2.小学校

 小学校に入学して、わたしと光晴くんの仲はね、深まっていったんだ。


 一年生のとき、わたし、休み時間にトイレに行くことが出来なくて、授業中におもらししてしまったの。

「うわー! せんせー! 高野さんがおもらししましたあ!」

「げー! 汚ねー!」

「きもっ」

「こら、みんな、やめなさい! 日直! 日直、誰だった?」

 先生がそう言うと、光晴くんが「オレだけど?」と言った。

「川内くん、雑巾持って来てくれる?」

「はぁい」

 そうして光晴くんは雑巾を持って来てくれた。ふてくされた感じなのは、あれは照れていたんだと思う。だって、光晴くんと、目が合ったから。それに、「川内くん、もう一枚持って来て」という先生の言葉に「はぁい」と言いながら、ちゃんと持って来てくれたから。そして、また、目が合ったの。

 光晴くん、やさしい。

 光晴くん、ありがとう。

 わたしは目でそう言った。

 光晴くんも、分かってくれたと思う。


 光晴くんは小学校に入ってもやっぱり人気者で、周りにいっぱい人がいた。先生にも気に入られていて、勉強はちょっと出来なかったけど運動が出来て、そしてとてもかっこよかった。

 わたしはそんな光晴くんと両想いなんだ、と思うと、ものすごく嬉しい気持ちになった。


 あのね、小学校三年生のとき、二人三脚を光晴くんとやったんだよ。

 先生が好きな人とペアを組みなさいって言って、でも出来るだけ背の高さがいっしょの子がいいわよって言ったの。

 みんながどんどんペアを作っていくのを、わたしはじっと見ていたの。

 幼稚園のときからいっしょの絵里ちゃんが、わたしを見てくすくす笑うのが見えた。

 わたしが下を向いてうつむいていると、先生が「誰か、高野さんとペアを組む人はいないか?」と言った。

「えー、だってぇ。あたしたち、もうペアが決まっていますぅ」

 って絵里ちゃんが言って、絵里ちゃんと周りの女の子が笑った。

「二回やればいいんだぞ」

「えー、でもぉ」

「誰か二回やってくれるやつ――川内くん、どう?」

「え? オレ?」

「川内くん、走るの速いし、運動神経いいから、高野さんといっしょにやってあげてよ」

「あー、うん、いいよ」

 絵里ちゃんたちから、「えー、ずるいー」って声が聞えた。でも。

「あー、じゃあ、よろしく」

 光晴くんがそう言って、わたしは勝った、と思った。

「何よ、ゆりかちゃんなんて太っているから、光晴くんと合わないじゃない」

「そうよね。光晴くん、かわいそう」

「ゆりかちゃん、かわいくないしさ」

「ブスだよね」

「ふふふふふ。光晴くんと並ぶとよけいに目立つよね、デブでブスが」

 絵里ちゃんたちがひそひそ言って笑っているけど、わたしは気にしない。

 だって、光晴くんとくっついて走るなんて、すごく嬉しいもの。

 光晴くん、わたしのことが好きなんだよ? ねえ、絵里ちゃん、分かっているでしょ?

 悔しいんだよね?

 たんぽぽ組で赤いクレヨンを貸してくれたときから、わたしと光晴くんは思い合っているんだから。


 六年生の、小学校最後の運動会は最高だった。

 光晴くんは毎年リレーの選手に選ばれていて、六年生も、もちろん選ばれた。

 光晴くんを、目で応援する。わたしは他の子みたいに声は出さない。

 だって、わたしだけが光晴くんの特別だから。

 目で応援すると、いつも光晴くんはわたしを見て笑ってくれる。そのたびにわたしはどきどきした。

 光晴くん、かっこいい。

 わたしの好きなひとなの。

 それから、光晴くんも、わたしのことが好きなの。

 リレー選で駆けて行く光晴くん。

 速い速い!

 三人抜いて、一位でゴールした!

 みんなの歓声を少し遠くで聞きながら、わたしは光晴くんだけをじっと見た。光晴くんもわたしを見て、太陽みたいな笑顔で笑いかけてくれた。

 光晴くん、大好き。

 光晴くんが、わたしのことを好きだっていうのも、分かっているよ。だいじょうぶ。

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