヴァイは解析をして攻撃に備えることができる中、クリス殿下は初めて見る魔法とあって解析が出来ないからですか?」
シリウスの質問にカロンは緩く頭を振り、それだけではありませんよと答えた。
「確かに攻撃に備えることが出来るのは有利です。ですがそれだけではやはりクリス殿下が勝ちます。魔力量が大きく異なりますからね。闘いを続ければ先に魔力を使い切ってしまうのはリヴァイ殿下となります」
だがそれは普通に考えれば、だ。
「シリウス様は気づきましたか?リヴァイ殿下が先程から一つの魔法陣しか生み出していないことを」
そう言われ、シリウスは二人へと目を戻す。
ちょうどクリスは幾つもの魔法陣を重ね、氷と炎の剣を作り出していたところだ。
「……なるほど。同じ魔法でも使用する魔力量が異なるんですね。ひとつの魔法陣と幾つもの魔法陣を生み出すのでは使用する魔力量が異なる」
「その通りです。さらにお二人が一つの魔法陣を展開する速度はあまり変わりません。だが重ねるとなるとどうしたってクリス殿下が遅れをとります」
シリウスは未だに薄く笑いながらクリスと向き合っているリヴァイをみやり、やはり怖い人だと苦く笑った。
魔法の応酬はかれこれ一時間つづき、クリスは息を乱してリヴァイを見る。
「兄上、僕の魔力がまだ兄上より多いことに気づいているでしょう?」
「もちろん。あんなに魔法陣を生み出していたというのにね。凄いよ」
今にも拍手を送ってきそうな兄にクリスは顔を歪めた。兄としてのリヴァイは好きだが敵となると途端に怖くなるのだ。
「……そろそろ、終わりにしましょう?」
「クリスがそう言うなら、仕方がないね」
リヴァイはクリスの言葉に答えるため足元に二重の魔法陣を作った。
クリスはその光景に思わず笑ってしまう。
魔法陣を重ねることは多々あれど一つの魔法陣の中で二重となっているものを今までに見た事がない。
「クリスの魔力、貰うね」
その言葉と共にクリスは魔力が急速に減っていくことに気づく。
「こんな魔法、どこにもなかったですよね?」
体がだるくなることを感じながらもクリスがリヴァイに問いかければ、リヴァイは作ったんだよ、理論から。と事も無げに言った。
リヴァイの言葉は、決闘することを想定し、クリスに勝つために作ったと言っていることと同意だった。
クリスはどうやっても勝てないのだと気づき、口元を歪め、床に膝をつく。
その姿を横目にリヴァイが魔力を吸い取ることを辞めると、魔力は粒子へと変わって四人に降り注ぎ、決闘の終わりを告げた。
降り注ぐ光を眺めながらリヴァイはふっと小さく笑う。
ルミナはリヴァイの魔法をいつでも綺麗だと言ったが知らないだけだ。リヴァイは人を傷つける魔法も、殺める魔法も知っていて必要だと判断すれば、例え血の海が出来ると分かっていても使用することを迷わない。
だからこそあの時、自身が動けばよかったとリヴァイは後悔していた。
怖がられるかもしれないと恐れ、守ることに徹したあの日。
そのせいでルミナは魔法が使えなくなり、今も悩んでいる。
ルミナが離れる要素を作ったのは自身だ。
だからといってそんなこと到底許せない。
この先にどんな未来が待っていようとルミナの隣にいることは譲れない。
その為ならばリヴァイは手を抜かない。
「僕の勝ちだ。約束通りクリスは王になる覚悟を持って過ごしてね」
さらりと告げて背中を向けたリヴァイにクリスは唇を噛み締める。
教養、マナー、剣術、魔法。どれをとっても優秀なリヴァイ。唯一魔法だけは自身が優れていたが、その魔法でさえリヴァイは努力や方法を変えて飛び越えていくことを知り、なぜリヴァイが全てにおいて優れているのかを知った。
それからというもの、クリスはリヴァイの人知れぬ努力をずっと近くで見てきた。
だからこそクリスはリヴァイを認め、一番の臣下になるために自身が突出している魔法を極めた。
いずれこの人が王になる。そう信じて。
その事を一番知っているのはリヴァイだ。
クリスが臣下となるのなら頼もしいなと言ったその口で、今度は王になる覚悟をもて、という。
「ずるいよ、にいさん……」
一人となった部屋でクリスの言葉は力無くこぼされた。
憧れていて、尊敬している人。
そんな人に言われれば頑張るしかないのだ。
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