第9話 退部
どきどきしながら部室棟に向かう。やっぱり言いたくないな。引き返したくなる。でも。でも。気持ちが入り混じる。
お父さんやお母さん、すみれさん、深山さんの顔を思い浮かべる。1回決めたんだったら頑張らないとね。じぶんの頬をたたいて気合を入れる。
今度こそもう迷わないぞ。そう思い、また1歩を踏み出した。
部活棟に着いた。深呼吸をして、ノックをする。
「はーい。」
キャプテンの声が聞こえる。
そして、部室のドアを開ける。
キャプテンやほかの先輩方がこちらを向く。わたしが体操服ではなく制服なことに驚いたのだろう。
「ももなちゃん、どうしたの?」
「今日、練習あるけど。」
「体操服貸そうか?」
先輩方が口々に聞いてくる。
「いや、違うんです。」
そう言う。
先輩方が一斉にこっちを見てくる。視線が怖く感じる。言わなくちゃいけないよね。また逃げそうになる。わたしは自分のこういうところが嫌いだ。すぐ、逃げようとする。ちゃんと決心したのに。
「実は、部活を辞めたくて。」
えっーーー。という声が聞こえる。
それもそうだよね。
「どうしたの?ももなちゃんずっと練習頑張ってたじゃん。もしかしてわたしたち何かしちゃった?」
そうキャプテンが聞いてくる。
「いや、まったくそういうことじゃなくて。ちょっと聞いてもらってもいいですか?」
そういうと先輩方がうなずいてくれた。
わたしは話し始める。
「実はわたし如月家の許嫁だったらしくて、それで如月家の屋敷に住むことになったんです。それで如月家の妻としてのお勉強があるみたいで、それで部活を辞めなくちゃいけなくなったんです。とっても部活は楽しくてまだまだ続けたいという気持ちなんですけどいろいろ指導してもらったのにすみません。」
そう申し訳なさそうに言う。
そして黙り込んじゃっているとキャプテンが声をかけてくれた。
「そうなんだ。今まで楽しんでくれていたんだね。よかった。そんな申し訳なく思わないでよ。ももなちゃんが楽しんでいてくれたなら私たちも教えてきてよかったって思えるから。またいつでも遊びに行くね。」
そうさみしそうながらもわたしをはげましてくれた。
もう1人の先輩が
「最後にせっかくだからトスあげていかない?わたしがスパイク打つからさ。」
そう言ってくれて、心が少し軽くなった気がした。
体育館へと移動する。
同級生もこっちに駆け寄ってきた。
みんなにももう1回話した。
涙をこらえながら聞いてくれる子もいてわたしがバレー部に必要とされてたんだと思って嬉しくなった。
トスを上げる。相手コートからボールが来て、キャプテンがレシーブする。そしてわたしはトスをする。そして、先輩がアタックをする。この1連のながれがわたしはとても好きだ。
もうこんな楽しいことができなくなるなんて。不意に目から涙がこぼれる。そして頬をつたう。やっぱりわたし、バレーが好きなんだ。
でももう部活を辞めなくてはいけない。さみしいな。そう思いながら、いつも通り体育館の方へ向かって礼をする。
惜しくは感じるけど、行かなくては。
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