第4話 経験

 その後も僕は何度もただの風に怯えたりしながらアレックスの後ろを警戒しつつ、ついて行った


 ガサガサッ...


 左にある茂みが揺れ、それにアレックスは反応した。


「スミス、何かいるぞ!気をつけろ!」


「なになに!?どんな奴!?」


「分からん!とにかく警戒だ。スミス、俺の隣に来て罠をしかけろ!」


「う、うん!」


 僕は事前に話し合っていた通り、アレックスの後ろから真横へ急いで移動し、固有魔法である『罠』で射程距離ギリギリの3m前方に罠を設置する。


「出来たよ!打ち合わせ通り魔力半分使って罠3つ作ったよ!」


「分かった!じゃあここで迎え撃つからな!」


 でも事前に決めていたのはここまで。それからはどう敵が動くか、どんな奴が現れるか分からなかったから決めようがなかったのだ。


 ...緊張する。どんな奴が来るんだろ?街道を外れていないから絶対勝てないような強い魔獣が出てくるなんてことは無いだろうけど、不安だ。


「スミス、大丈夫だ。俺は何回も父さんの狩りについて行っている。落ち着け」


「ご、ごめん。...来た!」


 ついに様子見を続けていた敵が茂みから飛び出し姿を見せた。


「スミス、魔獣の方だ!ホーンラビット!」


「分かってる!角には気をつけるよ!」


 ホーンラビットはうさぎに角が生えていて、小さな魔石が首にくっついている魔獣だ。

 アレックスが言うには昔狩人になりたての若い男がその可愛い見た目に騙され油断したところをその鋭くドリル状になった角に腹部を刺され亡くなったらしい。


「アレックス!僕のタイミングで罠を発動させるから気をつけてね!当たらないでよ!」


「へっ!誰がそんなヘマするかよ!行くぜ俺の最強魔法!こい、スパーダ!」


 アレックスの固有魔法『剣』は自在に何本でも、どんな形の剣でも創り出すことが出来る使い勝手のいい魔法だ。 ...無限に魔力があれば、だが。

 そもそも魔法を使うにはダンジョンコア内の魔力を使用しなければならないが別にコアといえども無限に魔力をため込める訳でもないし即座に回復できる訳でもない。

 コアの格が上がれば内蔵魔力も魔力回復速度も上昇していくがスミスたちが持っているコアでは3つも罠を設置し持続して展開しているだけでも相当な魔力を消費して言ってしまうのだ。


 そしてアレックスが創り出したのは黄色に淡く光る大剣だった。魔力で創り出した為、重量は自在に増減できるそうで今は軽くしているのかあまり重そうには持っておらず、初の魔法を使用した実戦だからかニヤニヤしながら肩に担いでいる。


「タイミングには注意しろよスミス!」


「分かってる!集中してるから静かにしててアレックス!」


 ホーンラビットがまっすぐ僕たちに目掛け角を突き出しながら走ってくる。

 速さは魔獣が弱いことと、それに小さいことも相まってそれほどでもないがギラギラと殺意に満ちたした目が僕の頭を真っ白にしてくる。


「...まだ、まだだ。...今ッ!『罠』起動ッ!」


 ガチンッ!!!


 導火線上状に繋がっている魔力の線に僕の魔力を一気に流し込む。導火線の中を通った魔力は一瞬の時間で罠本体へと届き罠魔法の威力を存分に見せつけた。

 ...トラバサミにホーンラビットがかかっただけだけど。



「かかったッ!アレックスやって!!」


「おう!ハアァァッ!!」


 アレックスが持つ大剣は大上段に構えられ、トラバサミにホーンラビットが掛かった時には既にホーンラビットの目の前にまで踏み込んでおり勢いよく振り下ろされた大剣は狙いを違えること無く正確に首と胴体を切り離した。

 切り離された胴体からは勢いよく鮮血が吹き出し、地面を赤く染めていき、それと同時に首からは生命の灯りが消えていった。


「やったぞスミス!今日の晩飯は肉にありつけるぞ!」


「アレックスの魔法も凄かったよ!かっこよかった!今日の晩御飯なににしようかなぁ。何が食べたい?」


 そんな会話を繰り広げながらもアレックスはテキパキとホーンラビットの魔石を取り出したり首からお腹辺りまでナイフで切って血抜きをしたりしてくれている。

 流石は狩人の息子だなぁ。なんて他人事のように思っているけど僕も行く行くはアレックスみたいに1人で解体できるようにならないとだよね...。


「アレックス、なにか手伝えることない?」


「お、手伝ってくれるのか?じゃあここを抑えてくれ」


 ウッ、ちょっとグロデスクだなぁ、と思いながら初めての狩り兼解体をした。

 多分この日のうさぎの顔は一生忘れられないだろうなぁ。と思いながら。


「スミスゥ〜!どこに行くんだァ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日の夜。

 色々な事があって足が棒のようになってしまった僕の夕飯は昼頃に僕が初めて命を奪ったホーンラビットで作ったシチュー、だった。


「スミス、お疲れさん。食いづらいだろうけど流し込んどけよ。吐いたら知らん。自分で処理しとけよ」


「う、うん。分かってる吐いたら失礼だもんね」


 旅に出て初めての夕食は何故か味がしなかったよ。

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