4.高校

 わたしは愛を貫いて、光晴くんと同じ高校に入学することが出来た。

 嬉しい!


 ただでも、高校では悩みが尽きなかった。

 光晴くんを狙う女子が多くて、わたしはほんとうに苦しんだ。

 ねえ、光晴くんは、わたしの彼氏なの。彼女がいる人に手を出すのは駄目だよ。

 わたしは頑張った。

 中学のときと同じようにSNSを使って、光晴くんや女たちの本音を書き綴った。女に他の男の陰があれば、すぐにそれを載せた。

 だけど、高校生ともなると、女も手ごわかった。 

「なりすまし! お前だれだよ!」と書かれた。

「警察に相談に行くから!」と書かれて、怖くなってやめた。

 ひどい。

 もともとは、そっちのせいなのに。

 わたしの光晴くんに手を出してきたのは、そっちなのに。


 高校生になって母に「バイトくらいして」と言われて、バイトも始めていたので、時間が全然なかった。バイトをしないと、スマホのお金も払えなかったし、学費も払えなかった。高校は公立だったけど、制服とか鞄とか靴とか、定期券とか教科書とか、思ったよりお金がかかったので、バイトは最大限入れた。でないと、高校に通えなくなってしまうから。

 光晴くんと会えなくなるのはどうしても嫌だった。

「ちょっと! 高野さん、それ違うわよ! こないだ教えたでしょう!」

「ああもう、だから、掃除は手早くして! 時間がないのよ」

「ねえ、高野さん、セットの組み方が違うわよ。いい加減、覚えてくれる?」

 仕事は大変だけど、頑張った。

「高野さん、笑顔で接客してくれる?」

「高野さん、声、出ていないわよ」

「高野さん、すみませんは聞き飽きたわ」

 わたしの心が折れそうになったとき、たすけてくれたのはやっぱり光晴くんだった。

 わたしがバイトしているハンバーガーショップに、光晴くんはやってきたのだ。一人だった。わたしを心配して? 嬉しい。

 光晴くんはわたしのレジのところに並んだ。わたしに会うため? 嬉しい。

「セットでポテトもいかがですか?」

「あ、じゃあ、お願いします」

 光晴くん、ありがとう。

 わたし、いっしょう忘れない。

「今の接客はよかったわよ」とバイトリーダーに褒められた。よかった。

 ありがとう、光晴くん。


 光晴くんとの愛を得て、わたしはまた頑張ることにした。

 いい案を思いついたの。

 光晴くんにつきまとっている女の最寄り駅が分かったんだ。

 光晴くん、わたし、頑張るね!

 ホームに電車がやってくる。

 あの女はいつもスマホを見て音楽を聴きながら歩いている。

 わたしは、ちょっと女にぶつかって「すみません」と小さい声で言って走り去った。ちゃんと防犯カメラの死角の場所を選んだ。

 ちょっと転べばいいと思っていたけど、女は線路に落ちて、そして特急列車にはねられた。

 あー、特急列車だったんだ。

 その最寄り駅には特急列車は停まらなかった。

 特急列車はスピードを緩めず、駅を通過するのだ。

 嫌な音がして、特急列車は急ブレーキをかけた。


 学校で「歩きスマホはやめましょう」って言われた。

 そうよね。歩きスマホはよくないわ。

 でも、「歩きスマホはやめましょう」って言われるようになってから、光晴くんは変わってしまった。

 いい方向に変わったことは、浮気をしなくなったこと。

 やっぱり浮気は駄目だよ、光晴くん。

 悪い方向に変わったことは、わたしに笑いかけなくなったこと。

 ううん。

 わたしだけじゃなくて、誰にも笑いかけなくなったし、いつでも難しい顔をするようになった。そして、なぜだから知らないけど、ものすごく勉強するようになった。

 ねえ、待って光晴くん。

 大学、どこへ行くの?

 わたしといっしょの大学に行くんだよ?

 わたしでも行けるところにして?

 

 光晴くんと目が合わなくなってしまった。

 光晴くん。

 わたしはここにいるよ?

 五歳のときから、ずっとあなたのことを思っているよ。

 ずっと。


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