第25話 卒業
三月三日は結城女学院高等部の卒業式が行われる。
朝から髪型もいつもとは違うものにして、編み込みのあるハーフアップにしてみることにした。
少し髪を切ったので久々にハーフアップで登校することになっているんだよね。
セーラー服は式典のときと同じように着てからすぐに寂しいなと思う。
その後にいつもよりかなり軽いサッチェルバッグを持って一階に降りると、スーツを着ている両親がこっちで待機しているのが見えた。
「美琴、今日は卒業式ですね」
「そうだよ。帰るのは夕方になるけど良いかな? 下手すると」
「良いよ。謝恩会があるんでしょ?」
今日は卒業式が終わってからクラスごとに謝恩会が開かれることになっていて、うちのクラスは近所のカラオケ店のバンケットルームでお昼とかを食べることになっているんだ。
「そう。帰るときは連絡するからね」
「母さんたち、先に行くよ」
「うん。いってらっしゃい」
わたしは先に学校へと走っていく。
今日が高校の通学路は最後になるだろうなと考えているし、すぐに子どもの頃に笑顔で話している。
セーラー服の上からはあまり着るものはないと思ってコートは着て行かなかった。
春らしい空気になってきた頃だけど寒いのが残っている。
教室に入るとみんなが最後に写真を撮ったりしているのがわかる。
クラスメイトもほとんどがいつもと違う髪型をして、緊張しているみたいで笑顔で話しているんだよね。
「
「
「卒業式だね」
「うん。今度は大学だね。ピアスとか髪とか染めたいな」
「もう染めるの?」
「うん。もう謝恩会終わりに予約してるから」
日菜は茶色の髪にしてみることにしているらしい。
わたしはまだ染めないでいるつもりでいるんだけど、一度は染めてみたいって思っている。
「それと美琴って、クラス総代選ばれたね」
「うん、そこが一番不安」
わたしはクラスを代表して卒業証書を授与されることになっているんだ。
これは初めてのことだったから結構気にしているし、卒業式でこんな大役を担ったことはないからかもしれない。
卒業式は在校生と保護者が集まるので、式典で使われる講堂で行われることになっている。
「それじゃあ、みんな出発するぞ」
それから先生がやって来たんだ。
「ユッキー! 今日はめちゃくちゃおしゃれじゃない?」
「そうだろ? さすがに式典だからな」
ユッキーは礼装のスーツにシルバーのネクタイをしているんだけど、すごい懐かしそうなことをしているのが見える。
子どもの頃に新しいことが話しているんだよね。
講堂に入るときに「卒業生入場」という声と吹奏楽部による演奏が聞こえてきた。
予行練習通りにやればいいと思っているから、大丈夫だと考えている。
拍手で出迎えながらすぐに在校生と保護者の席の合間を縫って歩いて行く。
わたしは何となく気持ちが違うなと思ってしまう。
これでほとんどの同級生とは違う道に行くからだ。
日菜以外は……もう会わないかもしれないんだと思うと、悲しくなってくる。
講堂には日の丸と校旗が掲げられて、それの上に『卒業証書授与式』と書かれている。
「これより第百回卒業証書授与式を行います。一同、礼」
その後は校長先生と理事長先生の話を聞いてから卒業証書授与が始まるんだけど、そのときにクラス総代として代表して卒業証書を渡されることになる。
「卒業証書授与」
その言葉が聞こえてきて心臓がドクンッと大きく鳴り響いているのがわかる。
これから呼ばれたのが各クラスの総代として卒業証書を手渡されることになっている。
このクラス総代になったことは両親には言っていないので、かなり驚かれてしまうかもしれないと思っている。
「一組、
その総代の名前が呼ばれると壇上へクラス順に上がってからは一組から卒業証書を手渡されるんだ。
校長先生がすぐに一組の谷口さんが前に立って卒業証書を読まれている。
「卒業証書授与。谷口汐音、右は本校の高等学校の教育課程を修了したことを証する」
そう言えば最初と最後は卒業証書を全部読まれるんだよね。
うちは「以下同文」のような気がするんだけど。
谷口さんへ手渡されたのはクラス全員の卒業証書の束で、それを手に持ち後ろに下がって二組の子が校長先生の前に行く。
わたしは緊張しているけどリハーサル通りにやればいいんだって思いながら出番が来るのを待つ。
「四組、瀬倉美琴」
「はい!」
声を大きく出して校長先生の前に出る。
そして、三十二人分の卒業証書を手渡された。
「おめでとうございます。大学も頑張って」
「はい」
そして、すぐにずっしりとした重みを感じている。
自分のが一番上に置かれている以外は全て出席番号順になっているんだ。
卒業生すべての卒業証書が各クラスの総代の手に渡り、すぐに壇上から下りて担任の先生へと手渡して式の後に渡されることになっている。
「続いて成績優秀者、皆勤賞者の表彰です。代表者の呼名後、生徒は壇上にお上がりください」
わたしは再び成績優秀者として呼ばれて壇上へ向かうことをしているのかもしれない。
賞状と記念品を手渡され、成績優秀者は万年筆が贈られたんだ。
その後に席に戻ると次に在校生代表の現生徒会長の二年生が送辞を始め、次々に言葉を紡いでいくのを聞いていく。
次に元生徒会長の新見さんが卒業生代表の答辞を話していくのが見えたりしている。
高校生生活が始まったときはまだ不安と希望を混ざっていることがあったけど、普通に楽しかったなと思っているんだ。
学年で選んだ巣立ちの歌はみんなが歌いたいと言っていたもの。
そのなかで伴奏と指揮者は合唱コンで賞をもらった人が担当しているから、泣くのを我慢して演奏をすることになる。
わたしはあまり泣かないんだなと思いながら合唱に参加している。
隣の
それから合唱が終わってから講堂にはすすり泣きが聞こえながら着席をして卒業生退場するのを待った。
「卒業生退場」
その声を聞いて吹奏楽部が演奏を始めると、一組から順番にすぐに歩いて講堂を出て教室へと向かう。
拍手と後輩の声が聞こえてくるけど直接接していたのは委員会の後輩しかいない。
でも、その声が聞こえてきたら泣きそうになってしまう。
涙を流さないと決めていたわけではないけど、教室に着いたときにはいつの間にか涙が出てしまっていた。
「美琴、泣かないでってば」
「なんとなく思い出しちゃって」
「そんなことはあるの⁉」
教室に戻ってきて卒業証書を手渡されてからは
卒業式当日まで進路が決定していない二人はこれから宝塚音楽学校を受験する。
「宮野さん、渡辺さん、これから緊張すると思うけど。いつも通りの二人で憧れの場所を目指してください。二人の努力するところを見てはいないですが、二人だったら大丈夫だと思っています」
「ありがとうございます。先生」
その後に先生が教壇に立った瞬間、みんなで起立して話す。
「ユッキー先生、一年間お世話になりました。全員でこの歌を送ります」
そのときに日菜がアコースティックギターでイントロを弾いてから全員で歌い始めた。
それはレミオロメンの『3月9日』、先生が一番好きな曲だ。
みんなで歌っているのを固まっていたけど、だんだんと泣きそうな表情をして歌を聞いている。
一曲フル尺で歌った後に学級委員がみんなで書いた色紙と花束を手渡した。
「ありがとう。明日から全員それぞれの道を歩みます。これからの社会は何が起きるかわかりませんが、未来を支える一員として立派な人物になることを祈っています」
先生は一度深呼吸をして涙声で話してきた。
「もし、つらいとか苦しいと思ったときは遠慮なく戻ってきてほしい。以上、号令」
「気をつけ、礼、一年間ありがとうございました!」
「ありがとうございました‼」
その声でみんなが泣き笑いの表情で話したりしていた。
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