第20話荒らしの前の静けさ

「えろきもスキル使えたりする? するよねーあんたがスキルなしで生きてるのありえねーし。」


見た目はギャルだけど、その性格は悪魔のよう。

長いピンクのネイルが、キラキラと鏡のように光を反射する。その人差し指を俺に向け、小馬鹿にするような笑みを浮かべると、ゾンビよりも怖く感じる。


どうしてそう感じるのか、理由は明らかだ。俺の顔を足で踏んづけて…その後に残酷に楽しむ時村の、冷酷な微笑みが忘れられない記憶として、フラッシュバックするからだ。


その記憶が、蘇り苦しめる。それはあたかも、獲物を目の前に豹変する、ライオンの様に思えた。

その凶暴な本能が、いつ俺に向けられるのか、子鹿のように一挙手一投足に敏感に反応し、警戒せずにはいられない。


それが、返って彼女に何見てんのよ、えろき? と誤解を招く。もちろんそれは、過去の発言だ。

しかし今言われている様にすら感じる。


だが、それでも時村の目がちらりと俺を捉えるたび、心臓が高鳴り、体が硬直して胸が張り詰める締め付けられる。



「使えるよ。時村さんも、使えるのか。」


俺は彼女に質問した。スキルを使えるかどうか、あけすけに話す彼女に俺は、安心感を得る…はずもない。



「あーやっぱ? 使える超凄いよ、あーしのスキル。無敵だから。でも教えてやんなーい。」


時村が楽しげに話し、ぷいっと横に向く。

顔を背けたいのはこっちだ、と怒りを覚えた。



「へー? 真美もスキル使えるんだ? 欲しいなー。2人もやらなきゃか。手が折れそう。」


朱莉ちゃんが、いきなり彼女を呼び捨てで呼んだ。恐るべしだが、気になる事を言ったな。やらなきゃ? 何をやるんだ?


「はぁ? 何こいつ、あーしの名前呼び捨てなん? 最近のガキは礼儀知らねぇな? ギャルだからって礼儀分からないって見下してんの?」


ギロリと時村が朱莉ちゃんを睨む。彼女の声には、不信感と挑発的なトーンが混ざり合っていた。ここは謝った方が良いと俺は思った。


「私スキル使える人には、呼び捨てにしてるんだ。礼儀とか、子供だから分かんないよ。政樹このお姉ちゃん怖ーい。」


朱莉ちゃんが体を寄せて、上目遣いで助けを求める。

俺はすぐに、芝居だと見抜いた。俺が時村を怖がっているのを分かった上で、言ってるんだ。


ゾンビを全く怖がらない、朱莉ちゃんがそれほど怯えるはずがない。

試されてるいるのだろうか? 何のために?


俺は時村をなだめ、代わりに謝る。くっそ…自分の気弱な性格に腹が立つ。


「こいつ、本当に子供? なんか怪しい。まぁ…あーしも大人気ないか。こんなことで怒るなんて。」

腕を組んで、言う。その行動は不貞腐れた、子供だ。果たしてどっちがガキなのか。


「朱莉ちゃんは、子供だよ。色々辛い目にあってるから、あんまりいじめないでね?」

望ちゃんが助け舟を出した。


「お姉ちゃん、ちょっとトイレ行きたい。何処か止めて。政樹も付いてきて。」

それ聞いて望ちゃんが、神楽さんに伝えた。


「あら、分かったわ。あそこの公園が良いわね。でもゾンビいるかも知れないから、都丸さんがついて行くのは正解ね。」

神楽さんの意見に同意した。


心の中で俺は、ゾンビは朱莉ちゃんが倒してくれる安心感が芽生えていた。


だが…その反面彼女には、良い知れぬ何かがあると感じていた。

ただのトイレ休憩ならいいが、もしかしたら、重要な話をするつもりではないか?


ゾンビが出てきても、朱莉ちゃんなら倒せる。

むしろ俺がいる方が邪魔なはず。

普通なら1人で行くと言う。


だが、話しだけ…だろうか? 何か計画があるんじゃないか? スキルを持っていない2人を見捨てよう。そう告げるつもりか?



彼女の真意は掴めない以上、警戒は怠れない。

絶対に何かある…まぁ…良いさ、セーブ&ロードを発動させれば済む事だ。


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