5話 二人のご褒美

「……あの、リヴァイ」

「うん?」

「どうして隣……?」

 

 婚約お披露目のお茶会を大成功で終わらせたリヴァイとルミナは王妃からご褒美としてお忍びの許可が出たため、現在城下街へと向かう馬車の中だ。


 二人でのお忍びは一年に一度あるかどうか。

 またルミナ一人でのお忍びも危険だからとほとんど許可されない。そのため今日という日をルミナも心待ちにしていたのだが、現状よく分からない状況だ。


 今までは向かい合わせで座っていたというのになぜかリヴァイは迷うことなくルミナの隣へと座り、手を離さない。


「婚約者だしいいでしょ?」

「え、ええ……」


 婚約者というのであれば5歳の時から婚約者だったのだから今まで通りでいいのでは?という言葉はあまりにもリヴァイが楽しそうに微笑んでいるため飲み込んだ。


「リヴァイは何回も城下街に行ってるんでしょう?ご褒美になるの?」

「もちろん! ルミナと行けるのは久しぶりだしね! ルミナはどこか行きたい所ある?」

「うーん……いつもの場所は行きたいけど……」


 初めてのお忍びで気に入った魔法具店、ポルトとカフェであるフルート意外となるとふらふら街をめぐり歩くのが好きなルミナは特に思いつかなく困ってしまう。


 必死に行きたい所に考えを巡らせている間にも馬車は城下街の入口と着き、降りると楽しげな音楽と歓声が2人の耳に届いた。


「? なんだろう?」

「あぁ、ショーでもやっているんじゃないかな」

「ショー?」

「魔法のショーだよ。魔法師団の見習いが休憩時間とかにやっているんだ。どんなショーなのかはその時で変わるんたけと、きっと中央広場でしているから見に行こうか」


 二人が手を繋いだまま中央広場へと向かうとたどり着く前に水でてきたうさぎが出迎える。

 

うさぎは中央広場へと誘導するように動き、広場へと着くとウィンクとともに消えたが広場では小さな魚やイルカ、ペンギンなどフルール国では図鑑でしみることが叶わない生物が水で形とられ、音楽に合わせて宙を舞う。

 

「わぁ……!」

「今日のショーは水魔法が中心みたいだな」


 音楽と一緒に手拍子を送る人、ただただ見惚れる人。

 それぞれがそれぞれの楽しみをする中でリヴァイはルミナが無邪気にはしゃいでいる姿を目に焼き付けながら魔法陣の組み合わせを分析するという特殊な楽しみ方をした。


 数多くの水生物達は音楽の終わりと同時に消え、最後には中央広場に虹を作り出し、観客たちを楽しませ、ラストには盛大な拍手が送られる。

 

「凄い、凄い!」

「三つの魔法陣を重ねて、緻密なコントロールが必要になる魔法だからさすが魔法師団だね」


 ルミナは冷静に分析していたリヴァイに呆気にとられたもののリヴァイらしいなとも考え、笑った。


 ショーを堪能した二人は魔法具店ポルトへと向かい、新商品に目を輝かせたり、使用されている魔法の分析をしたりと楽しく過ごし、その後街をフラフラと歩く。


 歩き疲れたらフルートに行き、最後はチューリップ畑へと行くというのがいつもの流れだ。


 いつものお忍び、いつもの距離。

 つい先日のお披露目会でリヴァイは格好いいのだと認識したルミナは何かが変わってしまうのではないかと言い知れぬ不安を抱いていた。 


 そのため馬車の中では普段と違う距離感に居心地が悪かったのだが馬車を降りてからはいつも通り、変わらない距離ということに安堵していた。


 きっとこれからもこの距離でやって行けるだろう。

 ルミナはフルートに入るまで確かにそう思っていたのだ。


「はい、ルミナあーん」

「や、やっぱり自分で食べる!」


 フルートではいつもテーブル席だったのだが今日は席が空いていないという理由からソファ席へと案内され、珍しいなと思いながらも店内に入ったことをルミナは後悔していた。


 ソファ二人用のものがひとつ。

 こうなってしまえば隣に座ることしか出来ない。

 そんな状況でリヴァイは注文してやってきたパンケーキを、全てリヴァイの手によって食べさせたいと言い出したのだ。


 今までも花の交換という名の食べさせ合いはしていたため、いつもと変わらない距離だとルミナは軽く了承した。


 だが実際にされると違うことが分かる。

 花の食べさせあいはここまで恥ずかしくなるような事じゃなかったはずだとルミナは頬を赤くさせ、簡単に了承してしまったことを二口目で後悔していた。


「ダメだよ、全部食べさせるって言った」

「そ、そうだけど……」

「はい、あーん」


 にこにことしたリヴァイにルミナは何も言えなくなり、うめきながらもパンケーキを食べ終わるまで耐えしのび、もう絶対こんなことはしないと決意した。


「この後、いつもならチューリップ畑に行くけど、北の森の方に行ってもいい?」

「いいけど……魔物は?」

 

 フルール国の森には魔物が住んでいる。

 基本的には人から害を出さなければ大人しいため危険なことは無いのだが子供は近づかないように言われている。


「森の中までは入らないから大丈夫。森の前に平野があるんだ。広いところで魔法使うの見てみたいって言っていたでしょう?見せてあげるよ」

「いいの!?」

「もちろん」


 5歳から魔法を教わりだしたリヴァイは既に魔法師団と同程度の実力を持つ。

 本来であれば10年ほど学んでたどり着く場所へリヴァイは軽々と到達し、周囲を驚かせた。


 そんなリヴァイにルミナはよく魔法を見せてもらっているのだ。


 フルートを出た二人は名残惜しく感じながらも夕刻が近くなったことから城下街から離れ、北の森近くにある平野へと向かった。  


平野の中心にリヴァイが立ち、ルミナも向かい合うように立つ。

 

「始めるね」


 リヴァイはそういうと手のひらの中でいくつもの魔法陣を繰り出した。


 魔法陣の中から風と水が生まれ、どんどん形を作っていく。中央広場で見た、あの魔法だ。

 

 違うのは作り出されたのが海の生き物ではなく、フルール国で聖獣と掲げられているユニコーンであること。


 ユニコーンはキラキラと光を纏いながら平野を駆け、ユニコーンが通った道は光り輝く。


 この光景に誰もが見惚れ、ルミナはあまりの美しさに言葉を失った。


 平野を一周したユニコーンは一度お辞儀をすると空へと駆けだし、最後には光の粒子を降り注いで消えていった。 


「……これが、今日見せたかった魔法。魔法師団と似たようなものになってしまったけど、楽しんでもらえた?」


どこか神秘的な光景に見惚れていたルミナは慌てて口を開く。

 

「もちろん! 凄いわね。感動してしまって言葉が浮かばないわ……素敵な魔法を見せてくれてありがとう」

「どういたしまして。こんなので良ければいつでも見せるよ」

「リヴァイは、優しいわね」

「違うよ。僕がルミナを喜ばせたいだけなんだ。ルミナが好きだから」


 ふわりと甘く微笑まれ、ルミナの心臓はとくりと早くなる。


 今まで何度もいわれている言葉だ。

 例えば、お茶会の時にルミナが好きな物ばかりを用意してくれた時。


 例えば、魔法で見たいと言った光景を見せてくれた時。


リヴァイはルミナが喜んでくれるのが嬉しいと、好きだというのだ。


 5年という月日の中で、何度も告げられた言葉。

 だというのにルミナは顔を徐々に赤くさせる。


「……ルミナ? 疲れた? 顔赤いよ」

「ゆ、夕日! 夕日のせい!」


 そうだ、絶対夕日のせいだとルミナは言い聞かせながらも頬が熱を持ってしまっているように感じ、両手で頬を抑える。


その姿は恋する少女にしかみえなく、リヴァイは目を丸くさせ、手で顔を覆う。


 自身の好意が伝わり、少しでも兄のような存在から脱却できたらいいと思っていたリヴァイだったが、まさかこのタイミングでこんな反応が返ってくると思っていなかったため、虚をつかれた。

 

 リヴァイはなにを言えばいいのかも分からず、ルミナを見つめては気恥ずかしくなり目をそらすということを繰り返す。


 二人は何も言葉を発せないまま、夕日と共に顔が赤くなっていく時間を過ごした。

 

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