5.大学

 光晴くんがいなくなってしまって、わたしは少しパニックになってしまった。

 いろいろ調べたところによると、光晴くんは県外の大学に進学したらしい。

 SNSを調べたら、すぐに分かった。

 光晴くん、わたしが分かりやすい名前にしているから。

 わたしに教えるためだよね。

 嬉しかったよ。見つけたとき。

 わたしへのメッセージもたくさん見つけた。愛の言葉も。

 

 幼なじみと大学で会うって書いてあった。

 え?

 わたし、行かなくちゃ! でも、光晴くんの大学は遠くて、新幹線で行かなくちゃいけない。バイトをもっと増やさなくちゃ。

 わたしは大学の学費と家に入れるお金を稼ぐために懸命に働いていたが、光晴くんに会うために、さらにバイトを増やした。

 幼なじみと大学で会うって。

 わたしは自然に笑みがこぼれた。

 光晴くん、早く会いたい。


「ちょっと! なんだよ、このまずい飯は!」

 母がわたしにお椀の中のスープをかけた。

「ごめんなさい」

「もっとましなもの、作れよ。幸枝も友樹もだいじな時期なんだよ」

「はい、ごめんなさい」

「友樹は中学受験控えているし、幸枝は幸枝でもうすぐ高校の定期試験なんだよ。中高一貫校の私立だから、お前と違うんだよ、大変さが」

「ごめんなさい」

「――今日はもう仕方がないから、外に食べに行こう」

 母がそう言うと、妹も弟も「やったあ!」と言ってはしゃいだ。

「お前はそれを残さず食べておけ。残したら、許さん」

 母はそう言って、妹と弟を連れて出かけていった。


 家に一人残されたわたしは、まず、光晴くんのSNSを見た。

 涙が出た。

 光晴くんが写真付きで「幼なじみの彼女と行きたい場所」を上げていた。

 嬉しい嬉しい嬉しい。

 光晴くんは、いつもこうして、わたしを励ましてくれる。

 わたしはスマホをぎゅっと抱き締めた。

 光晴くんに会いに行こう、と思った。


 でも、光晴くんには会えなかった。

 お金を貯めて新幹線に乗って会いに行ったのに。

 光晴くん、何か間違えたのかな。

 わたしは光晴くんが「幼なじみの彼女と行きたい場所」として、SNSに投稿した画像を確認しようとスマホを出した。

 SNSを見たら、「幼なじみの彼女と行った場所」で、少しずつ違う写真がアップされていた。

 え? 待って待って。

 光晴くん、わたし、光晴くんに会っていないよ?

 光晴くん光晴くん。

 わたしはここにいるよ?

 ねえ、誰といるの?


 わたしの光晴くん。


 わたしはそれまで見るだけだった、光晴くんのSNSに書き込みをした。

 光晴くん、誰といるの?

 光晴くんの彼女はわたしでしょう?

 ねえ、わたし、光晴くんに会いに来たのよ。

 どこにいるの?

 わたしが彼女でしょう? ずっとずっと。

 光晴くん、大好き。ずっと好き。

 光晴くん早くわたしのところに来て。

 怒ってないから。

 浮気でしょう?

 仕方がないわ。

 光晴くん、素敵だから。

 でも、わたし、待っているのよ。

 新幹線に乗って会いに来たの。

 わたしが彼女でしょう。

 五歳のときから、わたしとあなたの恋はずっと続いているの。

 ずっとあなたのことが大好きなの。

 あなたもわたしのことが好きでしょう?

 光晴くん、返事をして。

 誰といるの?

 浮気相手は誰なの?

 わたしの光晴くん。


 急に光晴くんのSNSが見れなくなってしまった。

 どうしたんだろう?

 光晴くんに、何かあったんだろうか。

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