第17話父親との別れ

一晩寝て、セーブの回数を回復させた。

神楽さんの作った食事を食べて、準備を整えセーブした。


命綱をセットした。まさに命を預ける紐だ。黒くて頑丈そうだ。


「このマンションともお別れだね。都丸さんのお陰で、ここまで生き残れた。ありがとう、あなたに命預けるからね。」


望ちゃんの温かい言葉に俺は、涙腺が緩むのを感じた。


命か…そうだ、俺はみんなの命を託されてる。絶対にここらから脱出して、平和な生活を取り戻す。新たな決意を胸抱いて、俺は彼女に頷き、生きて脱出しようと誓い合った。


良し、早速ラジオの音量をMAXにして、マンション表から沢山落とした。


それにゾンビ達が群がってる。作戦は成功だ。

俺は嬉しさで握り拳を作って、頷く。


マンション裏にゾンビがいない事を、確認した。

命綱をつたって降りるのは、まず望ちゃん、神楽さん、朱莉ちゃん、そして俺の順番だ。


本音で言えば、朱莉ちゃんをまず下ろして安全を確保したい。けど他の2人には、朱莉ちゃんは、か弱い女の子って事になってるからな。


望ちゃんが命綱をつたって降りていく。俺は額の汗を拭った。

唾を呑み張り詰めた緊張感の中、綱を神楽さんのに手預ける。


神楽さんが、上手く降りて行く。

みんな運動神経は良い。むしろ男の俺が一番運動神経鈍いかもしれない。


それを考え俺は無事降りられるか不安になった。

心臓の鼓動が一気に高まり、胸を手で押さえた。


朱莉ちゃんは、まるで自衛隊の様にすらすら降りて行く。みんな呆気にとられているだろうな。


良し…覚悟を決め、俺も降りて行く。


マンションのコンクリートの壁を蹴りながら、下へと降りていく。


やっぱり…1番降りるのが俺下手だ。情けなくて、途中で目をつぶり、ため息を吐いた。


そしてゆっくりと降りて行く。その時おおぅ…声が聞こえた。 6階のマンションからだ。


ま…まさか…頭上を見上げるとゾンビの手が見えた。

手のあとに頭が見えた…あれは…父さんだ。

嘘だろ? まさか飛び降りて来ないよな?


早く…降りないと…俺は焦った。それは、最悪な想像が浮かんだからだ。


もちろんロードすれば良い…でもそんな簡単に割り切れるか! 俺は心で叫んだ。

そしてその焦りが、足を滑らせ、スマホがポケットから落ちた…それと同時だろうか?

ゾンビの父さんも落ちて来た。


まずい…直撃したら、相当なダメージを受ける。だけど、ロードする暇もなかった。


落下してきた父さんは、俺の背後をすり抜けて、俺の服の裾を掴んだ。


凄い衝撃が俺を襲う。無我夢中で命綱を両手で掴む。


頑丈な命綱で助かっ…いや、父さんを振り払わないと、ゾンビにされる。俺は後ろを恐る恐る振り向いた。

見ると、服の裾にいた父さんがいなかった。服の裾が破けて父さんは落ちていた。


ふぅ、助かった? でも下にいる神楽さん達が危ない。

その心配は無用だった。

朱莉ちゃんが父さんゾンビを倒していた。


俺は複雑な心境でそれを見て、虚しさを感じながら下に降りていった。


「危なかったわね。」

神楽さんが俺の肩を叩き言った。


「無事で良かったよ。早くお母さんのくるまにいこう。どうしたの?」


望ちゃんが俺の悲しそうな表情を察して聞いたのだろう。なんでもない。俺はそう答えるしなかった。


ロードするべきか? そうすればゾンビの父さんは死なずに済む。けど人を襲うかもしれない。ならここで父さんと…辛いけどお別れするべきなんじゃないだろうか?


父さんの死体を見つめて、俺は心で泣いて、行こう! と声を張り上げ、神楽さんについて行った。


「スマホ!」

望ちゃんが声をかけて、すっかり忘れていたそれを俺に手渡した。ヒビが入って見えなくなっていた。ありがとうとお礼を言いスマホをポケットにしまった。

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