第2話 無気力エルフとヒト筋の光
私は全速力で駆け抜けた。横を通過した木々がパッと手を振ってくれる。
まだ、村は見えない。
「北に人里がある。」この話は私が50年前に聞いた話だ。もしかしたらもう無いのかもしれない。
でも、そんなことはどうでも良かった。
今の私はエルフの里にいた頃の気分が嘘のように晴れている。快晴だ。雲ひとつない。そんな快晴の心に自らの手で雲を作るほどバカじゃない。
私は楽観視しながら走った。
外が暗くなって来た。日が落ち、月が空を照らす。夜の世界だ。
私は丁度いいくらいの大きさの石があったので座りながら空を見上げる。
その夜空に私は一目惚れした。
私が
自然に囲まれた。それは里もここもそうだ。でも、少し違うところがある。
それは、この景色を自分で掴んだか、ただ迎えたか。
こんな些細なことにも、喜びを感じることができるのはとても心地よく、初めて感じた感情だ。
「頑張って良かった。」それは私が初めて知った感情だ。満たされたような、満足したような。そんな感情。……満足か。私はもう、満足してしまったのか。こんな些細なことに。
もっと貪欲に、もっと求めてみようか。私はもう一度走り出した。月の光がさす夜に、一筋の光と共に走り出した。
「お姉ちゃん。起きて…お姉ちゃん!」
目が覚めた。天井がある…天井がある?!私は飛び上がった。
どうして…まさか里に連れ戻された?!とか意味わかんないことを考えていると、横にいた少女の存在に気づいた。
「君は…誰……?」
私は初対面の人には相当コミュ障を発動してしまうのだ。こんなにあって間もないのに話しかけることができた私の頑張りを評価してほしい。
…いや、やっぱりいいや。
「|Юу яриад байгааг чинь мэдэхгүй байна. эгч.《何を言っているのか分からないよ。お姉ちゃん。》」
…何語だこれ?!私は自分の使っていた言語が伝わらないことだけを理解した。
とりあえず何か方法は…。そうだ。こういう時のための魔導書。
私は魔導書を取り出した。少女の体がビクッとする。どうしたのだろうか。
まあいいや、私は魔導書で、魔法を唱える。
「
魔導書をしまう。
少女はまだ、震えているので、落ち着かせるために声を静かに、語りかけるように話す。
「君は、私の言葉がわかる?」
私は問いかける。
もし、分からなかったら彼女の言っていた意味のわからない言語は、言語ではなく、本当にただ意味のわからないことを言っていただけになる。
「…分かります。お姉ちゃんは…人を喰らったりしませんか?」
…私は初対面の会話にしては奇抜的だが、まともにやれた方だと思っていた。
それに私はうまくやった方だと思う。
しかし、彼女からの初対面の印象は最悪だった。
「私は人を喰らうことも、人の弱みを握る趣味もないよ。」
とりあえず敵意がないことを示した。彼女は半信半疑といった様子でこちらを見る。
「お姉ちゃんは、魔女ですか?」
また、訳のわからない質問が飛んでくる。私はその質問の意図が読めなかったが、魔導士ではあるが、魔女ではない、と答えると納得してくれたのか、私にこう話して来てくれた。
「魔女じゃないのなら良かったです。さっき魔導書を開いた時に、ビックリしました。魔女は、魔法を使って子供を攫って食べてしまうと、絵本の中で見ましたから。」
なるほど、これに既視感がある話を聞いたことがあるからすんなりと意味が伝わった。
"早く寝ないと魔王軍が来るぞ。魔王軍は子供を攫って食べてしまうぞ。"
今思えば、
いきなり目の前の少女が愛しくなってきて、さっきまでの態度が馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「…ところでなんで私はここにいるのかな?」
本題をやっと切り出せたことに安堵していた束の間、爆弾を落とされた。
「お姉ちゃんが、村の近くの道端で倒れているのをパパが拾って来たから。」
私は子猫のように拾われたらしい。
そこらへんの猫と同類か。…
まあ、ご厚意でそうされたのならいいことにしよう、と、私は鬱々とした気分を払拭した。
「私はエリー。お姉ちゃんの名前は?」
名前を聞かれたのは、いつぶりだろうか。
魔法を研究してからは外に出ることなんてなかったから、自己紹介なんて数100年振りだろう。
私はエリーに名前を教える。この時の私は少し嬉しそうだった。…と思う。
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