犯人の手がかり
秋保 利人巡査長(幸の部屋の前)
両親と姉ちゃんの部屋に来ている。
あの部屋の荷物を整理する。
明日で、一週間が経とうとしていた。
『刑事でいる』と、自分で決めた。
しかし、捜査に参加できないもどかしさに、両親からの連絡を受けて、
いてもたってもいられずここへ来た。
両親が先に玄関に入っていき、遅れて自分も中へ入る。
先週、二人で出た玄関を見渡し薄暗い場所で崩れ落ちそうになるのを
ぐっとこらえた。
靴を脱ぎ、扉に向かい合うと何故か、急に郵便物が気になった。
何か、郵便物が届いているかもしれない。
エントランスまで戻り、郵便受けを確認する。暗証番号が分からないと
開けられない事に、今更気づいた。
それでも、中を覗き込む。
まるで、見つけてくださいという様に一枚の紙が、こちらに手を出していた。
摘まんで見れば、運送会社の不在配達票。
日付を見ると、殺害された翌日の二十時半となっていた。
差出人の名前を見て、一瞬自分の目を疑った。
『秋保 利人』と書かれている。
もちろん、配達を依頼した覚えはない。
不在票に記載されている電話番号に電話をかけ、営業所の住所を確認し、
慌てて飛び出した。
営業所に付くと、不在票を見せて荷物を受け取る。
送り状の字は明らかに姉ちゃんの字だが、差出人欄に俺の名前と寮の住所が
書かれており、受取人欄に姉ちゃんの名前と部屋の住所が書かれていた。
何故、こんなことを?
品物の欄には「スマホ他」と書かれている。
見つかっていなかった、スマホかもしれない。
黙って出てきた事に今更気づき、両親に電話をして寮の自分の部屋に戻った。
慎重に封を開け紙袋の上から中を覗いてみる。
中には確かに、スマホと充電器そして小さなメモが入っていた。
とりあえず、メモを確認してみようとそのまま手に取りそうになって、止める。
ショルダーバッグの中から常備している白手袋を出して、両手に嵌めていく。
深呼吸を一つして、メモを手に取る。
目を大きく開いたまま、動けなくなった。
そこには、姉ちゃんの綺麗な文字が並ぶ。
『もしも、私に何かあったら。利人、これを開いてみて欲しい。
きっと、手掛かりになるはず。』
そう書かれた下には、スマホのロックの解除方法が書かれている。
さらに下には、
『私はもう居ない。利人、頼んだよ』
と、書かれていた。
あの日の朝、別れた時の言葉がもう一度耳元でこだまする。
悲しそうな顔が蘇る。
やっぱり、あの時点で姉ちゃんは分かっていたんだ。
これから、自分の身に何かが起きると。
そうか、だから俺を差出人に。
もし、自分の身に何も起きなければ、スマホはちゃんと回収できる。
回収できなくても、届けられなかった荷物は差出人の元へ戻る。
他の誰かの元へ渡ることはない。
しかし、それはつまり相当危機迫った状況だったという事になる。
ぐるぐると頭の中に広がる靄を振り払うように、スマホを手に取る。
スマホの電源ボタンを押すと、画面が光りだす。
充電は、かなりの残量が残っていた。
メモを見ながらロックを解除すると、画面に『独自捜査用』と付箋のアプリが
張り付いている。
右にスワイプすれば、フォルダとボイスメモが並んでいる。
一度落ち着きたい。
電源ボタンを軽く押して、電源を切る。
このままボイスメモを聞き、フォルダの中身を見て犯人が誰か確かめようか。
そうして、俺はどうする?
姉ちゃんの、包帯姿を思い出す。
あの下には、無数の刺し傷があった。
殴り倒すだろうか、それとも…。
いや、それをやったら姉ちゃんは、俺を許してはくれないだろう。
姉ちゃんは、俺を信じてスマホを託した。
姉ちゃんが俺に囁く。
『利人なら、刑事としてどう動く?』
膝の上で、スマホを握りしめて零れそうな涙を無理矢理に押しとどめる。
体が震えて、頭が混乱する。
大きく深呼吸をして、脳に酸素を巡らせる。
このまま松木管理官に渡してしまえば、俺がボイスメモを聞くことは叶わない。
姉ちゃんの声を、今だけ聞かせて。
もう一度、電源を入れ直しアプリの音量を最大に設定してボイスメモの
アイコンをタップした。
『一月〇日 現在午後九時五分。
△×町のたまり場にて声掛けを行っていたところ、個人用のスマホに
『ミコト』君から連絡あり。
すぐに会いたいと住所を指定されました。
通話は、出来ない状況。
本人からか確認をとりたいところではありますが、緊急性があると判断して、
これから一人で向かうことにします。
ただ、ここ最近の自分を取り巻く違和感を無視も出来ません。
個人用のスマホでの遣り取りですが、こちらの調査用のスマホにデータを
バックアップとして残しています。
万が一、私の身に何かあった時はこの調査用のスマホが、犯人に繋がる
手掛かりになるはずです。
このスマホにメモを残しつつ安全に隠す為、一度配送業者に
預けることにします。
ここ最近、誰かに監視されているようです。
特に、自分の住むマンション周辺。
同じマンションの住民、または管理会社社員が考えられます。
私は、マンションで売買春が行われているのではないかと疑っています。
考察等については、スマホのフォルダを確認してください。
恐らくですが、ミコト君はこの件に関して重要人物だと思われます。
彼自身、売春を行っているはずです。
それから、管理会社の社員で相原という男性も関わっていると見ています。
相原という社員に声を掛けてから、監視が始まった様に感じます。
昨日も、尾行されていたようです。
もうそろそろ、指定の住所の近くです。』
(一度、大きな深呼吸をしているような音。)
『もしこれを今、利人と利人以外の方々が聞いているのなら。
吉田課長をはじめ、署の方々にご迷惑をお掛けしてしまったことになります。
最後の最後まで勝手な行動をして、申し訳ございません。
それから、秋保利人に関しましても、先に謝らせていただきます。
申し訳ございません。
きっと、あの子なら、今頃暴れてしまっているでしょう。
それでも、私にとっては大事な弟です。
どうか、弟の事を宜しくお願い致します。
(はあぁ…)
出来れば、ミコト君を救い出してあげたかった。
利人、あとは頼んだよ。』
そこで、音声は切れた。
最後の最後まで、姉ちゃんは姉ちゃんだ。
俺の事まで謝るなんて。そこまでする位なら、相談して欲しかったし
生きていて欲しい。
姉ちゃん、かなりの我儘だよ。
迷惑掛ける事を、分かっていて死ぬなんて。
何度も、何度も文字と言葉で俺を呼んで。
「狡いよ。何で、死ぬんだよ。姉ちゃん。」
スマホを握りしめながら、部屋の中で大声で泣いた。
呼吸なんて出来なくなる位、涙も鼻水も大量に出てくる。
無理に止める気も無かった。
今、一気に吐き出さないと次に進めない。
暫く時間が過ぎ、丸まったティッシュでごみ箱が山盛りになった頃、
もう一度ボイスメモを聞いてみる。
『相原』という名前が、少し引っかかる。
続いて、フォルダを開いてみる。
短い日記の様に、文字が並ぶ。
*****************
最近、『花屋』という単語を耳にするようになった。
たまり場にいる子供たちの何気ない会話の中に、犯罪が潜んでいたりする。
「花屋に行くと、お金が貰えるんだって。」
「花屋に行くには、特別な人に会わないといけないらしいよ。」
「花屋って、どこにあるんだろ。」
子供たちの会話は、まるでロールプレイングゲームの攻略法みたいだ。
この『花屋』という単語が、妙に引っかかった。
ただの『花屋』ではない気がする。
ただの噂話? 少し調査してみたい。
*****************
『花屋』についての情報は得られていない。
しかし、『みこと』という人物が関わっている様だ。
実在するかわからない『花屋』『みこと』だが、もう少し調べてみよう。
それとは別に、たまり場に三十代くらいの男が出入りし始めたらしい。
最近、朝一人でベンチに座る少年が居る。
要、観察。
*****************
たまり場の見回り前、スマホを忘れたため一度帰宅。
中学生くらいの少女。
ゲストルームへの直通エレベーターに乗り込む。
平日のこの時間、ゲストルームに一人で?
本当に住人がゲストルームを予約しているかもしれない。
しかし、嫌な予感がする。このタワー内で何かが行われているのではないか。
タワー内、要調査か?
*****************
帰宅時、制服姿の少女が右タワーへの自動ドアを通過するのを目撃。
住人であれば開閉操作をするだろうし、客であればインターフォンで知らせて
住人が鍵を開ける。
だが、今は勝手に開いた。
管理棟から操作したとしか思えない。
少女がスマホで呼んでいた、「あいはら」と呼ばれていた人物が操作したの
だろうか。
タワーの管理会社の社員か?
それとも、私の勘違いだろうか?
*****************
やはり、自動ドアの件は勘違いではなかった。
今回は、〇高の制服姿の少年が右タワー用の自動ドア前に立つと勝手に開いた。
管理会社の人間が丁度出てきたので、声を掛けると胸元に付けられていた
社員証に『相原』と記載があった。
最近自動ドアが勝手に開くことは無いか、カマをかけてみた。
『そんな報告はないが、点検します。』と答えていたし、動揺も見えなかった。
が、目の奥がどこか濁った気がした。
しばらく、様子をみよう。
余談だが、前回と今回の子供達の制服はどちらも私立の有名校のものだ。
たまり場以外でも、『花屋』は勧誘の様な事をしているのだろうか。
勧誘役が、別にいる?
*****************
『ミコト』と名乗る少年と接触。
まさか、要観察としたあの少年とは。
連絡先を交換できた。
『神木 命(かみき みこと)』
しかし、神木と名乗る前に『あいはら』と言いかけた。
『相原』と一緒に暮らしているのか?
二人は恐らく、『花屋』にも関係している。
まだ、私の素性は明かしていない。
けれど、バレるのも時間の問題だろう。
はっきりと伝えるべきだろうか。
しばらくは、巡回も控えねばならないかもしれない。
*****************
最近、誰かにつけられているような気がする。視線を感じる。
特に、タワーの周辺で。
『花屋』は、当たりなのかもしれない。
注意を怠らないようにしなければ。
*****************
ミコト君とは、暫く会えていない。
いや、会いに行けないの間違いか。
フリースクールで学んでいると話していたが、近隣にあるフリースクールでは
確認が取れなかった。
やはり、ミコト君も。『花』?
どうにかして、早く抜けさせてあげたい。
突っ込んで聞きたいところだが、今のままでは核心を突くのは難しいだろう。
相変わらず、監視されている様な視線を感じる。
*****************
スーパーで『相原』を見かけた。
一瞬だったが、間違いない。
私を監視しているのは、『相原』だ。
ミコト君と、会話できないだろうか。
*****************
ここで、メモは終了していた。
『花屋』について調べていたんだな。
最後のメモは二人で夕飯を食べた日。
『相原』
俺も思い当たる人物が、一人いる。
あの日、エントランスで目が合った男。
エレベーターで運ばれた、銀色の棺。
まさか、『ミコト』はもう…。
慌てて自分のスマホを取り出し、署の番号をタップする。
松木管理官に見せなければ。
「姉のスマホを見つけました。今から、署にお届けします。」
「分かった。待っている。」
姉ちゃんのスマホの電源を落とし、全て袋に戻してショルダーに入れる。
「必ず、捕まえるから。姉ちゃん。」
ショルダーを抱えて、署までの道を駆け出した。
松木管理官(捜査本部)
「分かった。待っている」
突然の、秋保巡査長からの連絡。
大きく息を吐いた。捜査員達が、自分をじっと見つめている。
「秋保巡査長が、秋保警部補のスマホを発見したらしい。
今、こちらに向かっている。」
そう言っただけで、捜査員達の目の色が一気に変わった。
捜査本部が騒がしくなる。
やっと何かが動き出す。
誰もが、そう思っているはずだ。
待ち望んだ一筋の光を無駄には出来ない。
電話が来てからしばらくした頃、捜査本部のドアが勢いよく開けられた。
捜査員たちの視線を集めながら近づいてくる秋保巡査長は、肩を大きく
上下に動かして呼吸をしている。
全力で走ってきたのだろう、額や首筋に滝の様に流れる汗。
自分の前に立つと、深呼吸をしてショルダーバッグから袋を取り出した。
「これが、姉が残してくれたものです。」
「中身は、確認できた? データを見て、どう思った?」
「ボイスメモと、捜査フォルダが残されていました。
姉は、『花屋』について調べていました。
今回の事件の容疑者と『ミコト』という人物に接触していたようです。
容疑者については、自分にも思い当たる人物が一人います。
それから…、」
秋保巡査長が、次の言葉を伝えかけて俯いている。
「どうした? この際、隠さず話してくれないか。」
少し強めの口調で伝えた自分に、捜査員が驚いた顔をしている。
迷いながらもようやく決心がついたのか、秋保巡査長がゆっくりと顔をあげる。
「あくまでも憶測でしかありません。
『ミコト』は恐らく、すでに殺害されていると思われます。」
捜査員たちからどよめきが沸き起こる。
「一先ず、スマホを確認しよう。憶測だけ聞いても、混乱するだけだ。
秋保巡査長、借りてもいいね? 」
「俺も、ここに居てよろしいでしょうか。」
袋を両腕で抱え込み、自分の目を射るように見つめながら弟が聞いてくる。
袋を渡してしまったら、また蚊帳の外になってしまうと心配するのも無理はない。
しかし、情に負けて捜査に参加させることはできない。
心の中で『すまない』と呟きながら、自分も目を合わせて答える。
「さっきの憶測についても聞きたいからね。今だけ、特例だ。
でも、スマホを確認して話を聞くまでだ。
その後については、席を外してもらう。
いいね。」
一瞬不満そうに眉をピクリと動かしたが、次の瞬間には諦めの表情を浮かべる。
「わかりました。中にスマホの解除方法を記したメモが入っています。」
鑑識班の一人が袋を受け取り、手袋をした手で中身を取り出していく。
加納が秋保巡査長に手招きして自分の隣を指さすと、素直にそちらへ歩いていく。
ペコリと頭を下げ、静かに椅子に座った。
スマホの電源を入れ、パソコンに接続されるとロックが解除される。
スクリーンに『独自捜査用』の文字列が映し出されると、
「右にスライドさせると、フォルダがあります。」
秋保巡査長が、鑑識班に叫ぶ。
右にスライドされた画面には、確かにボイスメモと捜査フォルダがある。
「ボイスメモの方を聞かせて貰えるかな。
お願いします。」
頷いた鑑識班がパソコンを操作する。
『一月〇日 現在午後九時五分。…』
会議室内に、初めて聞く女性の声が響く。
秋保 幸という人を、やっと知れた。
捜査員たちが聞き逃すまいと聞き入っていると、次の瞬間皆の顔が一斉に歪む。
謝罪の言葉が会議室に響き渡る。
そうして、ボイスメモは終了した。
重苦しい空気が広がるが、ここで足踏みは出来ない。
「次、フォルダを見せて下さい。」
フォルダには、『花屋』について調べられていく過程が映し出される。
『花屋』は、やはり売春組織。
『ミコト』と秋保警部補が接触していた事に、捜査員からも驚きの声が上がった。
フォルダの記述から、『花屋』は菊池を頭にした売春グループだろう。
『相原』は、社員である立場を利用し、自分が住むマンションのゲストルームを
不正に使い売買春行為を行わせている。
しかし、あれほど表立っていた『ミコト』という人物について疑問が生まれる。
存在はしているが、何処か不明瞭だ。
『ミコト』は、今、どこにいる?
秋保巡査長の言葉が、現実味を帯びていく。
「秋保巡査長、何故『ミコト』が殺害されていると思った?」
「姉の遺体を引き取りに行った日、『相原』を見ました。その時、見たんです。
人、一人が入る冷凍庫を運んでいるのを。
料理が趣味だと話しているのを聞きましたが、とても、料理用の食材を
ストックするような大きさじゃありませんでした。
それに、相原は俺の事を気にしているようでした。
尾行していた時に、俺の顔も見ていたんでしょう。
相原は、絶対に犯行に関わっています。」
大きな瞳が、真っ直ぐに自分を見つめている。彼の言葉を、疑う事が出来ない。
「相原について、調べましょう。各班、頼みます。」
捜査員が一度集まった後、それぞれ分かれていく。
その間も、秋保巡査長は拳を握りしめて耐えている。
分かるよ。
でも、参加させることは出来ない。
加納が、席を自分に譲ってくれた。
秋保巡査長の肩に手を置いて、ぐっと掴む。
ゆっくりと、悔しそうに自分へ顔を向けた。
「耐えてくれ。皆で、捕まえるから。」
ようやく出た言葉にも、納得はいかないのだろう。
眉根に皺を寄せて、こちらを見ている。
「刑事である君を、誇りに思うよ。」
秋保警部補でなければ、この言葉は彼に届かないだろう。
それでも、伝えたかった。
どんどんと顔が崩れて、涙が流れていく。
加納が、傍でゆっくりと背中を擦っている。
暫くの間、捜査本部に啜り泣きが響いた。
数時間後。
相原が、タワーで売買春の取次ぎを行っている証拠が揃いつつあった。
ゲストルームの悪用が、予約履歴との照合からで分かってきたのだ。
タワーの住人の名を勝手に使っていた事が、事実確認から分かってきている。
しかし、このままでは相原が秋保警部補を殺害した犯人だとは断定できない。
このまま引っ張っても、殺害を自供するとは思えない。
何か、もう一つ確証が欲しい。
「ああ、そういうことか。」
加納がホワイトボードに貼られた相原の写真に近付いていく。
「加納? どうした?」
「水仙の意味ですよ。やっとわかった。
あれは、『ミコト』に向けたものだったんです。
あくまでも、『ミコト』が死んでいる前提ですけれど。
これは、真実でしょう。
密告の電話の最後の会話が鍵でした。
黄水仙の花言葉。『もう一度愛してほしい、私のもとへ帰って』
花ことばの由来です。
冥界の王ハーデスは、豊穣の女神デメテルの子どもであるペルセポネに
一目ぼれして、黄泉の国に連れ去りました。
母親のデメテルは怒り悲しんだことがきっかけで、『私のもとへ帰って』などの
意味が付けられるようになりました。
また、『もう一度愛してほしい』『愛に応えて』の花言葉は、
冥界の王ハーデスが連れ去ったペルセポネの愛をつかむことができなかった
思いからつけられたそうです。
つまり、男性視点で見れば納得がいく。
『相原』は、『ミコト』に恋愛感情を抱いていたが、受け入れて貰えなかった。
やはり、『ミコト』という人物は既に亡くなっていて、『ミコト』に応えて
欲しくてあの花を置いた。
今でも、『相原』は、自分が『ミコト』を殺してしまった事を
受け入れられない。」
「秋保警部補や、菊池の件は認識できても?」
「恐らく、二人を殺害する前に『ミコト』を殺害してしまった。あるきっかけで。
自分でも、止められなかったのではないでしょうか。
自分を見て欲しいのに、見てもらえない。
なのに、他の誰かを見つめているのが耐えられなかった。
自分が殺した事を、認められない。
きっと、今も復活するのを待っている。」
加納が、確信めいた顔で自分を見た。
何故か、その顔は自分が一番好きな美月の顔にそっくりだった。
『大丈夫、ちゃんと前に進んでる』
「詐欺容疑で、逮捕状を請求しよう。
もしかしたら、そのまま自白するかもしれない。」
何故だか、確信があった。
このまま進めば、上手くいく。
逮捕状の到着後、ツインタワーへ向かった。
やはり、ここに戻って来たな。
加納と二人で訪れた日の事を思い出す。
さあ、ここからだ。
必ず、犯人を捕まえる。
そして、被害者たちとその周りに居る者たちの悲しみを少しでも癒すのだ。
管理棟の入り口に立った捜査員が、インターフォンに要件を伝えると
重い扉がゆっくりと開いた。
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