魔法少女、退屈

街道を三日、退屈な旅路だった。

トモたちは森の中を真っすぐくり貫いたような平坦な道を進む。

メテオラ曰く街には昼過ぎには着くとのことだ。


トモは暇を持て余していた。もう少し旅と言えば楽しいものを想像していたがここまで変わり映えしない景色は辟易してくる。


この三日間トモはメテオラにこの世界の成り立ちについて説明を受けていた。

話の半分も理解していなかったが、クーリガーが覚えているだろうと気にしなかった。

ただ、龍がなぜ神々と敵対しているかという話だけは覚えていた。


なんでも龍はこの世界の創造主だったそう。

メテオラから数えて5代前、真祖の龍、光の龍と闇の龍が混じりあいこの大地を作った。そして人が産まれた。

そのまま平和な数万年を過ごしたが、ずっと神の座は不在だったらしい。

そこに現れたのが今、この世界で崇められている神々たち。

彼らは創造主が不在なのをいいことに己の眷属や、人間に好き勝手に力を与えて争いを始めた。

そこに立ち向かったのが彼ら龍であり、なんとか人界と神界を分けることに成功したようだ。だがその際にこの世界に二つの法則を作られてしまい現在もその法則に縛れてしまっている。


一つは恩寵ステータスこれにより龍は弱体を余儀なくされる。龍たちはなんとか長を神へと押し上げそれに対抗したが、強き時代の龍は今はもう10頭にも満たないそうだ。


そしてもう一つが、神界人界への相互不可侵。現状神々はこの地上に直接手を出せない。その代わり、この世界以外から人を呼び寄せ、代理戦争を画策している。

つまり、トモはその代理戦争の引き金として呼ばれた可能性があるのだ。


呼ばれた時、後先考えず暴れてたら……。

トモはあの時自重したことが功を奏している。

まず間違いなく魔族と人の戦争が始まっていただろうとメテオラが言っていたのだ。

どうやら龍たちは一枚岩という訳ではないが、非戦派が主流らしい。


退屈な道が一気に開けてきた。

草原と、小麦色の畑、人の手が入った農耕地。

前回森を出ようとした時はここで断念した。人に見つかり、皆逃げてしまったのだ。

だが今回は農作業をしている老夫婦がにこやかに挨拶をしてくれる。

どうやら問題はないようだ。トモは一安心、びくつくこともなく街の防壁まで進んでいった。


「さておそらく衛兵が身分証を求めてくるじゃろう。わしに任せて、トモは黙っておれ」


「大丈夫なのメテオラ?」


「まぁなんとかなるじゃろ」


どうやらメテオラは何か考えがあるようだ。

特に心配した様子もない態度にトモはとりあえず任せてみることにした。

そこから一時間ほど歩くと、やっと防壁の門に二人はたどり着いた。

街の外苑の農作地帯は年々広がっており、人口が増え続けている辺境の都市ファルトの大食糧庫となりつつあるようだ。


「うん? お嬢さんがた街に入りたいのかい? 通行証は?」


門に近づくと、衛兵が声を掛けてきた。その態度は愛想がよいものだったが、荷物を持っていない二人を怪しんでいるようにも見える。


「旅暮らしのものでの、通行証はない。 身分証はこれじゃ」


そういうと、メテオラは胸の辺りから身分証を取り出す。

その動きを注視する衛兵は、いやらしい目つきに変ったのをトモは見逃さなかった。

これだから男はと呆れるトモ。

メテオラは肌の温度が残るその身分証を衛兵の手にそっとおく。さらに両手で衛兵の手を包んだ。どうやらメテオラは色仕掛けで突破するつもりのようだ。


そのまま畳みかけるように耳元でささやくメテオラ。


「この娘は私の姪でのう、村から出たことがなく身分証さえ発行しておらんのだ。どうか通してくれまいか?」


トモは正気を疑ったが、案外簡単に衛兵はトモのことを通してくれた。

どうやらこういう色仕掛けは何度かやっているらしい。

トモはむなしくなって、何もいう事が出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る