第19話 夢見

体がふわふわ浮いているような感じがする。

なんだろう。

小さい男の子が見える。誰だろう。

雲に乗って近づいていくように感ずる。

顔を見てみる。あれ?海じゃない?その前にいる女の子はわたしだ!

なんだろう。ここなんか見覚えがあるんだよね。

あ!ここ中央公園だ。

昔の記憶が少しずつ思い出される。

あれはわたしたちがいつも通り公園で遊んでいた。

何気ない日々、そんなはずだった。

だが突然、その何気ない1日が忘れることない1日に一変した。

理由は、

わたしのジャングルジムからの落下だ。

海とわたしは公園でいつも鬼ごっこやかくれんぼ、砂場遊びなどいろんなことをして遊んでいた。

その日はジャングルジムで鬼ごっこをしていた。

いつもは危ないとわかっていてしないのだが、その日は危ないとわかっていながらも始めてしまった。

ジャングルジムの中を自在に動き回る。

細いところも通り、飛び越える。小さかったあの頃だからできたのだろう。

わたしは鬼をしていた。もちろん海を追いかける。

海はすばしっこい。だから滅多に海を捕まえられることはない。

この日もそうだと思っていた。

しかし、海が油断をしてあともう少しで手が届く。そんな距離にわたしたちはいた。

わたしはこれは海を捕まえるチャンスだ。

そう思い、懸命に手を伸ばした。はずだったのだ。

海の体に手が触れると思いきや、わたしの体はガクッと重心がぶれた。

おちる、おちる。

わたしが今までの人生で死を感じた唯一のタイミングだった。

そのとき、

どさっといった音が聞こえた。だが、わたしの体は痛くない。

あれ?わたし即死したから痛みを感じないのかな。

子供ながらそう思った。

だが現実は違った。

海がわたしを受け止めてくれていたのだ。

小さな体でわたしのことを受け止めてくれている。

その一瞬の出来事にわたしは戸惑いを覚えた。

海が、海がわたしを救ってくれたんだ。

ジャングルジムから飛び降りた衝撃で海の足は痛むらしい。

海の足はぴくぴくしている。

ほんの数秒の間だったかもしれない。

だが、私には何十分というとても長い時間のように感じた。

そのとき心になにかが生まれた気がした。

今までに感じたことのなかった感情。

もやもやするけど透き通っていて、重いようで軽やか対極なものが混ざっているかのような感情だった。

当時はこの気持ちは何だったのかはわからなかった。

しかし、今ははっきりと言える。

あの感情は恋だったということ。

そして、あれはわたしの初恋。

海はわたしの幼馴染であり、初恋の相手なのだ。


幼馴染が初恋の相手。

よく聞くかもしれない。

わたしも例にもれず、いつも一緒にいた海に助けられキュンとし、恋への湖へ連れていかれたのだった。

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