2話 我慢の限界
「ルミナ、城下街に行かない?」
「城下街?」
「そう! お忍びで行こう?」
ニコニコと穏やかに二人が話す中で侍女と騎士たちはどうか、ルミナが承諾してくれますようにと心から願っていた。
というのもこのお忍びが実行されるかどうかでリヴァイの機嫌が変わってしまうからだ。
初めての顔合わせをしてから毎日のように会っていた二人は教育が始まってからというもの、どんどん二人の時間が減っていた。
5歳の時には週に3回は会っていたというのに、6歳になるとリヴァイとルミナはこの先の王太子、王太子妃として人脈を広げるべくお茶会や魔法師団、騎士団と様々な所へ連れ回された。
その先で未来の側近候補や友達にも出会えたとはいえ、二人が7歳となった今、二人の時間というのは一月に一度あるかないかだ。
それでもこれは必要なことだと理解し、リヴァイは泣き言ひとつ言わず日々を過ごしていたのだが昨日、魔力の暴走を引き起こし部屋一帯を壊してしまった。
先月のルミナとのお茶会は開催されず、今月も難しいという報告を受け取ったリヴァイは体内が沸騰しているのではないかと思えるほど体を熱くさせ、気づけば自身の部屋を扉ごと壊していた。
尋常ではない音にすぐ騎士と侍女は駆けつけ、侵入者がいないことに安堵したものの、今にも人を殺してしまいそうな殺気を身にまといながらルミナに会いたいと呟いたリヴァイに恐怖した。
”ルミナに会いたい”この一言をしっかりと聞き届けた者たちの行動は素早かった。
騎士は陛下へと進言し、執事は翌日の予定をキャンセルし、侍女は厨房へとかけつけ今日のお茶会が必ずや成功するようルミナの好きなマカロンとチョコレートを作るよういいつけた。
誰もがこのままではまずいと考え、陛下と共に執務室にいたルミナの父、ゴートンもルミナの予定を調整するようにすぐさま動き、今日のお茶会が実現した。
なにも知らなかったルミナだけは急遽王宮へと呼び出され混乱していたが、リヴァイと会えることは嬉しいことのため深くは考えなかった。
「ね、一緒に行こう?」
「お忍びということをしたことがないのでお父様に聞いてみないと……」
「それなら大丈夫だよ。既に許可は貰っているから」
リヴァイの言葉にルミナはいつのまにとエメラルドの瞳を丸くさせたがそれならぜひと柔らかく微笑んだ。
「良かった! じゃあ行こう!」
「え!? 今からですか!?」
「もちろん! 大丈夫、服とかは用意してあるから!」
早くと言いたげに手を引かれたルミナは困惑しながらもリヴァイへと着いていき、連れていかれた部屋には三人の侍女たちが待ち受けていた。
「じゃあ、僕も着替えてくるから後はよろしくね」
リヴァイは上機嫌にルミナと侍女へ告げ、部屋には呆然としたルミナが置いていかれた。
「本日は急に申し訳ございません」
「大丈夫よ。私は着替えるということよね? 服のサイズは大丈夫なのかしら」
「ご安心くださいませ。リヴァイ殿下がルミナ様と行きたいと以前から仰っていたので何着か用意させていただいてます」
「そ、そう……」
用意されていた淡い青色のシンプルなワンピースはルミナのために作ったのではと思える程ピッタリでルミナはちらりと自身の侍女マリアを見る。
視線に気づいたマリアは正解ですといいたげに微笑んだためこの服が本当に自分のために作られたものだということを悟ってしまった。
「ルミナ様、髪を結わせていただいてもよろしいでしょうか? リヴァイ殿下からこちらのリボンを使用して欲しいと預かっているのですが」
そういって見せられたリボンはリヴァイの瞳を思い浮かばせる澄んだ青色だった。
拒否する理由も特にないため、こくりと頷くとさらさらとしたルミナの髪は侍女の手によってリボンと共に編み込まれ、きゅっと結んだところでノック音が響く。
「ルミナ、入ってもいい?」
「ええ、大丈夫よ」
扉を開いたのは声の通りリヴァイだったがもう一人、リヴァイと共にいたことにルミナは驚く。
「クリス殿下もいらっしゃるとは思いませんでしたわ。一緒に城下街へ?」
「僕はそうしたいと思っていたのですが兄上にまだ早いといわれてしまったのでご挨拶だけです。ルミナ義姉様はそういったワンピースもにあいますね」
第二王子クリス・フルールはリヴァイの2つ下の弟である。リヴァイとルミナも魔力量は高いのだがクリスは100年に一人と言われているほど魔力量が高く、高すぎる魔力のせいで既に魔力を抑えるピアスが両耳に付けられている。
「一緒に行くことはできないので僕からもプレゼントを」
クリスはにこりと笑うと手の中に魔法陣を生み出し、青色のバラを作り出した。
クリスは魔力量を抑えていてもリヴァイとルミナより魔力量が多く、魔法の才能も高い。
そのため5歳になったばかりだと言うのに様々な魔法を自在に使い、魔法の天才と呼ばれている。
「クリス殿下はやっぱり凄いわね! ありがとう!」
「義姉様がよろこんでくれて嬉しいです。では楽しんできてください。兄上おみやげをまってますね」
「任せて」
小さく手を振りながら去っていくクリスに二人も手を振り返し、クリスの姿が見えなくなるとリヴァイはルミナの手を取った。
「じゃあ早速行こうか! 一緒に行きたいところが沢山あるんだ!」
リヴァイがルミナと城下街に行きたいと一番初めに言い出したのは実は6歳の時。
初めて側近候補と城下街へ行ったその日だ。
次はルミナと一緒にと考えていたのだが流れに流れ、実現されることなく今日となったためリヴァイは逸る気持ちを抑えることが出来なく、満面の笑みである。
久しぶりに無邪気な笑顔を見たルミナは可愛いなと思いながら、早く行きましょうとくすりと笑った。
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