【プロローグ】セーフエリアに居た人

 何故人の気配が? 数は……4人? 何故こんな所に人が? と疑問に思いつつ気配を消して近づいていく。


 賑やかな声にあれ? と首を傾げた。もの凄く聞きなれた声が聞こえてきたのだ。

 ちらりとセーフエリアを覗けば、朝に出かけて行った家族の姿が。


「はっ!? 何で!?」


 思わず体を乗り出して声をあげる。すると父の英人が「おお、やっときたな」とにこやかに笑う。


「いやいやいや!!! やっと来たなじゃなくて! 何でいるの!?」


 そこには両親だけではなく、danライバーとして活動している姉と兄の姿も。


 danライバーとは、ダンジョンライバーの略で、文字通りダンジョンの探索を配信するライバーの事である。姉と兄は結構人気があるらしく、精力的に活動している。


「何でって……そりゃあ私たちもここに住む為よ。当たり前でしょ?」


 そう語る姉は装備もばっちし、いつでも探索に出かけられる格好で自分の寝床の用意をしていた。いや、まだ朝だぞ。何やってるんだ。


「そうそう。流石にセーフエリアとはいえダンジョンはほぼ無法地帯だし、そんな所に一人で住ませるわけにはいけないだろ」


 兄はそう言いながら焚火の傍で肉を焼いていた。何の肉かは分からないが漫画肉のような形からして、モンスターの肉かもしれない。


「夏樹、麗華、ここの土を移動したいんだけれど、ちょっと手伝ってくれる?」


 軍手をして片手にスコップを持つ母がテントの向こう側から歩いてきた。その様子に姉が「母さん、まじでここで家庭菜園するの?」と引き気味に聞いている。


「は? 待って待って待って、ちょっと理解できないんだけど!?」


 兄と姉が居るのは100歩譲って良いとしよう。ただここに両親がいるのはなくないか!?


 父、秋原 英人は俺が幼い頃に会社員を止め、それ以来フリーランスで働いている。だからネットとパソコンさえあれば仕事自体は出来るだろうけど、ここはダンジョン。魔石を利用したネットワーク回線しか使えない。つまり、ここで暮らすにはその特殊な回線と契約しないといけないわけで……そんな直ぐに出来ないだろう。そもそも俺は自給自足のスローライフをしようと思ってたから電力は使わない方針だったし。


「親父! 仕事はどうするんだよ!? ここじゃ仕事なんてできないぞ!?」


 もう俺がここでニート生活を送ることをバレたのは良い。生存報告の手間はなくなったと思えば悪くない。悪くないが俺のワガママの所為で親父の仕事が滞るのはダメだ。そう思って言えば父はにんまりと笑った。


「大丈夫。いつでもここで仕事出来るように1年前から回線契約してたから」


 サムズアップする父の告白に唖然とする。いちねんまえから……?


「そうそう。誠が会社で働いてからずっと落ち込んでたたのに急にその様子がなくなるし。何かあると思って私と夏樹二人がかりで調べ上げたんだから」


 ふふん、と胸を張る姉に茫然とする。ここを見つけて半年でばれて居たというのだから当然だ。尾行を警戒するとかは無かったから姉や兄のレベルの冒険者になると追跡は容易だっただろう。


「いや……だったら言ってくれたらいいのに……」


 何故俺に秘密にしていたのか分からない。溜息を吐きながら首を振る。そんな俺に家族全員が顔を見合わせて困ったように笑った。


「だって、あんた楽しそうだったんだもん」


 と姉。


「子供の頃、夏樹が家の近くの公園に秘密基地を作った時を思い出したわねぇ」

「誰にもバレてない、って中々高揚感が合って楽しいんだよねぇ」

 と母と父。


「ま、秘密基地は男のロマンだからなぁ」


 兄の止めの一言に俺は崩れ落ちた。誰にもバレてないと確かにウキウキしてたことは認める。認めるけど!!


 バレてると知った時の恥ずかしさも分かってくれ!! 本当に!!

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