第7話 酔いどれレオン

 リョウくんは深いため息とともに、勢い良くリビングへの扉をあける。そこには、スーツ姿の長身の男性と、背中まであるロングヘアーのワンピース姿の女性が重なるように佇んでいた。


「リョウ、ごめんね。また、レオン飲みすぎちゃってさ〜。私もぅ帰らなきゃいけないから、後頼むね」


「まだ行くなよあや


「先輩、飲みすぎっす。部屋行きますよ〜」


 こりゃ挨拶はまた今度って感じだな。それにしても、あんな美男美女が絡まってると、絵になるな。思わず見とれちゃった。女の人は、旦那に怒られる。とか言ってたってことは、訳ありですな。


 女性は、男性を部屋に残し振り返ることなく部屋をあとにした。力なく壁際に座り込んだ男性を部屋に運ぼうとリョウくんは準備をしている。


「私も手伝おうか」


 そう言ってその男性の近くに駆け寄る。ワインかな。アルコールの強い匂いが漂っている。彫りの深い顔立ちに、黒髪のあいだから覗く憂いのある瞳。見惚れてしまったその瞬間。


 突然私はその男性に腕を掴まれ、抱き寄せられた。キスされそうになり、慌てて掴まれた腕を振りほどき、リョウくんの背中に隠れた。


「もう本当に酒がはいると見境ないんだから。ごめんね、睦ちゃん。俺の部屋に入ってて」


 それから10分程してから、リョウくんは部屋に戻ってきた。


「睦ちゃん怖くなかった?さっきは先輩が本当にごめんなさい。酒はいるといつもあんなになっちゃってさ。悪い人じゃないんだけど。今度酒が抜けてるときに、改めて紹介するね」


「びっくりした。でもすっごく綺麗な人だね。モデルさんみたい」


「あの先輩が、俺をレンタル彼氏の世界に誘ってくれた、東野ひがしの玲音れおんさん。みんなにはレオンって呼ばれてる」


「さっき一緒にいた女性は?」


「あ〜彩さんね。特に彼女でも、お客様でもないよ。よく先輩の部屋には遊びに来てるけどね」


 その時、スマホに光樹からメールの着信。


─睦。まだ起きてる?声聞きたくなった。


 何気に時間はもうすぐ23時になろうとしていた。あまりにも居心地がよくて時間を忘れてお邪魔してしまっていた。


「リョウくん、私、今日はもう帰ろうかな。あんまり遅くまでいても迷惑かけるし」


「迷惑じゃないし、本当はもっと話してたいけど、夜道はレディには危険ですからね。睦ちゃん、明日とか時間空いてないよね?さっき話してたお客さんの誕プレ買いに行きたいんだ〜。もしよければなんだけど」


「うん、いいよ。私なんかでよかったら」


「よかった。めっちゃ助かるわ〜。女子の意見欲しいので」


 その後、明日の朝10時にカフェの駐車場で待ち合わせをして、マンションを出たのだった。


 リョウくんと過ごした楽しい時間と、突然のレオンさんの出現を思い出し、ふいににやけては車を運転する私。他人からみたらかなり危ない女である。


 アパートに到着すると、光樹からの新着のメールがきていた。さっき返信してなかったことを思い出し慌てていると、アパートの入り口に怪しい人影。思わず身構えながら近づいていくと、そこにはいたのは光樹だった。


「こんな遅くまで、どこ行ってたの?」


 顔つきは穏やかではないご様子。まるで保護者みたいな言い方するし。でも、ビシッとしたスーツ姿にキャリーバックを持ってるってことは、出張の帰りにすぐココに来てくれたのかと思うと嬉しかった。


「俺、今かっこ悪いよな」


「ん?どうしたのよ、らしくない。こないだから変だよ」


「ずっと我慢してた気持ち伝えた途端、俺の心ん中、睦のことだけになっちゃって。なんか壊れちゃったのか俺」


 うつむいて困った顔しててもイケメンなんだから。困ったもんだよ。でも、そんなに私なんかのこと想ってくれるなんて。


「ねぇ、光樹。どおして私なの?光樹なら、もっとすごくかわいい女の子が振り向いてくれるじゃん。あの元カノだってさ、受付嬢だよ。こんな代わり映えのしない私を相手しなくてもさ」


 そう言って話す私の顔を、光樹は不思議そうな顔でみている。おい!ちゃんと聞いてるのか〜。


「なんかとっても難しいこと聞かれてるみたいな気がしたけど、答えはひとつじゃない。俺が、睦を好きになったから」


 何だ、この自信に満ちた答えは!思わぬ答えに、私は頬が熱くなった。


「まさか俺が勢いだけで気持ちを伝えたとか思ってない?俺なりに悩んだよ。彼女もいたからね。でも、このまま何も伝えずにあきらめたら、ずっと後悔するんじゃないかって思った。受付のかなちゃんともズルズル付き合うのは悪いと思ったし」


「光樹。私ね、仕事仲間として、人間として、光樹のこと尊敬してるし大好きだよ。でも彼氏とか男性として意識して見てなかったから。もう少し考える時間をいただけますか?」


 すると、光樹は私に一歩近づき、頭にそっとキスをした。ちょっとせつなそうな表情とか、ズルいんですけど。


「俺も男なんで。あんまり我慢できなかったらごめん。そんな無防備な顔見せんなよ。あ、それと今度デートな」


 そう言って光樹は、お土産の紙袋を私に渡して帰っていった。中には私の好きそうなお菓子と一緒に、猫のぬいぐるみがひとつ。本当に抜かりない男だわ。


 きっと光樹の手を繋げば、甘くて幸せな未来が口を開けて待っている予感はする。でも怖くてしかたないのだ。もしもそれが壊れたら、嘘だったら。いつもそうやって彼氏をつくるのを躊躇して、ここまできた結果がこれだ。気がついたら誰もいない。そんなわたしのネガティブ思考が完成されたのは、ある高校時代のできごとがきっかけだった。


―――――――――――――――――――――――――


今回は7話目を読んで頂きありがとうございます。


力不足の為、気がついた箇所については文章を変更していることがございます。

ご了承ください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る