第29話 その余韻

《奏side》

 薄暗い部屋で使ったものを捨てて、ベッドに体重を預けて天井を見ていた。

 まだ体には熱の余韻が残っているようだったが、しだいに体の熱も引いてきているのがわかる。


 スウェットのズボンを履いてから少しだけ空気を入れ替えるように窓を開けてみる。

 冷たいけど春らしい空気が部屋に流れ込んできて、そのまま肌寒いなと感じて一度窓を閉めてベッドに戻る。


 その隣にはさっき愛し合ったばかりの恋人が布団にくるまっているのが見えた。

 生まれたままの姿で布団にくるまって、寝息を立てているのがわかっている。


 手加減するつもりだったのにあまり手加減することはできなかったと思っている。

 寒気で目が覚めたのか、少し縮こまって起き上がっているのが見えた。


「ん、かなでさん……?」

「うん。体は痛くない?」

 初めてだと聞いていたけど、彼女は首をフルフルと横に振っている。

「大丈夫だよ。気持ち良かった……」

 それを言われると理性が保てなくなりそうだ。

 もう一度、と思ってしまいそうになってしまう。

「それ、直接言わないでって。理性が飛びそう」

「あ、ごめん。あの、奏さん、服、取ってくれる?」


 美琴みことが起き上がって、服を着ようとしているので見えないように視線を逸らして横になる。


 一瞬見えたけど首や胸には俺がつけたキスマークがついているのが見えた。


 それを見て昨日の夜は少しだけやりすぎてしまったなと思う。


 美琴を誰にも奪われたくないという気持ちで精いっぱいだったからだ。

 その気持ちが強すぎるのかもしれない。


 執着というか独占欲というものが強いと姉貴と響に言われることがあったから自覚はある。


 服を着た美琴はすぐにさっきの位置に戻って、俺のことをときどき見ていたんだよね。

「奏さんって……慣れてたね」

「うるさい。久しぶりすぎたんだよ。コレを買うのもな」

 サイドテーブルの方に置いてある開封したての箱がチラッと視界に入る。

 最後に買ったのも学生時代になるかもしれない。


 その前に箱をしまって、異なる箱を取り出して窓際に移動してライターで火をつける。

 もともと使っていたものだけど、こちらもあまり吸わない方が良いと思っている。

 美琴は少しじっと見つめるような姿をしているのが見えた。


 気になるのかもしれないと考えていた。

「煙草が嫌なら……俺はやめるけど」

「別に……外とかで吸えればいいと思ってるけど? うちの父さんがそうしてたから」

「そうか」


 そのなかで俺はすぐに煙草を消して、再びベッドに入って美琴と向き合った。

 彼女は少ししてから寝息を立て始めたのを聞いてから、自分にも寝息を立てて寝ること早かった。



 冷たい空気が肌に触れてきてブルッと一度体が震えてしまうのと同時に目が覚めた。

 まだ時刻を確かめたいと思ったが夢うつつとした状態が続いていたけど、美琴を抱き寄せるように寝ていたようだった。


 彼女もかなり安心しているのか穏やかな寝顔をのぞかせているのが見えた。

 枕元に置いてあったスマホのアラームが聞こえてきて、すぐにベッドサイドに置かれてあるスマホに手を伸ばした。


 美琴を起こさずにアラームを消すともぞもぞと美琴が目を覚ましているのが見えた。


「奏さん」

「おはよう。美琴、先にシャワーとか浴びる?」

「うん」


 それを聞いてからはシャワーを浴びてから、俺がつけたキスマークを見たらしい。

 悲鳴というか、怒っているような声でこちらに話しかけてくるのがわかる。


「奏さん! 入学式のシャツさ、第一ボタン無いんだけど!」

「あ。ご、ごめんって」

「もう……一緒に買いに来てくれるなら、許すけど……」

「良いよ」


 そう言いながら美琴は少しだけ黙ってしまった。

 少しだけ顔が赤くなっているけど……どうしたのか。


「美琴?」

「え、何でもないってば! 昨日のこと、思い出して」


 彼女はそう言いながら耳まで真っ赤にしている姿を見て、またあの熱を思い出しそうになったらしい。


 一度、時間も時間なので俺は部屋を出て朝食を作ることにしていた。


「美琴はこれ、食べる?」

「うん」


 一緒に食べる朝食はとても新鮮で、弟との二人暮らしだった頃とは違う気持ちになる。

 美琴は数日後に大学生になって、新しい生活が始まろうとしている。

 少しだけ不安なことがあるけれど、彼女に支えて行こうと考えている。


「大学生ってどんな感じなんだろう?」

「ん~……俺も知らない世界だなぁ。響に聞いておけばよかったな」


 大学というのは俺にとっては未知の世界ではある。

 専門学校へ進学したこともあって高校の延長線上にあったみたいなところがあった。

 大学は自分の興味のある科目を時間割に組み立てるのは、弟である響のそばで見ていたからわかる。


 でも、それ以外はあまり知らない。

 知らないことの方が多い。


「わからないけれど、楽しいかもしれない」

「そうだな」


 朝食を食べてテレビの方を見て時間を確かめる。

 まだお店すら開いていない時間なので、一度スマホに連絡がきているかを確認する。


 連絡はほとんどがバンドの先輩たちからの飲みの誘いが多い。

 あの人たちと飲み会となると終電じゃなくて、明け方までかなり騒ぐことが多い。

 俺は二十歳になるまで参加していなかったけれど成人年齢が変わっても、お酒の解禁される年齢がそのままで本当に良かったと思うくらいだ。


「今日はどこに行くの?」

「ううん。今日は普通にリラックスする」

「うん。そうだね」


 俺は着替えをしてからすぐに美琴と一緒に歩いて買い物に出かけた。

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