第3話 黒

途切れそうな意識の中で

微かに聞こえた彼女の声


「もっと君が欲しい…」

「君の願いを叶えてあげる」

「だから少しずつ」

「君を私にちょうだい」



「いいですよ」

「僕の全てを」

「あなたに」











早朝6時

僕が通う高校の保険室は

まだ薄暗く

幸せを噛み締めるのには

最高のコンディション



ベッドの上

カーテン越しのシルエットで

僕たちが唇を交わしている姿を

ドアノブがじっと見つめる



ギシギシっと音をたてるベッド



キスが終わると

先生はいつも嬉しそうだ



「ふぅ…ご馳走様」


気持ちとは裏腹

僕の顔は痩せ細る


「涼くん大丈夫?ちょっとやり過ぎたかしら」


「いえ、全然大丈夫です…でもやっぱり週一の早朝キスはかなり疲れますので…」

「今もドキドキしてますよ先生」


「仕方ないじゃない、キスが一番美味しいんだから、それに朝一じゃないと、誰かに見られたらどうするの?」


「ですよねー」

僕の顔は週一で痩せ細る


「で、どうするの?次は涼君の番…」


「……そう、ですね…えとー」


「ん?何でもいいのよ」


「その…先生の…」


「なに?」


「履いて…あの…パ…パン…」


僕はそっと

褒美の場所に視線を向ける



「え?……あぁ……コレ?」


僕は全力で首を縦に振った




「いいよ」




先生は僕の目の前でそれを脱ぎ



やさしく僕にくれた











僕はすぐに屋上へ駆け上がり

黄昏タイムに入る



「うわぁ…貰っちゃった…」



ご褒美の黒

それを天にかざし

先生の事を想う








僕は人間じゃない


僕の体はスライムのように何度も再生する

腕も、足も、内臓でさえも


先生も人間じゃない


僕を食べることで、先生は生きている

何度も再生する僕を、先生は食べ続ける



先生が僕を食べ

褒美を受ける



あぁ…なんて幸せなんだろう










早朝7時

校庭の先に視線を感じる

誰かが僕を見ている

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