説明を聞いたり問題点を指摘したり

浅賀ソルト

説明を聞いたり問題点を指摘したり

うちの学校にもポニーテール禁止とかツーブロック禁止とか、あと、外国人であっても髪は黒く染めることといった頭髪関係の奇妙な校則があった。

理由を聞いたが、校則として決まっているとしか答えられなかった。

よその学校の話だと風紀を乱すためといった理由くらいは話すものらしいいんだけど、うちの学校はその理由すら説明されなかった。

「その校則がなぜ決まっているのかという話を聞きたいのですが。校則の目的でもいいです。ポニーテール禁止は何を目的としたものなんですか?」俺は聞いた。

教師の野澤のざわは、「だから校則で決まっているから禁止なんだ」と言った。「校則なんだよ」

最初の話し合いはこんな感じだった。

いくつか保護者に声をかけて、また話し合いの場を作ってもらった。

もともと髪の色が薄いために黒く染めされられた樋口ひぐちの母、あと生徒会長の保護者である馬場さんなど三人だ。こういうおかしな校則に問題意識のある保護者に集まってもらった。

対する学校側は前述の野澤に加えて副校長と学年主任が出てきた。生徒側はとりあえず俺一人だ。俺はこの学校側の対応そのものをネット記事とか動画にしたくて録画をしながら情報を集めている。

樋口の母親が繰り返されてきた質問をまた口にした。どうして元々の髪を染めなくてはいけないんですか、と。

「そういう風に校則で決まっているからです」野澤は大人を前にしても同じ説明を繰り返した。

「どうしてそういう校則が決められたんですか?」

「髪を染めてくる生徒がたくさんいたからですね」

「どうして髪を染める生徒がたくさんいると、黒にすることという校則ができたんですか?」

「校則として決められたから、生徒の髪の色は黒髪以外は禁止なんです。同じ話を繰り返しますが」

俺は高校生だが、野澤という教師が相手が女性ということでナメた態度を取っているというのは明白だった。男だったらこういう態度は取らないだろう。

何回も同じ話をさせるなとか、何度言ったら分かるんだとか、直接そういう風には言わないけど、言っているように感じさせる妙に相手を責めるような口調と態度だ。馬鹿にしているというかなんというか。

ただ、言っても無駄だとこっちを諦めさせる効果はそこそこある。俺は何を言えばいいのか分からなくなった。

男である馬場の父親が口を開いた。「なぜ黒髪以外は禁止なのですか? 元が黒くない人に染めさせる意味が分からないのですが」

「繰り返しますが、髪を染めてくる人がいるから黒髪以外を禁止したんです。分かりますか?」

最後の分かりますかのセリフはかなり攻撃的だった。何回言えば分かるんだという苛立ちがモロに出ていた。

「元から黒くない人を染めさせる意味が分からないと言ってるんですよ。樋口さんのところは染めてきているわけではないんです。むしろ今、黒に染めているんです」

「黒に染めているんならいいじゃないですか。何も問題ありません」

副校長と学年主任も野澤の横でうんうんと頷いた。まったくその通りという態度だ。

なんだろうな、これ。

これを読んでいる人にはこのニュアンスは伝わるだろうか? 俺が作ったドキュメンタリーでは観客には伝わったと思うんだけど、この教師たちが俺のドキュメンタリーを観てもちゃんと伝わるのか自信がない。

話が噛み合わないというか、校則をなんとかまともなものにしたいというこっちの目的や意思をひたすら削ってくる感じというか。っていうか、現状維持から何もしたくない感じとでも言えばいいだろうか。

「私は黒に染めなくても何も問題ないだろうという話をしているのですが」

「いえ、それだと校則違反になりますね」

「その校則に問題があるという話をしているのですが」

「校則には問題はありません」野澤は言った。「髪を黒にしてくれば何も問題はないんです。繰り返しになりますが」

「黒じゃなくても問題ないでしょう?」

「ですから。黒じゃなければ校則違反なんです」

副校長と学年主任は相変わらず横で頷くだけだ。うんうん。

野澤が当たり前のことを言っていて、こっちがおかしいのかという気がしてくる。

「どうしてもそこまで黒髪にこだわる理由はなんですか?」

「こだわっているわけではないです。ただ、校則を守っていただいているだけです。ルールはルールとして守っていただかないと、学校はめちゃめちゃになってしまいますから」

「はあ……」馬場の父親も押されて飲まれたような声を出した。

納得のいく説明を諦めてしまった声だ。もちろん納得はしてないのは見れば分かるんだけど。

「生徒保護者代表担当や保護者意見長という人が我が校にはいまして、そちらと意見をまとめていただけるとスムーズなのですが、どうでしょう? 日程を決めて一度会議をしていただければ」

「分かりました」

……という流れになった。

しかしここで先生の思った流れにならなかったのは、保護者の日程を確保したり時間を作ったりするのが大変になるということにならず、次にまた会議は俺だけになったということっだ。生徒である俺だけで、生徒保護者代表担当と保護者意見長という人に会うことになった。

この役職というのは現役の生徒の保護者ではなく、歴代、保護者の声として何かものを申すという立場にいる、ぶっちゃけ俺のような生徒からは関係のないおっさんだった。昔は本物の保護者だったのかもしれない。

どちらも自説を開陳するのが好きで好きでしょうがないというタイプだったので、生徒相手だろうと割といい気分になって話してくれた。

学生の本分は勉強である。お洒落や異性交友にうつつをぬかすべきではない。髪など染める必要はなく、ポニーテールもツーブロックもそんなことをする必要はない。そんなことを許せば生徒は先生の言うことを聞かなくなり、本分である学業もおろそかになる。勉強以外のことを排除するために校則があるのだ。

本当はもっと色々な話もあったのだけど、適当に要約するとこんな感じだ。

要約といってもその内容に意味があるというよりは、とにかく生徒への自由はとにかく制限したいという欲望がある気がした。本分は勉強であるというセリフを何回聞いたか分からない。

俺はその意見に乗っかって、まったく本業の学業がおろそかになりがちです、遊ぶことに夢中な生徒が多いですと合わせてみた。

「お二人は学生の頃はどのくらい勉強したんですか? 学年での成績は何位くらいでした?」俺は聞いた。

「はっはっはっ。私はまったく学業に熱心な生徒ではなかったよ。落ちこぼれだったね」

「私もだ。学生の頃は勉強以外のことにも夢中になるものだよ」

この二人はそんな感じで意気投合していた。どうやらそれはそれとして、自分たちがいかに楽しい学生生活を送ったかという話は自慢したいようだった。

「なるほど。それは充実した学生生活でしたね」俺は言った。

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説明を聞いたり問題点を指摘したり 浅賀ソルト @asaga-salt

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