第22話 神田デート
クリスマスを過ぎてからはもう体調は戻っているんだけど、治癒してからは普通に出かけるときにはマスクをしている。
『
「あ、もう治ってるよ。心配してくれてありがとう」
『でも、大学受験終わってても体調管理はしっかりね』
「うん、あのときはホッとしていたせいだと思ってる」
そういう時に彼のぬくもりを恋しく思ってしまうことがある。
ぎゅってしてほしい、手を握ってほしい、触れてほしい。
何となく言えないところがある。
『美琴、
「花音ちゃんが?」
『うん、東京で遊びたいって言ってきて……良いところあるかな? 下見に行かない?』
「花音ちゃんの希望は?」
『絵本専門店、神保町の』
「ああ、年末特番でやってた」
『うん、行ってみたいって。でも、その前に会いたいな』
「それじゃあ、神田の喫茶店とかに行きたい」
『わかった』
そして、花音ちゃんと行く前に久しぶりに出かけることにしたんだ。
久しぶりの外出の前にどんな服装で行こうかなと考えている。
とりあえず寒いのでズボンにしてかわいいセーターを着てコートを羽織る感じにした。
それにマフラーと手袋をして、歩いてもきつくないスニーカーを履いていく。
髪は邪魔になるのでまとめてポニテにしていくことにしたんだ。
「行ってきます。母さん」
「気をつけてね」
「うん。帰るときは連絡を入れるから」
「そうしてね」
午前九時頃に出発する西武線に乗って高田馬場で地下鉄に乗り変えて、九段下という駅を降りて少し歩いたところにある本屋さんで待ち合わせしている。
その本屋さんが見えてそこに奏さんを見たときに固まってしまった。
黒でまとめた服装なんだけど、それにシンプルなシルバーのアクセサリーをつけているのが大人だなと感じる。
わたしは心臓が高鳴っているのに、上手く声を掛けられないという雰囲気で待った。
それに気がついたのか、奏さんがこっちにやってきて歩いてきたんだ。
「美琴、久しぶり。元気そうだね」
「か、奏さん……」
間近に顔があることに少しだけ後ずさりたい気持ちになってしまう。
最後に会ったのって、受験前日じゃなったかなって思い出した。
たった一か月会わなかっただけで、接し方を忘れるのって相当ヤバいかもしれないと思い始めたときだった。
「大丈夫? 顔、赤いけど」
「ち、ち、違う! 奏さんと、どう話してたかなって」
「いつも寝落ち通話してるのに?」
「それは、その」
じーっとこっちを見ているのがわかるけど、それが余計にドキドキしてしまうんだ。
「奏さんがかっこよすぎて……」
「そっか。そっかぁ」
顔がとても熱くなっているような気がして、上手く話すことができない感じになっている。
何となく奏さんが笑顔ですぐに歩いて本屋さんへ入ることにしたんだ。
そこは児童書専門でいつも読んでいた絵本や新しい絵本がいろいろと並んでいる。
「すごいな……」
わたしの目にはとても天国みたいな感じだったんだ。
絵本のところを見て行くと小さな頃に読んでいたシリーズの新刊が出ているの。
「まだこのシリーズ、残ってるんだ」
「そうなの?」
「うん、小学生のときに図書室で読んでたから」
「そうか。好きなんだね」
奏さんは児童書が置かれてある本棚の方へと向かうのが見える。
そのなかで低学年向けの本棚の前で本を選んでいるの。
「美琴、花音に本をプレゼントしたいんだけど。どんなのがいいかな」
「う~ん、ジャンル的にはどんなのを読むかだよね」
「学校の図書館でこんなのを読んでるって聞いてる」
花音ちゃんからLINEで送られてきたほんの表紙を見せてくれたんだ。
外国の翻訳された児童書が多いなという印象だった。
「それじゃあ、この辺とかは? 海外文学が好きなら」
わたしは子どもの頃に好きだった本を手渡した。
「ありがとう」
本屋さんでそれをラッピングしてもらい、他の新しい店に向かうことにした。
そこはナポリタンとかが有名なお店で一緒に通されたときは地下にある席に案内されてから、メニューはセットで二人でナポリタンを選んでオレンジジュースを頼んで待つことにした。
昭和歌謡が流れる中で少し薄暗い席は満席に近い状態で、ちょうどいい時間帯に入れて良かったと思う。
「お待たせいたしました。ナポリタンです」
普通盛りなのにかなりボリュームがあるナポリタンが届いて最初はシンプルに食べ始めることにした。
「おいしい。このナポリタン」
「うん、結構ガッツリだね」
しだいに食べて行くとだんだんときつくなってきて、目に入ったパルメザンチーズをパラパラと掛けて混ぜると味が変わって食べるのがわかった。
「奏さん、食べたの?」
「うん、うまいな。花音には教えたくないな」
「ふふ、そうなの?」
「うん、二人で来ても良いよね」
お店を出てからはすぐに銀座の方へ向かうと、新しい楽しそうな笑顔で見ている。
だいたいがハイブランドの店でただショーケースから眺める感じで見ているんだ。
「奏さんは年明けから忙しいの?」
「うん。俺は卒業式のオンパレードだよ。スタートは
「そうなんだ」
「卒業式の日は他の学校の写真を撮るから行けないかも。俺じゃなくて、橘さんって人」
「あの女の人ですよね」
「うん、俺は楓嶺館の卒業式に行くんだ。同日開催はキツイ」
奏さんは楓嶺館と結城女学院の担当をしているカメラマンで行事が被った際はどちらかの学校に行くらしい。
何となく卒業式は来ないのかなって感じていたので、少しだけ寂しいなと思ったりしている。
「そうなんだ。仕方ないね」
「うん、でも……仕事が終わったら、迎えに行くよ。スーツ見せたいし」
奏さんの式典で着るフォーマルスーツを見てみたいという気持ちはある。
かっこいいんだろうなって気持ちになっている。
「うん、ありがとう、制服も見納めになるしね」
「そうだね」
帰るときにギュッと抱きしめられた。
いつもより少しだけ長めで、名残惜しそうな感じがした。
「奏さん?」
「少し充電、させてもらった。ありがとう」
「また会おうね」
「うん。またね」
わたしはあと二か月もすれば卒業式を迎える。
大みそかは普通に父方の実家へ遊びに行ったりして、いとこの
「かわいい!」
ぷにぷにのほっぺ、むちっとしてる手足を見ながら触りたい衝動を抑えながら見る。
一番年の近い親戚になったんだけど、正確に言うといとこの子どもってどういう関係になるのか知らないので父さんに聞こうと思った。
「名前は?」
「あ、この子は
「萌香ちゃん、初めまして。美琴だよ」
わたしは萌香ちゃんと遊んだりして、とても癒されまくった。
そして、年が明けた。
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