第19話 誕生日プレゼント

 十一月の半ばになって、いよいよ指定校推薦の前日になっていた。

 何事もなく学校で授業を受けて、家に帰ろうとしたときだ。

 珍しくLINEが来ていてかなでさんからで、いまから会えるかと言われた。


『いいよ。明日受験だけど』

『短時間に済ませるよ』


 そのときにスタンプを送ってからコートを着て先生と簡単に受験の話を聞いて帰ることにした。

 同じ大学を志望している日菜ひなとは学校の最寄で待ち合わせることにしている。


「日菜、明日は中央線のホームのNew Daysのところね」

「わかった。バイバイ」


 改札に日菜が向かうのを見届けてすぐに走って地元の最寄り駅に行くことにした。

 奏さんが地元の最寄り駅に来る用事があったからすぐに家に帰ることになっているんだ。


「奏さん」


 改札を抜けて家に行くと奏さんがここに来ていたのに見えたので、声をかけると手を広げて待っていたの。

 その腕のなかに飛び込むとギュッと抱きしめて、とても寒くなった体が温まるような感じがしたの。


美琴みこと、元気そうだね」

「うん」

 家に入るとすぐに父さんが驚いていたけど、嬉しそうに笑っている。

「いらっしゃい、奏くん。今日は美紅みくさんが出張でいないけど」

「お構いなく。あの……仕事は在宅で?」

「そうだよ。さっきまで新刊の原稿を書いていたところなんだよ。そろそろ話しても良いかもね」


 そう言って父さんは本棚にある最近発売された本を持ってきたんだ。

 それはわたしが奏さんに貸した小説でそれを見てびっくりしているのが見えたんだ。


「え、これって高宮たかみや冬樹ふゆきの新作」

「俺が作者だよ」


 それを聞いて奏さんがフリーズしているのが見えて、それからしばらくしてハッと我に返ったような顔をして後ずさりしている。

 奏さんが父さんのファンなんだとわかって、少しだけびっくりしたんだよね。


「え、え、マジで? 高宮冬樹先生って、え」

「まぁ、びっくりするよね。俺もプライベートも話せないと思うんだけどね」

「俺、小学生のときから、ファンで……ファンレター、書いてて」

「ちょうどその手紙があったよ。ありがとう、奏くん」

「マジか……じゃあ、俺気づかずにツーリングしてたってこと?」

「仕方ないよ。これからは彼氏と娘の父ってことで」


 呆然としている奏さんを見てからすぐに電話が着て父さんが編集さんとの打ち合わせがあるから、部屋に行っててほしいとハンドサインが出たのですぐに上に駆けあがることにした。


「奏さんも行こう。編集さんとの打ち合わせに邪魔しない方が良いの」

「わ、わかった」

 二階へ階段を上がると奏さんはまだ少し動揺しているみたいだった。

「大丈夫? 奏さん」

「うん、ありがとう。少しびっくりしすぎただけ」

「そっか。あ、制服から着替えるから……ここで待っててくれる?」

「うん」


 部屋の前で奏さんを待たせてすぐにドアを閉めてすぐに部屋の中で着替えることにした。

 わたしは適当にニットとジーンズに着替えてすぐに制服をハンガーに掛けて奏さんを入れる。


「良いよ。奏さん、朝のままだけど」

「大丈夫だよ」


 部屋に入ると奏さんがすぐに何かをカバンの中を探しているようで、わたしは先に教科書とかを勉強机に置いてからローテーブルの方からコトッという音が聞こえた。


 振り返ると細長い包装紙にまかれた物が置かれてあったの。

 こっちに笑顔で話しているのが大きいかもしれないと話しているかもしれない。


「これって?」

「え、誕生日おめでとう。過ぎちゃったけど、直接言いたくて」

 少し前に十八歳の誕生日を迎えたばかりでプレゼントは今度会ったときって話していたけど。

「ありがとう。奏さん、うれしい」


 ラッピングを外して現れたのはシンプルなボールペンとシャーペンが一緒に入っていた。


「すごいきれいだね。あ、名前も入れてくれたの?」

「うん。一応ね」


 光沢の青いペンの軸には白く「Mikoto SEKURA」と刻印されているのが見えて、それがとてもわたしは少し特別な感じがしてうれしくなる。


「好きな色、知ってたんだ」

「うん、何となく持ってる持ち物で予想して。喜んでくれてうれしい」

「これだったら、受験とかも使えるからお守りにする。明日が指定校推薦なんだ」

「そうなんだ。めちゃくちゃ申し訳ないときに来ちゃった?」

「ううん、明日の方が余裕ないから、今日の方が良い……何か飲み物、飲む?」

「温かい物でいいよ」

「ココアになるけど」

「良いよ」


 わたしはそれを聞いて一階のキッチンから水を入れたケトルとココアパウダーと牛乳の小さなパックをトレーに乗せる。


「美琴、ココアを作るのか?」

「あ、部屋で作るよ。ここだと邪魔になるから」

「わかった」

「あれって、娘さんですか?」

「はい。先日十八歳、成人になりました」

「こんにちは」

「あ、こんにちは。風呂はどうする?」

「あ、先に俺が沸かしておく」


 編集さんも若い人は知らないかもしれないと思ったけど、いつもの編集さんだったら普通に知っているかもしれない。

 そのなかで二階に上ろうとしたときに奏さんがやってきて、トレーを持って先に部屋に入ることにした。


 電気ケトルのコンセントに挿してからすぐにお湯を沸かしている間にココアパウダーと一緒に新しいことをしているかもしれない。


「そう言えばミルクは温めるの?」

「温めなくて、熱々のココアに投入するから大丈夫」

「そうだね」


 わたしはココアを作り終えてからすぐに受験票とかが入った透明なファイルをカバンの中にしまっておく。


「美琴の受験票?」

「うん。あんまし盛れてないよ」

「そんなもんだよ」

 ココアとお湯、少ししてから牛乳を混ぜて飲むことにした。

「ケトルのコンセント抜いておくね」

「ありがとう」


 すぐに温かいココアを口に入れるととてもホッとして、明日の緊張も減るかもしれないと思っている。


「奏さんはどう?」

「あ、おいしいよ。懐かしいなって」


 それを聞いて奏さんが疲れているのか眠そうな顔をしているのがわかる。

 机に突っ伏しそうになっているのが見えて、寝落ちしたようだった。


 コンタクトじゃなくて眼鏡で来ているので寝てても安心した。

 クローゼットからブランケットを肩から掛けてあげる。


 一階にケトルとかを返しに行くとまだ仕事中だったので、しばらく待つことにした。

 午後六時、編集さんとの打ち合わせも済んだのか、にぎやかな声とガチャンと玄関のドアが閉まる音が聞こえた。

 一方で奏さんを起こさないといけないかもしれないと思った。


「奏さん……起きて」

「ん、あ、ごめん。寝てたみたい」

「ありがとう」

 そのときに部屋のドアがノックされ、父さんがこっちに来ているのが見えた。

「ごめんね、二人とも部屋に行ってもらって。編集の湯島さんとの話が終わったから」

「わかった」

「あ、奏くん。ご飯食べて行く?」

「あ、俺は弟が待ってるので」

「そうか。仕方ない。また今度は飲もうか」

「あ、ぜひ」

 父さんと奏さんは趣味とかが合うみたいでよくバイクとかについてとか話しているかもしれない。

「あ、美琴、またね」

「うん。また」


 そう言って玄関で見送った。


 玄関のドアを閉めると明日の確認をするようにと言われているので、父さんと料理を作りながら話す。


「明日はどんな感じ?」

「あ、いつも通りの時間に大学に行く。日菜と改札内で待ち合わせしてるんだ」

「そうか。奏くん、驚いてたな。俺のこと」

「そうだね。でも、父さんの小説が人生に影響を受ける人もいるかもよ?」

「ああ……そうだね」


 わたしはそう言って帰ってきた母さんと三人でご飯を食べて、お風呂に入っていつもの時間に寝て受験に向けて充電をした。

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