魔法少女、脱森ガール

「うーむ。変幻魔法は無理そうじゃのう」


 トモが街に入れるようにと、肉体変化をする魔法をメテオラは教えてみるが一切効果がないという状況だった。

 既存の魔法式では、無効化されてしまうようだ。

 強烈な違和、それをメテオラとクーリガーは感じていた。


「魔法が使えないという訳ではないんですが、変化しようとすると強制的に元の姿に固定される。そんな干渉のされ方をしてますね」


「やはりそうじゃのう。わしが掛けても同様のようじゃ。 形状をその状態に固定されるような感じじゃな」


「ヘルモルト、という神のせいでしょうか?」


「どうじゃろう? 呪いというのも気になるしのう。 とりあえずわからんもんはわからん。 これはどうじゃ?――光よ、彼の者を一部を覆い隠せ! 隠蔽インビシブル!」


 するとトモの角や羽が消える。


「あ! 消えた! わーメテオラありがとう!」


 そういって後ろを向いて駆け出そうとするトモだが、駆け出した瞬間にびくりと止まる。

「あいた!」と叫び腰の辺りを抑え、涙を浮かべてトモはメテオラの顔を見上げた。

 メテオラは右手を何か掴んでいる物を見せるように上げ、ひらひらと横に振っている。

 その動きと共にしっぽが動く感触をトモは感じた。


「見えないだけ?」


「そうじゃな。 後、看破の魔法や、解呪の魔法は簡単な部類の魔法じゃから気をつけよ。疑われた時点でバレると思え」


 そういうとメテオラは右の手のひらを開く。

 トモはしっぽが解放された感触に安堵した。尻尾を掴まれると妙に、そわそわするのだ。


「それ大丈夫なの? わたしまた、追いかけ回されるのやだよ?」


「びくびくするでない。 目立つな。そうすれば、ただの赤髪の小娘にしか見えんわ」


 そういうと、黒くメッシュの入った髪は、赤一色へと変わった。

 メテオラよりは大分明るい赤い色だ。


「街では姉妹ということにするがよいじゃろ?」


「え?」、「え?」


 トモとクーリガーがハモる。


「なんじゃ? 二人して文句あるのか?」


 その反応に憤慨するメテオラ。

 トモはその姿に、悪意なく小首を傾げメテオラを下から伺い答える。

 仕草はとても可愛らしい。だがその口から発せられた言葉は劇物だった。


「無理すると辛いよ? メテオラ」


 メテオラは黙って、トモの頬をつねり上げる。


「いひゃい! いひゃい! いひゃい! ほんひょにいひゃいって!」


 口は災いの元。クーリガーは主のアホさに感謝しつつ、自分に矛先が向かないことに感謝したのだった。


 森を抜け、街道に出たのはメテオラと出会ってから三日後のことであった。

 向かう先は人類国家の一つ、シエナ王国北の大国だ。人族を纏める3大国の一つ。

 その辺境の都市ファルトは比較的亜人や、魔族も暮らしやすい場所とこの世界では有名だ。

 争いに疲れた辺境伯が、領地を非戦闘地帯と定め国家から団体、個人に至るまで自衛以外の戦闘を禁止したのだ。

 そんな理想郷のような世界を維持しているのは、みなの平和を愛する心と辺境伯は言う。だが実際は一国とやり合えるだけの戦力を有していることでの、単純な武力を背景にしていた。

 平和というのは所詮力がなければ意地ができないようだ。


「ねぇメテオラ? ここからどのくらい歩くの?」


「うーむ。 人の流れに紛れたいからのー? 大体3日ぐらいか?」


「この格好で?」


 トモは背中が大きく空いたゴシックドレス。

 メテオラは和服を着崩した格好。

 統一性がないのもそうだが、旅装束というには奇抜が過ぎた。

 そもそも街歩きするにしても、少々露出が多い。


「冒険者というのはたまにこういう恰好したのがいるが、そんなに変、かのう?」


「私の世界じゃ、特定の場所に集まってやらないと捕まる恰好だよ」


 正直トモからすればこの格好はコスプレにしか見えないのだ。

 しかも露出過多の過激なイベント会場でみるような類だ。

 トモの出身地ではよく魔法少女MMC限定同人誌即売会や、コスプレイベントなど胡乱なイベントが開催されていた。

 自分は非正規ということでマスコミの露出も少なかったため、そんなに彼らの餌食にはならなかったが、MMCのNo.1 白雪姫スノーホワイト・リリィ何かはよく題材にされていたのをトモは知っている。


こんな格好で天下の往来を歩くのはトモにとって何かの罰ゲームのようなものだった。

3日と聞いて気落ちした様子のトモにメテオラは、いずこから取り出した服を取り出す。きれいなブラウスだった。


トモは「ありがとう!」というと、森に取って返し着替えてくる。

ブラウスとプリーツスカート。

旅装束というには軽装だが、ひたすらに無難な服装にトモはほっと胸を撫でおろす。

メテオラの元に戻ると、、メテオラも着替えていた。

その姿はトモと同じく無難なブラウス姿だった。


だが似たような恰好でも胸部の戦闘力で印象はがらりと変わる。

その姿は、どこかコスプレ染みていた。

トモは下をみて、何も遮ることがないことに悲哀を感じた。トモはため息をつくとそのまま、街へ続く道を進むことにしたのだった。

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