最終章 卒業してから

第26話 謝恩会の帰り

 謝恩会は午後五時でお開きになって、夕食は卒業パーティーと称して家でご飯を食べることになっているんだ。

 ちょうどそのときにLINEが来てかなでさんも一緒に夕飯を食べるみたい。

 奏さんは誘っていたので四人でお祝いすることになっているんだ。


美琴みことの家に直行する予定だから、駅で待ち合わせても良い?』

『いいよ。いつぐらいに着きそう?』

『もう着く。先に改札に行ってて』


 わたしはすぐに私鉄の改札口へと行くと、奏さんが手を振ってこっちを見ているのがわかった。

 礼装のブラックスーツを着てネクタイはグレーのシンプルなもので、仕事用のカバンと暖色系の花束を持ってきているのが見えた。


 ネクタイを緩めているせいか、ラフな状態になっているのがドキドキする。

 少しだけドキッとしてしまうことがあるんだよね。


「美琴! お待たせ」

「奏さん、かっこいいね」

「ありがとう。去年と変わらない礼装だけどな……その前に」


 わたしにその花束を渡して、微笑んでくれてうれしくなってしまうんだよね。

 何となく上級生が話していたことを思い出していた。


 ――誰かの彼氏が花束を持って待っていたって、何十本のバラの花束だよ。

 奏さんはそれとは違って小さな花束できれいなパステルカラーなものだったんだ。

 それを見て卒業したんだなと感じた。


「卒業おめでとう」

「ありがとう。クラス総代で卒業証書をもらったんだ」


 奏さんは卒業式の話をずっと話したかったんだよね。

 一緒にどんな感じだったのかを聞いたりすることができて新鮮だった。

 それを聞きながら写真撮影のときの話をしたりしていたんだよね。


楓嶺館ふうれいかんの卒業式ってどんな感じだった?」

「あまり変わらないよ。サプライズしてるクラスもあったから」

「それじゃあ、変わんないね」

「そうだな」


 わたしはそれを話すのがとても楽しくて、家に着くと父さんたちは先に買い物をしているみたいで誰もいない。

 部屋に荷物を置いていたら、ドアをノックしていて奏さんがきた。

 彼を中に入れてドアも閉めてから、座って話をすることにしたんだ。


「美琴も高校卒業したんだな」

「うん。あっという間だったな」

「大学もあっという間だと思うぞ。専門学校に行ってた俺が言うのもあれだけど」

「え~、四年の間に決めないといけないのが大変じゃない?」

「俺も二年であの会社に入ったんだからさ」


 一緒に話しているときに笑顔で話しているのがとても久しぶりだなと思っているのかもしれない。


 そんなことを聞いていたときに奏さんがキスをして、自分の動きが止まってしまったけどドキッとしてしまう。

 去年の夏のことを思い出したけど、それどころじゃなかった。

 とても自然にしてきたからびっくりしたけど、心臓の鼓動が速くなってきているのがわかる。


 顔が少しだけ離れてから見つめ合う時間が長く続いているのがわかる。

 耳の方にまで熱い血流が進んでいるような感じがするけど、ソワソワとしてしまうことが話しているのが感じていた。


「奏さん」

「どうした?」

「なんか……いつもと違う?」

「そうかな、ぎゅってしてもいい?」


 優しく抱きしめてくれたときに懐かしくなった。

 いつもの香水の匂いと、ほんのりと奏さんの匂いがフワッと漂う。

 まだ何度かしか抱きしめられただけなのに、とても落ち着くなと感じてしまった。


 それからしばらくして階下から両親が帰ってきたことを知って、すぐにリビングへと降りて行く。


「あら、奏くん。いらっしゃい」

「お邪魔してます」

「夕飯にしようか、美琴もいらっしゃい。手伝って」

「奏くん、これ飲む? アルコールだけど」

「うん。ありがとうございます。それじゃあ、いただきます」


 奏さんはスーツのネクタイを少し緩めてから夕食の寿司を取り分けているのが見える。

 わたしは適当に好きなネタを食べたり、お茶を飲んだりとしているんだ。


「これからは美琴も成人として扱われるからな。クレジットカードとかはリボ払いはやめて置け、限度額もかなりきつめにしても良いと思う」

「父さん、早いよ。そんなこと」

「できるだけ早めに持っておけばいい」

「うん、わかってる」


 そのなかで奏さんは少し落ち着いたような感じでビールを飲んでいる。

 そういえばアルコールを飲むってことは車ではないらしいということは確実だ。


「奏さんは車じゃないんだっけ?」

「うん、徒歩で来たから。家にいても一人だしね」

「響さん、実家に帰ったの?」

「そう」

「弟さんがいらっしゃるって聞いたけど就職?」

「はい。一度実家に戻って、就職で関西に行きます」

「そうか。それじゃあ、奏くんは一人暮らしに?」

「そうですね。広く感じてしまうんですけど、慣れると思います」


 その後は奏さんの近況を聞いたりしているときに父さんが爆弾発言を投下した。


「奏くんは美琴と同棲するの?」

「はっ⁉ ちょっとぉ⁉」

「いや、美琴も成人年齢になってるし、親の許可は取らなくてもいいんだけど」


 それを聞いた奏さんは隣でむせているのが見えて、少し落ち着かせるために深呼吸をする。

 そのなかではとても楽しそうな姿を待っていることがあったようだった。

 わたしが固まっている間に奏さんが真剣な表情でこちらを見て話し始めた。


「え、えっと……まだ話してはいません。大学には通ったことがないのでわかりませんが、新生活は慣れないことが多いですから」

「そうよ? 上京してからうちも必死だったんだからね、冬樹さんは都内で一人暮らししてからわからないのに」

「でも、いつか一緒に暮らしたいと思っています」

 それを聞いてテーブルの下で奏さんの手を握っていた。

 大きな手に包まれるのがとても安心できるような感じがする。

「わたしは大学を卒業してから、一緒に暮らしたいと思ってる」

 大学の間は家から通うことを決めていたし、そっちの方が良いと思っているからだ。

「まあ。今後のことは二人で話し合って決めなさい。これからは大人として考えていきなさい」

「そうね。美琴の年代から成人年齢も扱いも変わるからね」

「そうですね。あ、ご飯ごちそうさまでした」


 しばらくして夕飯を食べた後、奏さんは帰宅した。


「それじゃあ、またね」


 部屋に戻るとすぐに制服を脱いで、クローゼットにしまう。


 このセーラー服も、もう着れないんだなとしみじみと感じる。

 制服に関してはどうしようかなと考えていたけど、制服が変わってしまったのでクリーニングをしたらしまって置こうと思う。


 風呂に入ってから再びリビングに戻ると

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