4話 認められた二人
ルミナは扉の前で立つリヴァイの姿をみて、そういえばこの人かっこいいんだったという思考に陥った。
さらさらのプラチナブロンドにアクアマリンの瞳。
成長途中とはいえ既に同年代の中では高身長に入るだろうすらりとした体躯。
理想の王子様だとお茶会で語ったのは誰だったか。
お茶会で何度も聞いたリヴァイ殿下はかっこいいという賞賛をルミナはやっと理解し、見惚れた。
騎士に指示を出していたリヴァイはルミナに気づくと一瞬目を丸くさせたがすぐに破綻し、ルミナの目の前へとやっと来た。
「ルミナ可愛い。そのドレスにしてよかった」
「ありがとう……リヴァイも格好いいわ」
「えっ!?」
「……リヴァイ?」
何に驚いたんだろう?と首を傾げるルミナと対照的にリヴァイは格好良いわという言葉を何度も脳内で再生した。
ルミナと婚約をして早くも5年。
既に二人は10歳となったのだがこの5年間ルミナがリヴァイに向けて格好いいと言うことはなかった。
お茶会にいたご令嬢達がリヴァイのこと格好いいって言っていたわよ!という報告は何度もされているにも関わらずだ
自慢の兄がご令嬢達に人気で嬉しい!と言いたげに満面の笑みで語るルミナにじとりとした目を向けたのは一度や二度では無い。
「リヴァイ?大丈夫?」
「大丈夫、噛み締めてただけ。行こうかお姫さま」
お姫様と言われたルミナは一度きょとんとしたがお願いしますわ、王子様と微笑みリヴァイの手を取る。
リヴァイは今日の婚約お披露目というお茶会に心から感謝した。
婚約お披露目の話がされたたのはルミナが魔力のコントロールを少しだけできるようになった頃。
いつもの2人だけのお茶会時にリヴァイから話された。
「今更お披露目をするんですの……?」
「10歳という年齢になったからこそ、だよ。5歳の時にお披露目しても同い年の子息や令嬢はしっかりと理解できないでしょう?でも今ならしっかり理解出来る。だからこのくらいの年齢でお披露目するんだ」
ルミナは大好きなマカロンを口にしながらなるほど、言われてみればそうなのかもしれないと、リヴァイの声に耳を傾ける。
「それで、僕たちのお披露目会はできる限り僕たちで準備するようにって」
「……わかりましたわ」
お茶会といっても開催側となればするべきことは多くある。
招待客をどこまでにするか決め、招待状を送り、招待客にあわせて会場のセッティング。また護衛なども手配しなければいけない。
初めて任されたこのお茶会は自身でどこまでできるかという試験になっていることをルミナは理解した。
「お茶会当日は一つだけ魔法を使っていいって父上から許可を貰ってきたよ」
「本当!? じゃあ私頑張るわ!」
魔力のコントロールを覚えたばかりのルミナはまだひとつも魔法が使えない。
コントロールができないまま理論や魔法陣を知ってしまえば暴走につながってしまうからだ。そのため1つでも魔法が使えるというのはとても魅力的だった。
「本当。ご褒美があった方がやる気出るでしょう?」
「ええ!」
「じゃあルミナ。ルミナのご褒美は僕が用意したから僕のわがままを聞いてくれる?」
リヴァイからのわがままなど初めてだ。
ルミナは何を言われるのだろうと思いながらも、もちろんよと答えたのだがリヴァイのわがままというのは意外なことだった。
「やった!お披露目の時の服は僕に決めさせて!」
「え、服を?」
「もちろん宝飾も!」
リヴァイは自身の瞳を輝かせ、力強く願う。
あまりの力強さにルミナは気後れしながらもこくりと頷き、頷いたあとになぜご褒美になるのだろうと疑問が浮かんだがリヴァイが喜んでいるならいいかと考えることを放棄した。
ただでさえ王子・王子妃教育、魔法の勉強、人脈作りと忙しい二人はお茶会準備も重なったことによって実に慌ただしい日々を過ごし、今日を迎えた。
魔法の勉強を二人でするようにしていなければリヴァイが魔力暴走を引き起こしていたのは誰もが予想できた。
リヴァイは自身が用意したドレスに身をまとうルミナを横目で見る。
ルミナは気づかなかったがドレスの全体はリヴァイの瞳、アクアマリンの色を使い、淡い金色で刺繍がされているドレスは母、王妃からのアドバイスだ。
自身の髪や瞳の色を使うとパートナーはリヴァイなのだと知らしめることができるから、と。
実を言うとルミナとリヴァイは5歳の頃に婚約式を行っており、わざわざ改まってお披露目会をする必要はない。
開催に至った理由はただ一つ。
リヴァイとルミナが開催するお茶会などで子息やご令嬢たちが知らずに言いよることに我慢ができなかったからだ。
同年代のものたちに囲まれる度に2人は婚約者がいるのでと躱し続けていたものの、今は恋愛結婚の時代ですのよ!といいだす者や可愛いだけでは王太子妃は務まらないでしょう?と言い出す者まで現れる始末。
数年間我慢していたものの、リヴァイはとうとう痺れを切らし、陛下へと進言した。
数多くの教育や経験が身になっているかどうか1度確認をしたく、婚約者のお披露目お茶会をさせていただけませんでしょうか、と。
父とはいえこの国の王。さすがに二つ返事での許可はしなかったがメリットとデメリットを説明されメリットが多いことから開催を許可された。
ようやく令嬢たちから開放されること、ルミナへ言いよる人を蹴散らすことが出来ること、なによりこの準備のためにルミナと二人の時間を得られたリヴァイは上機嫌である。
少しでも気を抜いてしまえば頬が緩んでしまいそうだと思いながらもしっかりと王子として対応しているのはもはや流石といった所だ。
ルミナの手のひらの温度を腕に感じながらリヴァイは足を進め、二人で招待客へと目を向ける。
「本日は私リヴァイ・フルールとルミナ・ユテータスの婚約お披露目会へご参加下さり誠にありがとうございます。心ばかりではありますが、皆様に楽しんでいただけるよう席を用意させていただきましたのでお楽しみいただければ幸いです」
挨拶を終え、ルミナへと視線を向けるとルミナは綺麗に微笑み、エスコートの腕から手を離し、意識を集中させて風魔法を展開させる。
ふわりと穏やかな風が巻き起こるとお茶会の庭園には色とりどりの花が降り、ひらひらと舞いながら用意されたテーブルのお皿へと運ばれた。
ルミナは魔法が上手くいったことに内心ほっとしながらも表情へは出さず、5歳の頃からさらに洗礼されたカーテシーをする。
「隣国、セレンティア王国にて評判のお菓子を今回はご用意させていただきました、どうぞご堪能くださいませ」
カーテシーを終え、ルミナが顔を見上げると庭園には拍手の嵐が起こり、誰もがみなルミナを認める瞬間となった。
その光景にリヴァイは得意げに小さく笑みをこぼす。
一つだけ魔法が使えると聞いた時にルミナが望んだのはフルール祭で王と王妃が見せた魔法だった。
だがあの魔法を使用するには多くの条件があり、今回は諦めるよう諭された為、別の方法で真似事をしようとなったのだが通常の花を振らせてしまえばお茶会会場が花で埋もれめちゃくちゃになってしまう。
どうするかと考えた二人が行き着いたのはお忍びで食べたあの花だった。
ルミナとリヴァイはこの日のために隣国、セレンティア王国の王子と交渉をしっかりとやり遂げていたのである。
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