第10話 狡猾なハイエナ
あんなに嬉しそうなマリーの顔久々に見たなぁ。それに、睦ちゃんも楽しそうで、本当に良かった。これが俺のやりたかった、レンタル彼氏の醍醐味だ!女性の笑顔を俺は守るのだ、なんてね〜。
俺の所属するレンタル彼氏の組織名は「リーベ」。レオン先輩が社長として始めた会社である。現在登録しているレンタル彼氏は、7人くらいだったかな。あまりみんなで集まることもないので詳しくは知らないけどね。
どうしてレオン先輩を社長って呼ばないのか!って理由は、俺はそんなにジジイじゃねんだよってことらしいです。未だによくわからない人だ。
そんなレオン先輩に最初に声をかけられた時のことは鮮明に覚えている。俺は、居酒屋でバイトをしており、お客様として来ていたのがレオン先輩だった。
「お客様、ご注文おきまりですか?」
俺は、お客さんの注文をとりに、テーブルについた。一瞬息を呑むほど、綺麗な顔だち、色気漂うってのは、こんな男性を言うのだろうと思った。
「ねぇ君。女の子の笑顔を俺と一緒に守らない?」
な、なに言ってんだこの人!って思ったけど、めっちゃ真剣な顔してるし。恐ろしくかっこえーし。最初はホストの勧誘かと思ったけれど、詳しく話を聞いていくうちに興味をもち、このレンタル彼氏の世界に飛び込んだのだ。
最初のうちは、ルールもなかなかうまく飲みこめず、お客様との距離感がうまくとれなかった。話しも下手だし、お客様を笑顔にすることなんてできるのか不安ばかりの日々が続いた。
今でもまだまだ修行あるのみ。俺としては、「レンタル彼氏」として、みんなの日常に潤いと笑顔を与えられたらって思ってる。
しかし、そんな「レンタル彼氏」業界で、最近問題になっていることがあるようだ。レンタル彼氏組織の社長達は、お互いの情報共有を行っているらしいのだが、そこで問題になっているのは、ハイエナと呼ばれる奴らの存在だった。
「レンタル彼氏」と名乗り商売をしているのだが、売春防止法も組織のルールも無視して、肉体関係の代償として、個人的にお金を受け取って収入を得ているヤツがいるらしいのだ。数人の名前があがっているが、直接の証拠がつかめず、組織自体も手をやいているらしい。
その日、マリーの誕生日から2週間程たち、たまに遊びに来てくれる睦ちゃんは、俺はもちろん、レオン先輩ともすっかり仲良くなっていた。リビングでウイスキーを片手に、数枚の写真を眺めながら、レオン先輩は今日も盛大にため息をついている。
「どうしたんすか先輩。今日はやたらと大きなため息じゃないっすか」
俺は、ちょうど週末ということもあり、遊びに来ていた睦ちゃんと一緒にリビングでトランプをしてしていたとこだった。
「ふたりでババ抜きしても面白くないから、先輩も入ってくださいよ~」
「おまえらどんだけ暇人なんだよ。でも睦ちゃんは楽しそうだぞ」
オレンジジュースを飲みながら、睦ちゃんはご機嫌で、ニヤニヤが止まらないご様子。
「だって、リョウくん顔に出やすいから、ずっと私のひとり勝ちなんです。もっかいやろ?」
そう、俺は子供の頃からババ抜きが異常に弱いのだ!ま、それで睦ちゃんが喜んでるからそれでいっか。よーし、次こそは。
その時、先輩が手にしていた写真の1枚が、誘われるかのように、睦ちゃんの手元にヒラリと落ちた。
すると、さっきまでにこにこの天使ちゃんだった睦ちゃんの顔が、みるみる青ざめていく。手にしているのは、ハイエナのうちの一人の写真だった。
「どうしたの睦ちゃん?」
「ごめん。ちょっと気分悪くなっちゃって」
あきらかに何かあると察した俺は、睦ちゃんをつれて俺の部屋でゆっくりすることにした。部屋にはいり、睦ちゃんに話を聞いて俺は驚いた。
さっきのハイエナの写真は、睦ちゃんの知っている「橋本先輩」というヤツらしい。その後、少しためらいながらも、涙目になりながら、高校時代にゲームと称して、睦ちゃんの青春のすべてを汚した最低な男だということも話してくれた。
ヤツの本名は、橋本
大人になった今でも女を食いものにするような商売をしていることが許せないと睦ちゃんは、珍しく強い口調で罵った。彼女のネガティブ思考の根源に、アイツとの記憶があるのなら、友達として俺も黙っちゃいられない。かといって、何をすべきか悩ましいところだ。
睦ちゃんから了承を得て、俺はことの全てをレオン先輩にも話してみることにした。
「なんだこいつ、昔からやばいやつだな。でも、難しいことになかなか尻尾をださないんだとさ。向こうの社長も、ほとほと手をやいてるみたいなんだ」
その時、睦ちゃんが凛とした顔つきでレオン先輩に近づき、アイツの写真をグシャりと握り潰した。
「レオンさん。アイツの性格からすると、多分私って、いいカモだと思うんですよ。なので、私がおとりになって、アイツの悪事を録音し、リョウくん達にやっつけてもらうってのはどうですか?」
「睦ちゃんがおとりになるなんて、危なすぎるよ!それに顔も見たくない男でしょ」
俺は、熱くなる睦ちゃんを抑えようと必死になった。しかし、睦ちゃんにこたえるように、レオン先輩は目を見開き、悪い顔をしてニヤリと笑った。
「なるほど。それがうまくいけば、橋本ってやつをこのレンタル彼氏の業界から追放できるかもしれないな」
睦ちゃんの横顔に、ひとつの迷いすらなかった。
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今回は、第10話を読んでいただきありがとうございます。
どぉーしても、睦ちゃんの無念を晴らしたくてアイツを、引っ張りだしました!
見てろよ〜。
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