第2話 別れ

「ファ〜ァ、そっか今日でこの村ともお別れなんだなぁ」


 そう思うとまだ旅立ちには少し時間があるというのに身近な、それこそ自身のベッドや椅子などでさえ別れが名残惜しくて、何より父さんや母さんとの別れが辛くて涙が出てきそうになる。


「いやいや何感傷に浸ってるんだ?僕、もう冒険に出るって決めたじゃないか!」


 パンパンッ!


 そうして僕の緩みかけた決意を頬っぺを叩く事で締め直し、母が作ってくれた朝ごはんを食べに向かうのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ご馳走様、美味しかったよ...」


「ちょっと待て」


 そう言って席から立ち上がろうとした僕は父さんに呼び止められた。


「元気出せよ。お前、冒険にずっと憧れてたんだろ?今日はやっとお前の夢が叶う日じゃねぇか。そんな湿気たツラでいいのか?」


「...ううん、良くない!そうだよね。こんなんじゃダメだよね、ごめん!」


「よし!それでいい。あと、お前に渡すものがある。付いてきてくれるか?」


 そう言って歩き出した父さんに僕は何をくれるのか少しワクワクしながらついて行った。


「ここだ」


 そう言って着いたのは家の横に建っていた倉庫。


 僕も昔よく倉庫の中でかくれんぼしたなぁ。なんて考えながら父さんが入っていったのを見て、僕も一緒に入っていった。


 そして、薄暗い倉庫の中を歩いていって着いた場所は、何も無い壁の前だった。


 えっ!?


「父さん、ここ、何も無いよ?」


「ここでいいんだ、ちょっと待ってろ」


 そう言いながら父さんはおもむろにしゃがみ込み床にある小さな窪みに手を入れた。


 ゴリゴリゴリッ


 重そうな音を立てて床が持ち上がっていき中から大きな階段がッ!!

 ある訳もなく出てきたのは父さんでもギリギリ入れそうな収納だった。


「なんだ?隠し通路とか出てくると思ったんだろ?んなもん貧乏農家のうちにゃ作れねぇよ」


「この流れだったら出てきてもおかしくないでしょ〜!僕のワクワク返してよぉ」


「ワクワクならやる!ほれ、お前冒険に出るって前から言ってたからな。その時の為に母さんと貯金頑張って貯めてたんだよ。それとこれ、これもお前にやる」


 そう言って渡されたのはしっかり皮の鞘に収められたショートソードだった。


「持ってみろ」


「い、いいの!?ありがとう!...ウグッ!重たい」


「当たり前だ!それ1本で生物の命を奪えるんだからな!それ相応の重さはある」


 ショートソードとはいえ2~3キロ程ある。それをまだ14歳で体も出来上がっていない僕にくれると言うのだ。

 いやいや、そんな物を持ち上げて振り回すのって無理なんじゃない!?


「これ、使いこなせる日は来るのかな...」


「当たり前だ、お前はここから筋力もついてくるだろう。むしろこれくらい軽々と振り回してくれなきゃ困る。あぁ、ちなみに、金の方は13000バーツある。これで人工疑核買ったり旅に必要なもんを買え」


 そんなに!?だって、え?僕たち農民が稼げて貯金できる額って毎年1500バーツとかその辺だよね?なのにこんなに貰えるなんて...

 一体いつから僕のために貯金してくれていたんだろう??


 そうは思うものの驚きと感動で口は動かずパクパクと開いたりとじたりするだけの僕の口。数秒待ちやっと出来てきたのは、


「あ、ありがとう」


それだけだった。

 ただ、その言葉を口にすると少し涙が出て、僕は父さんに抱きついてしまった。


「あぁ、いいさ。この時のため、お前にこいつをやるために必死に母さんと相談して貯金してきたんだからな。さ、早く行け!疑核を誰かに買われるかもしれんぞ!」


 そう言って父さんは僕を押して倉庫から出るよう促した。


 倉庫の外から見た父さんの頬には、気のせいか少し光るものがあった気がした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おっちゃん!さっきの奴、取っといてくれた!?」


「あったり前だろ?お前らの為に売らずに残しておいたさ。で、どうだった?駄賃しっかり貰えたのか?」


「うん!あと、旅に必要なものを買え〜、ってちょっと余計に貰えた!」


 そう言って僕はさっき貰った皮袋の中身をおっちゃんに見せる。


「おいおいおい!ここはいいが街に着いたらそんな迂闊な事すんなよ?強欲商人に全部奪われちまうぜ?そうで無くてもそこら辺の悪党に奪われちまう」


「へ、へ〜。都会って怖いんだね」


 そんな会話をしながら必要な物を集めていく。

 テントに寝袋、大きめのリュックサックに人工疑核製ランタン、は普通のランタンより高いんだよねぇ...イヤ、今後の投資に買っとこ!...っとまあこんなもの、かな?


「おい坊主、旅に虫除けは必須だぜ?なんせ有毒な害虫もよってきちまうからなぁ。...これがオススメだ」


 そう言っておっちゃんがゴソゴソと荷馬車の奥から取り出してきた小さな木箱も追加して、っと。


「おっちゃん、会計お願い!」


「おう、計13500バーツだ」


 えっ...500バーツ足りない。どどど、どうしよう!?


 支払額に対して持っているお金が足りない事に僕はパニックになってしまい頭が真っ白になってしまった。


 そんな様子を見て行商人のおっちゃんはすごく困った顔をしてからある一点を見て言った。


「坊主、この人工疑核製のランタンなんだが普通のオイル式ランタンにして一緒にオイルも買えば少し安くなるぞ?計11500バーツだが、どうする?」


 ほ、ほんとに!?

 この時ばかりは行商人のおっちゃんが光り輝いて見えたね。...頭頂部の話ではないよ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る