第3話 ヤミ ヲ タユタウ

 ――暗い。


 真っ暗闇。その中にいる、僕。


 真っ暗でも、僕がここにいることが分かる。

 

 なぜ、そう分かるのか。


 もちろん僕が僕を認識している、というのはあるが、それだけではない。視覚からの情報として、僕の体の存在を認識していた。


 体の周りをふわふわと光の球が漂って、僕の輪郭を照らしてくれている。


 そのお陰で分かる、細身の体、少々骨ばった手足。


 ぬるい闇は、光が差さない部分の身体の輪郭を曖昧にさせる。解けてしまいそうな僕を、その輪郭を、ふよふよと漂う光の球だけが繋ぎ止めてくれている。

「……」

 微睡みの中のようだった意識が、だんだんと明瞭になってきた。

 ふと、漂い続ける光を捕まえようと手を伸ばすが、ふわり、するり、と指の間を通り抜けていく。

 

――鈍いのな


 声だ。

 誰かの、声だった。

 低い声だった。若そうな声だった。


 暗闇にもたらされたソレが、僕の心臓を跳ねさせる。


 でも、何も思い出せない。何も……


――お前 …た…………?


 ノイズが走る。


 その声だけじゃない。僕を照らしていた光との間――僕の視界にも、同様に引き裂いたような黒いノイズが走る。


――ユウ……!


 最後の一言。ユウ、そう、その声は切羽詰まったような声で「ユウ」と言った。


 ユウ。何かを思い出せた訳じゃない。

 

 でもそれは、明確に


 僕を呼ぶ声だった。

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