第27話 最後のライブ

 教習所と家の往復だけで過ごしていて、ゴールデンウィークまでには免許が取れそうな気がする。


 もう高校生じゃないんだなという気持ちになることが多くて、父さんと一緒のカード会社でクレジットカードを作ってもらったんだ。

 ちなみに上限額は学生向けに低くしているんだよね。

 平均のバイト代の半分と思うと、かなり高く設定しているつもりだ。


 そして、世間が春休みになった頃。

 宝塚音楽学校を受験した宮野みやのさんと渡辺わたなべさんの結果がクラスのグループLINEに送られてきた。

 その学校の前で姿勢の良くこちらを向いているのが見えた。

『二人とも合格しました』

 そのメッセージだけで祝福を意味するスタンプがみんなから送られてきているのが見えた。

 二人はこれから二年間音楽学校を経て宝塚の大舞台に立つことになるかもしれない。


「良かったね」

「絶対に良い役者になりそうだもんね」

 わたしはそんなことを話しながらスマホのカレンダーを見た。



 三日後、行われる「School Live 2023 Spring」で高校三年生は解散などライブを行われていた。

 主に継続する場合が多いんだけど、結城ゆうき女学院高等部の軽音楽部で活躍していたルチアは解散するんだ。

 理由としては東京以外への進学や就職するメンバーもいたことで、活動することができないということだったらしい。


「ルチアが解散するのはもったいないな」

「今回で見納めか」


 仕方ないけれど、最後に楽しみたいと思っている。

 楽屋に行くといつものように楽器の調整をしているなかで髪を少し染めたり、ピアスをしていたりするみんながいた。


「あれ、日菜ひなじゃない?」

「久しぶり」

 日菜も同じような気持ちみたいで今日も揃いの衣装を着ているのが見えた。

 茶色に染めて編み込んだ髪を結って、耳にはファーストピアスがすでにつけられていた。


「元気にしてた?」

「もちろんだよ。でも、スタジオで練習しまくってたんだよ。かなり難しいし」

「そうか、楽しみだな。先に待ってるから」


 わたしはすぐに客席の方へ行くために歩いていたときだった。

 出口に近い楽屋からリンネというバンドとして出る和真かずま兄ちゃんがいた。


美琴みこと、ちょっといいいかな?」

「え、でも……時間がないんじゃ」

「そうだな。終わってからでいいか」

「うん」


 そのときにメンバーが顔を出して手招きしているのが見えた。


 ライブが終わってから何かを話したいみたいだったから、すぐに会場の方へと向かうことにしたんだ。

 リンネのみなさんがこちらにやってきて、笑顔で手を振っているのが見えた。


 わたしはすぐに客席に行くと、お客さんが多くて驚いたけど春休みだからかなと思っていたときだった。

 最初のバンドグループがオープニングを飾る演奏を始めているのが見えて、かなでさんが照明などの手伝いをしているのが見えた。


 そのなかで大学生と高校生バンドの卒業のために解散する最後のライブが多いこともあって、泣きながら演奏をしたりしているバンドも少なくはなかったの。


 見ているなかにも泣いている子もいてこの時期のライブ特有のものがあるなと思う。

 そのなかでルチアとしての最後のライブになったことも大きくて、登場したときからの大歓声はとてもすごいなと思っていたんだ。


「みなさん、おはようございます。ルチアです」

「久しぶりですね! 皆さん、最後のライブになりました」

「えええ~~!」

「寂しい」

「もっとやってほしい」


 そんな声が上がるなかでボーカルの河野さんが説明を始めているのが見えた。


「えっとですね。簡単に話しますと、メンバーのなかで遠方に進学、四月に社会人になる人がいて時間が取れないということで活動が不可能ということが大きいです」

「みなさん、解散するライブでも前向きに送り出してください」

「最初の曲は初めて披露した曲から行きます」


 それを聞いてドラムが激しく鳴り始めてからギターの音色が加わって曲が始まった。

 曲がアップテンポなんだけど、楽しそうに演奏するみんながまぶしいなと思ってしまう。


 バンドの疾走感のある曲はとても楽しいのが見えて、すごい難しいと言っていたのとは違うみたいだった。

 わたしはそのなかで盛り上がって手拍子をしながら彼女たちを見つめていたんだ。

 日菜のギターソロはとても上手くてみんなが息をのんでいるようなことをしている。


「それではありがとうございました!」

「ありがとう!」

「ルチア、最高だったぞ~」


 今回のライブも大成功でそれから各自打ち上げと行って近所の店へと向かっている。

 リンネのみなさんと話すことができたんだよね。


「奏とつきあっていることを聞いたときは驚いたよ」


 その言葉を聞いてドキッとしたけれど、奏さんも似たような表情をしているのが見えた。

 わたしは思わずお冷を少し飲みながら意識を他に移そうとしている。


「それでも二人の年齢を考えたら、少しは違うのかもな」

「ああ~。俺らだったら、ちょっとアレだけど」

「でも、奏も二十五になるんだし。美琴ちゃんも成人したからね」


 四月に二十五歳になる奏さんと大学生になる自分だと不自然じゃないような感じだと思う。

 リンネの人たちは最年少の彼のことを見守っているのかもしれないと考えていた。


「そう言えば。今度先輩が結婚式、名良のチャペルでするって話してたよな」

「そうそう。卒業生と教職員だったら大丈夫なんだよな」


 リンネは中高一貫の男子校で名良めいりょう中学と高校の卒業生は併設されているチャペルで挙式が可能だという。

 名良がプロテスタント系の学校であることを忘れていたけど、そう言えばそうだったなと考えている。


「そうなんだ。東山ひがしやま女子大にもあるって聞いたよ。カトリック系の女子大だったから」


 東山女子大のキャンパスでは都心から移築した古い礼拝堂があるらしい。

 もともとカトリック系の学校だったこともあって、創立当時に建てられた礼拝堂を戦後移築しているのだという。

 そこで入学式は行ったりしているぐらい広さはあることは知っている。


 でも、そんな未来があるのかはわからないけど、つい奏さんと式を挙げるような想像をしてしまう。


「今日はここまでにしようか」

「はい、また奏さん」

「またね。楽しみにしているよ」


 それを聞いてドキドキと心臓が聞こえてきて、わたしはすぐにその日が来るんだということがわかった。

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