第6話 癒やしの友

 リョウくんは待ってましたとばかりに満面の笑顔を浮かべ、レンタル彼氏について話しだした。


 読んで字のごとく、レンタル料を払って、リョウくんを彼氏として、一定の時間を過ごす訳なんだけど、いくつかの契約条件があるらしい。

①お互い恋愛感情をもたない

②お互いキス以上を求めない

③お互い契約上のつきあいであることを認識すること

以上のいずれかを遵守できない場合は、契約違反とし、契約解除となるらしい。


「あ!こないだ、かおりんさんと話してたのはこのことなのね」


 思わず大きな声を出してしまい、周りの人達の視線をあびてしまった。申し訳なさそうな私を見て、リョウくんはケタケタと笑っている。


「そうそう。俺も先輩に誘われて始めたんだけど、なかなか肌にあってるみたいでさ。ほら、イケメンをムダにしても良くないしね〜なんて」


 いやいや、リョウくんが口にすると冗談に聞こえないし。それに、誘った先輩も絶対イケメンってことだよね。


「それで、リョウくんは、私にもレンタル彼氏いかがですか?って声をかけたってことだよね」


 すると、リョウくんは食い気味に否定してきた。


「んなわけないじゃん!俺にとっては大切な天使ちゃんだよ!純粋に会って、話したかっただけ。それに、俺が睦ちゃんにレンタルされちゃったら……それは困るかな」


 私の気持ちを知ってか知らずか、純粋な子供みたいな目で私を見てくるリョウくん。


「ところでさ、睦ちゃんは今彼氏いないの?」


 つい先日も同じ質問をされたような……。その言葉に、光樹のことが頭をよぎり、あからさまに目が泳ぐ私。いや、告白はされたけど、私達別に付き合ってないし。ここは、落ち着いてコーヒーをひとくち。


「アチッ」


 慌ててる私のこと見て、リョウくんは何かを察したようだった。


「俺はこの仕事してる以上、先輩には彼女つくるのはヤメとけって言われてる。仕事柄うまくいかないぞ〜って」


 確かに、こないだのかおりんさんとの距離感を見てたら、絶対嫉妬に狂うと思う。耐えれる自信ないかも。


「今、仕事で契約してる女性は5人いてさ。いろんなタイプのお客様がいるからね。こないだのかおりさんみたいに素直なタイプはまだ良いけど。契約ギリギリラインまで攻めてくる人もいるし。うまくかわしてはいるけど、なかなか難しい人もね」


 そう言うと、大きなため息をついた。困った子犬みたいに頭を抱え込み、しばらく固まっている。1分程たっただろうか、何かを思いついたようにニッコリと笑顔になり、いきなり私の手を掴んだ。


「ねぇ、睦ちゃん。俺のお願いきいてくれる?俺にも安らぐ癒やしの場所が欲しいんだ。だから……俺の友達になってくれない?」


「え、友達?友達なら他にもいるんじゃないの?」


「うーん。男友達は数人いるけど、癒やしちゃくれないし。女友達ははすぐ俺に惚れちゃうんだよね。嫉妬して喧嘩になって。だから、俺の全部を理解してくれる女友達が欲しいんだ。どうかな?」


 ん?コレって完全に女として見てないってことだよね。こんなイケメンと別に期待なんかしてないけどさ。こんなに早く砕けちゃうなんて。ま、恋に落ちるまえでよかったか。断る理由もないし。イケメンの友達なんて、なんか楽しそうじゃん。


「わかった。これからは疲れたリョウくんを友達として癒してあげるよ」


「本当にいいの?よし!んじゃ、俺んちで続きを話そう。よし行こう」


「えっ?俺んちって自宅ってこと?それはちょっと良くないんじゃない?」


 私は顔が真っ赤になってしまった。いらぬ想像をしてしまったことがバレバレである。


「かわいいなぁ睦ちゃん。大丈夫だよ!俺んちは、先輩とシェアで住んでるから、オオカミさんにはなりません。それに、預かってるメガネを返さないとね」


 テーブルの冷めてしまったコーヒーをふたりで飲み干し、リョウくんの家に向かった。


 まだリョウくんのことは何も知らないけど、一緒にいると楽しくて仕方なかった。つまらない毎日から連れ出してくれる、そんなドキドキが私を突き動かしていたのだ。平穏を愛する私にもまだこんな気持ちが残っていたのかと、嬉しい気持ちになった。


 カフェから15分程歩いたところで、オシャレなマンションに到着。


「まだ部屋真っ暗だし、先輩帰ってないみたいだ。行こう」


 誰かと手を繋ぐなんて、何年ぶりだろう。子供みたいにはしゃぐリョウくんが可愛くて仕方なかった。


 部屋に到着すると、モダンでシンプルな家具が並ぶオシャレな部屋だった。2LDKの2部屋をリョウくんと先輩で別々に使って、シェアしているらしい。ここにきて突然緊張が走る。ヤバい、ここ男の人の部屋だ!


「はいはい。もう緊張しないの睦ちゃん。コーラでもいい?」


 さすが女の子の扱いに慣れてらっしゃる。小奇麗に整理された部屋は、ほのかにいい香りが漂っている。女子力たかっ!あ、この加湿器いいなって思ってたやつだ。部屋の小物や電化製品だけで、しばらく話はつきなかった。


「あ、そうだ。今度ね、月曜日の彼女のマリーさんに誕生日プレゼントを買いたいんだけど、買い物とかつきあってくれない?」


「あ〜確かに、そういうのならお役にたてるかもね。何歳くらいの人なの?かおりんさんみたいなピッチピチの女の子?」


「ふふ。マリーさんはねぇ……」


 その時ガチャりと玄関の扉が閉まる音がした。


「あ、先輩帰ってきたみたいだ。いちよ紹介するね」


 ふたりで挨拶しに行こうと立ち上がった時、リビングから声がきこえる。服が擦れる音と、女性の色っぽい吐息。


「ん〜もぅここじゃだめだってば。またリョウに怒られるよ。今してきたばっかりじゃん。じゃあ私、ここで帰るからね。あんまり遅くなると旦那に怒られちゃうから」


 私は思わずゴクリと生唾を飲み込む。この扉の先で行われていることを想像してしまい、体が熱くなるのを感じた。



────────────────────


今回は第6話を読んでいただき、本当にありがとうございます。


師走にはいり、仕事もぼちぼち忙しくなりますが、できる限り更新していきたいと思います。


また読んであげてもいいよ!と思われた方は♡なんかいただけると、とっても励みになりますので、宜しくお願いいたします。

 

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