真なるダンジョンマスターを目指して
まよい猫
第1話 始まり
皆、ダンジョンとはどう言ったものを想像するだろうか?未知?それとも計り知れない財宝?周りからの賞賛、栄光?
いや、違う。この世界においてダンジョンとは特級ダンジョンのコア、すなわち『特級真核』と呼ばれる究極の力を獲得する為に潜るものだった。
...何でそんなもの欲しがるのかって?そんなの決まっているじゃないか。地球でも各国がこぞって核爆弾を持ってるぞ、って積極的にアピールして戦争を避けているだろう?それと同じだ。
この世界でも各国が『真核』と呼ばれる絶大な力を欲しがっているのさ。
ま、未知と強さ、そして何より冒険に魅入られてしまった『冒険者』、なんて言う変わった存在もいるんだが。
今回はそんな変わり種に注目していく。
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「おはようッ!」
『僕』はそんな掛け声と一緒に『友達』へと駆け出した。
「おうスミス、おはようさん。どうしたんだ?俺ん所来たって事は今日はまた冒険にでも行きたくなったのか?」
そう僕に返してきたのは家のそばにある畑で作った芋の収穫を手伝っていた僕の友達、アレックスだ。
何時もは村の友人達と剣術の練習をしていたりするんだけど、今日は親が狩りに行くとかで一緒に遊んでいた所を渋々親に引きづられて連れ帰られていた。
なので今回は狩りに参加していないらしいアレックスと村の柵の外にちょっとだけ出る『冒険ごっこ』をしようと思ってきたんだ
まぁアレックスの親も狩人だからたまたま今回は行かなかっただけで、偶に親と一緒に森の中へ入って行って肉を捕ってくるんだけど。
そんな僕の両親は普通の農家だから、いつも狩りなんて言う『冒険』をしているアレックスに少し憧れてる。...本人には絶対に内緒だけどね。
「でもよ、スミス。今日って確か月に一回の行商人が来る日だろ?俺と森の中に入っていていいのかよ。お前、毎月行商人が来る度に目ぇ輝かせてたじゃねえか」
「ハッ!そうだった、忘れていたよ!ごめん、やっぱり冒険はまた今度でいい?今日は行商人のところに行って来るよ!」
「おう、行ってこい!...っても俺も行商人が来たらこいつに書かれたやつを買って来いって親に言われてんだけどな」
そう言って一枚の聞いたに書かれた買い物リストを見せてくる。
そこには石鹸やここでは手に入りにくい塩や日持ちする食品等の食材関係、狩りに使う鉄の部品等が書かれていた。
「やっぱりこの時期になると買わなきゃ行けない物が増えてくるよね」
「そうなんだよやっぱこれから暖かくなってくだろ?色々入り用みたいでな」
そう、今は冬の終わり際。しんしんと降っていた雪が溶け始めて段々と暖かくなってくると、ああ、春だぁ、って思う。
ただ、春になると言うことは新しく作物を植えなければいけないし、危険な動物たちも冬眠から目覚め始めるから狩人なら弓や矢など狩の道具を念入りに点検したり、僕の家みたいな農家であればどれを種にしてどれを食料にするかを選別しなきゃならない。
そんなこんなで毎年どこの家もバタバタと活発に動いているんだ。
そういえば、うちの地域では紅葉?とかいうものは無いんだけどどっかの地方ではそういうものがあるらしいね。人生で一回は行ってみたいな。
「オ〜イッ!行商人が来たぞッ!」
「おッ、ついに来たか!一緒に行こうぜ。そういえばお前ん家はどんなの買うんだ?」
「ん?あぁ、大体去年と同じだよ?農業で使う桑とかの先っちょとか。今年も狩りに使うような弓とか矢とかは買ってくれないってさ」
「そうかぁ、まあしょうがない。俺今年弓かって貰えることになったからさ。たまには貸してやるよ!」
「ええっ、いいの!?ありがとう!」
「特別だぜ?んな事より早く買いに行こうぜ?他の奴に全部買われちまう前にさ!」
「あっ、待ってよ〜」
そう言って僕たちは競い合うように行商人の元へと走り出した。
だが流石狩人の息子と言うべきか僕との差は開くばかりで一向にアレックスとの差は縮まず20m程引き離されてゴール、つまり行商人の元へとたどり着いたのであった。
「もう、早いよアレックス、ちょっとくらい待ってくれてもいいのに。...まあいいや。こんにちは、おっちゃんッ!今日は何を持ってきたの!?」
「よう、坊主共。何、いつもと大して変わらんよ。この村で春を迎えるために必要な物資さ。...ま、今回は変わり種もあるがね」
...変わり種!?
そう聞いた僕とアレックスは集まり始めていた村の住人達を掻き分け、おっちゃんの言っていた変わり種とやらを探し始めた。
だが、いくら探しても探してもその変わり種なんて言う存在は見つけられず、ついに痺れを切らした僕は行商人に聞いてしまった。
「ん?なんだスミス、お前は降参か?アレックス、お前の方はどうだ?降参するか?」
行商人のおっちゃんは偶にこういうことをするからあんまり僕は好きになれない。
素直に渡してくれたらいいのに、と毎回思ってしまうから。
「ダァァッ!わからんッ!オッサン、どこにそんな変わり種なんてあるんだ!?実はそんなもんはない、ってそんな事無いよな!?」
「へッ!そんな訳あるかい。ちゃんと用意してあるよ、ここにな」
そう言っておっちゃんはおもむろに懐へ手を伸ばし、二つの球状の何かを取りだした。
「おっちゃん。それって、まさか」
「そうさ、今日持ってきたのは疑核、つっても人工八級なんてちゃっちいもんじゃあないぜ?これは人工疑核三級、つまり三mまではお前さん達の魔法が放てるようになるってわけさ」
そう、人工疑核と言えば世間に普及しているものは六~八級で僕達が良く照明など動力源として使用されており、六級から上、つまり五級からは戦闘用として用いられている。
今回行商人が持ってきた疑核三級は三メートル以内かつ自身の手からに限り、生まれつき持つ自身の『固有魔法』を放てるようになるのだ。
ちなみに人工疑核の上、つまりダンジョンから採れる天然の疑核になると固有魔法とは違う『副属性』の魔法が放てるようになるんだよ。
まぁ、固有魔法に比べて魔力消費量は大きくなるんだけどね。
「オッサンッ!それっていくらぐらいで売ってくれんだ?あんまり高いのはうちじゃ買えねぇぜ?」
「おっ、よく聞いてくれたな。なんとこの疑核、一つ7500バーツだ!どうだ?安いだろ?普通このくらいの疑核なら一つ8000バーツは貰うところなんだがな。お前ら冒険者になりたがってたからな、俺が特別安く仕入れてやったんだ。特別だぞ?」
高ッ!7500バーツだって!?僕たちの普段買っている黒パンが一つ10バーツだから...黒パン750個分!
そんなの僕の家族3人で食べていってもいつ消費しきれるか分からないのに!
...でも冒険者か。
なってみたいんだよね。もちろん危険なこと、っていうのは分かっているだけど、やっぱり男に生まれたからにはダンジョンに潜って、いずれは特級の真核を手に入れる、っていうのを一度は夢見たことがある。
まぁ、個人で特級真核を持ってるなんて話はおとぎ話くらいにしか聞いたことないんだけどね。
「ちょっと待っててくれ!俺父ちゃんと母ちゃんに話してくるから、取っといてくれよ!」
そう言ってアレックスは元々親に頼まれていたであろう石鹸等を買って急いで帰って行った。
っと、僕も呑気にアレックスを見送ってる場合じゃないや。急いで父さんと母さんに相談しなきゃ!
そう思い僕は家に向かって一直線に帰...
「おい坊主、お前もなんか買いに来たんじゃねえのか?」
...ろうとして元々両親に頼まれていたものを買ったのだった。
「ありがとおっちゃん、また来るよ!」
「おう、気をつけて帰って俺に金を落としにまた来いよ」
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「ただいまッ!頼まれてたもの買ってきたよ!」
「おう、おかえりスミス。ちゃんと頼んでたものは買ってこれたか?」
「もちろん!これとこれ、それとこれでしょ?ちゃんと買って来たよ」
そう言って僕は父さんに頼まれていたものを次々と渡していった。
「おう、ありがとうな。今昼飯作ってるからもうちょっと待ってな。今日はキッシュを作ってみようと思ってるんだ」
「やった!...あっ、それより聞いてよ。今日行商人のおっちゃんが人工疑核の三級を売ってくれるんだよ!それに8000バーツのところを7500バーツだって!そろそろ僕も成人の日が近いし色々世界を見て回ってみたいんだよ。ねぇ、買って欲しいなぁ...」
「それはお前、冒険者になりたいってことか?...そうか、お前もそろそろ15歳だもんな。だがな、外の世界はこの村の中と違って甘くないぞ?分かっているのか?」
そう村の外には『魔物』、と呼ばれる自然の摂理に反した化け物たちが存在しているのだ。
普段そう言った魔物達を狩り村を守るというのも村の狩人の仕事って訳さ。
つまり村の外に出るってことは魔物達に襲われ、いつ襲撃に会うか分からない恐怖に震えながら生活し、今回で言えば街を目指さなければならないということだ。
「...うん。それは承知の上で言ってるんだ。僕は...『冒険』がしたい」
それから真剣な父さんの顔が僕の瞳を捉え、その覚悟のほどを確かめようとしてくる。
正直その威圧感に押しつぶされ目を逸らしそうになってしまう。
ただそれではいつまでも父さんに認めて貰えない気がして...、決して目をそらさないように父さんを見つめ返した。
「...わかった、認めよう。ただ!絶対に死ぬな。生きてまた俺に顔を見せろ!なんだったら嫁も貰ってこい!母さん、いいよな?」
「ええ、私はスミスの決めたことには反対しないって決めてたから...,。スミス、辛いことが多いだろうけど、めげちゃダメだからね。出発はいつにするの?」
「...明日。行商人から疑核を買ったらすぐ出発しようって思ってる。そうじゃないと、今の状況に甘えてしまう気がして」
2人とも少し寂しそうにしながらも僕の考えを尊重してくれる。それがたまらなく嬉しくなって、僕は2人を抱きしめた。
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