わたしの恋はずっと続く

西しまこ

1.幼稚園

 わたしの初恋は五歳のときだ。

 幼稚園のたんぽぽ組で、光晴くんと出会った。


 光晴くんは元気で、みんなの遊びの中心にいる人気者だったの。走るのも速くて、面白い遊びを考えるのも得意だった。わたしはみんなと同じように光晴くんのことが好きになった。

 そんなわたしが光晴くんの特別になった出来事があったの。

 わたし、ある日、お絵かきのとき、クレヨンの赤がなかったの。ちゃんとお道具箱に入れてあったのに、なくなっていて。わたしの持ち物はそうして、ときどきなくなることがあって、先生にはいつも「ちゃんと忘れないで持って来なさい」って言われていたし、お母さんには「どうしてなくすの! ちゃんと見つけてきなさい!」って言われていたの。でも、わたしじゃないんだよ? いつの間にか、なくなっているの。うわばきも体操服も、それからクレヨンも。

 わたし、どうしても苺のケーキが書きたかったの。でも、赤がなくて。

 絵里ちゃんや陽菜ちゃんがくすくす笑ってわたしを見ていた。わたしが泣きそうになっていると、光晴くんが言ったの。

「あか、かしてあげる。オレ、きょうはあか、つかわないから」って。

 わたし、びっくりしてうまくお礼が言えなかった。でも光晴くんは分かってくれたと思う。だって、びっくりするくらいの素敵な笑顔で「おまえ、え、うまいな」って言ったから。

 わたし、分かったんだ。

 わたしの気持ち、光晴くんが分かってくれたこと。それから、光晴くんもわたしのこと、好きだってこと。


 だってね。

 こんなこともあったんだよ。

「ゆりかちゃんのおべんとうって、ちゃいろいよね!」

「ほんと、ぜんぜん、かわいくない」

 そう言って、絵里ちゃんや陽菜ちゃんがわたしのお弁当を見て笑ったの。

「ねえねえ、かわいくないから、みんなにみせなさいよ」

 絵里ちゃんがわたしのお弁当を持って行こうとしたので、わたしは慌ててお弁当箱をひっぱたの。そうしたら、お弁当の中身が全部こぼれちゃって。

「あーあ、こぼしちゃったー せんせー! ゆりかちゃんがおべんとうぶちまけましたあ!」

「きったなー はやくかたづけなよ」

 わたしがじっとしていると、先生がやってきて「あらあら、大変。いっしょにかたづけようね」と片づけてくれた。

「ゆりかちゃん、お弁当、食べれた?」

「……」

 わたしが黙っていると、光晴くんが「オレ、これあげる」と言って、ブロッコリーをくれた。わたしはお弁当のふたにそれを受け取った。「あ、ありがとう」

 小さい声で言ったときには、光晴くんはもう遊びに行ってしまっていた。わたしは光晴くんのブロッコリーがすごくおいしくて、嬉しくなった。

「ああ、もう! 光晴くんたら! 嫌いだからって人に押し付けて」

 先生はそう言ったけど、違うよって教えてあげたかった。

 光晴くんはね、お弁当落としちゃったわたしを気遣って、ブロッコリーをくれたのよ。だって、光晴くんは、わたしのこと、好きなんだもの。先生って、先生のくせに、それくらい分からないの? って思った。


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