第22話 手を繋いで

 大晦日もあっという間に夕暮れ時。


「ふぅ。今年も終わりやねぇ〜。遼真くんも睦もお疲れさまでした。元旦くらいゆっくり休んで、2日からお店開けようと思うんよ。ふたりともそれまで手伝ってくれる?」


 父さんがいないぶん、母さんもかなり疲れているように見えた。


「うん、私は3日のお昼にはこっちを出ようかと思ってる。ゆっくり居られなくてごめんね、母さん。あんまり無理しないでね」


「あ。俺も3日までお手伝いさせてください。もしよかったらですけど……」


 母さんは、私達を見てにっこりと笑った。


「ほらほら。ふたりともゆっくり休んで、明日は一緒に布塚神社に初詣にでも行ってらっしゃい。デートがすんだら、晩ごはんでも食べに来たらいいよぉ〜」


 私達は思わず顔を見合わせ、無言で母さんの顔をのぞく。


「なぁに、ふたりして鳩が豆鉄砲食らったような顔して。気がつかないとでも思ってたの?私はあなたの母さんよ〜。あなた達を見てれば、すぐにわかったわ。父さんは全く気づかなかったけどね」


 そう言って腰を擦りながら、高らかに笑っている母さん。


「騙すつもりとか全然なくて、俺から話さなくて、本当に申し訳ありませんでした」


 すまなそうに帽子を脱いで頭を下げる遼真。私は、まさかの母さんの言葉に返す言葉が見つからなかった。


「そんなの気にしないでいいわよ。でも間違いないってわかったのはね〜クラゲよ!すました顔して、遼真くんの膝の上で眠るんだもの。あのビビリのクラゲが、初対面の人にあんな態度とらないわよ〜」


 3人でお店を片付けシャッターをおろしていると、だいぶ痛みも楽になったのか父さんがお迎えに来てくれていた。


「おぅ、ふたりとも本当にありがとな。なんかあれだ。たまにはふたりで過ごしてこい。賑やかな正月になりそうだな。遼真、明日は飲むぞ」


「は、はいっ」


 な、なんだよこの感じ。いい感じに親とも顔合わせしちゃったみたいになっちゃったじゃん。遼真、本心は焦ってるだろうなー。


 家に帰宅すると、母さんが私にくっついてきて、耳元でささやいた。


「実はさっきね。佐々木さんが早速お見合い写真持ってきたのよ。ふふっ。私、その場で突き返してやったわよ。間に合ってますってね」


「いやいや母さん。まだ遼真さんとは付き合い始めたばかりでさ。結婚とかそういうのじゃなくて……」


「ま、いいじゃない。ゆっくり楽しみなさいよ。睦にもそういう頼れる人がいるってだけでも、母さん達嬉しいのよ。それに、遼真くん可愛い顔してるじゃないの」


 両親がこうして八百屋を続けていることが当たり前のように感じていたけれど、久しぶりに見た両親の背中はやけに小さく見えた。


 その後、私達は両親のお言葉に甘えて、実家にクラゲを預け、久しぶりにデートに出かけることになった。車に乗り込み、ふたりきりになると、遼真が突然私を抱きしめる。夜とはいえ、私は誰にも見られていないかドキドキして、車窓から外をうかがった。そんな私をよそに、遼真は目をキラキラ輝かせている。


「睦〜なんか、めっちゃ俺達いい感じなんじゃないの?違う?ヤバいんだけど。俺、今めっちゃ幸せ」


 少し興奮気味に話す遼真がとても可愛らしく思えた。


「実は俺ね。父ちゃんの顔知らなくて、母ちゃんも病弱で、俺が小学生の時に亡くなったからさ。ほとんどばあちゃんと過ごした記憶ばかりなんだ。そりゃそれなりに楽しかったけど、なんか家族ってのに憧れててさ」


「そっか。私もなんかうちの家族の中に、遼真がいるの自然すぎて不思議だった。すっかり私達のことバレてたね。私も幸せすぎてこわいくらい」


 それから私達は町にあるファミレスで食事を楽しみ、デザートやアルコールを買い込み、町はずれのラブホテルにお泊りすることにした。


 せっかくの大晦日にラブホテル?って思われちゃうかもしれないけど、ふたりで一緒に過ごせればそれでよかった。実家だと、さすがにキスもできないんだもん。


 シャワーを浴びた後、一緒にコメディ映画を見てたけど、疲れがたまってたのか、遼真は私の膝枕ですぐに眠ってしまった。柔らかい髪を撫でながら、彼への愛しさがこみあげてくる。


「遼真、ありがとう。大好き」


 口から溢れでる気持ちを抑えられない。すると、突然遼真に引き寄せられた。


「どういたしまして。睦、もっとそばにきて」


 私達は、夢のように甘い時間を過ごしながら新年を迎えていた。

 

 新年の朝、お天気は快晴。周りの田畑には真っ白い霜が降りていた。実家から一番近い布塚神社に初詣に行くことに決定。遼真の左手のぬくもりを感じながら、鳥居をくぐり、お参りをすませる。願いごとは……ひみつ。その隣で、遼真は、モゴモゴといつまでもお参りを続けている。


「遼真、そんなにいくつも神様に頼まないの〜」


 笑いながら、彼の手を引っ張る。


「いやだってさ。大事な人が増えるほど、お願いごと増えちゃうんだもん。もっかい並ぶ?」


「ほら。スイーツでも買って、実家に突撃するよ〜。父さんお酒強いから、遼真潰されないようにね」


 お正月はお休みしてるお店もあり、3軒目でようやく開いているケーキ屋さんを発見!ショートケーキを買って、実家に到着。両親は笑顔で私達を迎えてくれた。


「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」


 父さんの挨拶から始まる、いつもの正月。早々から父さんは上機嫌で、遼真に地酒のウンチクを話しながら、ガンガンお酒をすすめてゆく。や、ヤバい。凄いペースで出来あがっていく男性陣を横目に、私は久しぶりの母さんの料理を胸いっぱい味わうのだった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る