3.中学校

 わたしたちのことはみんなにないしょだから、わたしと光晴くんの仲は秘密だった。誰にも言っていない。わたしは他の多くの女の子たちみたいに、口が軽くないの。


 一年生のとき、いっしょのクラスだね、嬉しいねって、光晴くんの目が言っていた。

 笑いかけてきた顔で分かったの。

 わたしは、うん、いっしょのクラスだねって、目で返した。

 嬉しくて、わたしは一日中、ずっと光晴くんの背中を見ていたんだ。


 でもね、大変なこともあったの。

 光晴くん、変な女に捕まっちゃったの。

 毎日、その女と帰るようになってしまった。その女はなんと絵里ちゃんだった。

 絵里ちゃんなら、わたしと光晴くんがつきあっていること、うすうす分かっていると思ってたのに。幼稚園からのわたしたちを見ていれば、分かったはずなのに。

 光晴くんと絵里ちゃんのことは、学年中に知れ渡った。美男美女のカップルだって。お似合いだって。幼なじみで、小さいときから思い合っていたんだって。

 それは、わたしでしょう!

 光晴くんと、幼なじみで、小さいときから思い合ってきたのは、わたしなのよ!

 光晴くんと絵里ちゃんは毎日手をつないで帰った。

 光晴くん、どうしちゃったの?

 わたしのことはどうしたの?

 光晴くんの、本当に好きなひとはわたしでしょう? 光晴くん、目を覚まして! 一回くらいの浮気、許してあげるから。

 光晴くんと絵里ちゃんがキスしたって噂が流れている。

 嘘でしょう? どうして絵里ちゃんと?

 光晴くんはわたしと初めてのキスをするのよ。

 光晴くん、光晴くん光晴くん!


 わたし、分かったわ。

 光晴くん、騙されているのよ。弱みでも握られているのかな?

 わたし、光晴くんをたすけてあげるいい方法を思いついたの。

 わたしね、SNSで、光晴くんの本音を代わりに書いてあげることにしたのよ。だって、光晴くんのこと、一番分かっているのはわたしだもの。それから、絵里ちゃんのことも。絵里ちゃんの本音、わたしが書いてあげるの。小さいころからずっと見ているから、分かるわよ。いろんな写真もあるの。だって、光晴くん、撮っていいよって、目で教えてくれていたし。……二人がキスしている写真も撮っちゃった。それ、SNSに上げたら、瞬く間に拡散したの。

 ごめんね、光晴くん。目を覚まして欲しくて。

 あなたの彼女は、わたしでしょう?

 すごく怒られたみたいだけど、おかげで別れられたでしょう? SNSで絵里ちゃんのほんとうの気持ちも分かったはずよ。絵里ちゃんだって、そう。

 二人のケンカを見て、わたしはいいことをしたって思ったのよ。

 わたしは光晴くんを守ったの。


 それからは平穏な日々だった。

 わたしと光晴くんは、相変わらず秘密の関係で、静かに恋を高めあった。

 高校は同じところに行くことにした。

 だって、わたしたちはないしょでつきあっているんだもの。

 高校も同じに決まっている。

「高野さん、志望校、少し難しいと思うわよ」

 わたしたちのことを知らない担任はそう言った。

「あんた、なんで志望校下げないの? 落ちたらどうするのよ! 私立に行かせるお金はないよ! 塾も行かせるお金ないからね」

 母はいつものようにヒステリックに言った。

 この人たちは何も分かっていない、と思った。

 わたしと光晴くんは、赤い糸でつながっているだから。

 光晴くんがわたしに勉強を教えてくれる。

 授業中、ふと振り向いてわたしの方を見る。

 わたしはそれで、どこが大事か分かるのだ。

 光晴くん、わたし、頑張るね!

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